古典バレエにオリジナルな動きを効かす川口節子の振付

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

演出・振付:ダマラ・ベネット、ヘンリー・バーグ、ヘンリー・バーグ、川口節子『くるみ割り人形』

川口節子バレエ団

今回で7回目を迎えた川口節子バレエ団の『くるみ割り人形』は、隔年で上演されてきたバレエ団の風物詩である。元々はサンフランシスコ・シティ・バレエスクール芸術監督のダマラ・ベネットと同じくバレエスクールのヘンリー・バーグ、そして主宰の川口による共同振付で始まった川口節子バレエの『くるみ割り人形』も、2002年にはクリストファー・ストウェルが「雪の情景」を再振付するなど、年を追うごとに洗練されてきた。さらに今年はバレエテクニックの枠にとらわれないユニークな振付や大胆な演出で定評のある川口らしい工夫も加わって、このバレエ団らしい『くるみ割り人形』になったといえるのではないかと思う。

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

雪のちらつく映像が投影された紗幕の前、無邪気に遊んでいる2人の兄弟の姿が象徴的な冒頭。幕開きの定番のクリスマス・パーティでは、男の子と女の子の些細なやりとりなど、どこにでもありそうな微笑ましい情景が広がっている。子どもらしい日常的な動きを散りばめることで、クリスマスを楽しむ少年少女たちの姿が生き生きと魅力的に描かれている。
ねずみとくるみ割り人形の戦いのあと、兵隊が救急者の箱に入って運ばれてしまうと、くるみ割り人形に扮したダンサーがベットに乗って登場する。こうしたちょっとした場面にも川口の粋な演出がなされている。

クララ(小澤祐貴子)とくるみ割り王子(水野陽刈)が雪の女王の太田沙樹から見送られて到着したお菓子の国の入り口では、未来の情景が走馬灯のように映し出され、作品のドラマツゥルギーが強調される。

第2幕「お菓子の国」は、様々な踊りを見せる宮廷の宴、いわゆる余興(ディヴェルティスマン)と呼ばれる場面であり、突然の場面転換が唐突に感じられることも多いが、川口は物語が本来持つドラマツゥルギーを重視することで、舞台作品としての一貫性を貫こうとしているように感じられた。
「お菓子の国」では、さらにユニークな振付が花開く。アラビアの踊りで、3枚の布とそれを持つ子どもとラッパを吹く男を登場させたかと思えば、中国の踊りでは、6名の女性のアンサンブルの前で棒を振り回す少年が踊るといったように、ほかの舞台では目にしたことのないチャーミングな演出・振付で、オリジナリティ溢れるお菓子の国を展開。

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

ロシアのトレパックの踊りではくるみ割り人形役でも活躍した水野が伸びやかでダイナミックなジャンプを見せ、近年の成長の著しさをみせた。またバラの精の高木美月がひと際丁寧かつ可憐な踊りで作品に気品を付け加えた。
ラストの金平糖の精(加藤亜弥)と王子(碓氷悠太)のグラン・パ・ド・ドゥでは配役にぴったりの2人が登場。加藤は楚々とした風情をもって振付を正確に踊り、碓氷は日本を代表するバレエノーブルの一人として、堂々とした振る舞いで加藤をサポート。ここでも川口は、舞台を垂直に上下するセリ舞台を使ってラストに祝祭的な華やかさを加味する特別な演出を用意。中部フィルハーモニー交響楽団の演奏と東郷少年少女合唱団の音楽的なサポートも得て、バレエ団らしいオリジナルな舞台を創り上げた。
(2010年12月23日 愛知県芸術劇場大ホール)

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』 撮影/脇田博史

撮影:脇田博史

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