完成度の高い越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

演出・振付:ワレリー・コフトン、振付・指導:タチアナ・タヤキナ『くるみ割り人形』

越智インターナショナルバレエ

越智インターナショナルバレエの『くるみ割り人形』は今回で23回目。日本で最も長く上演し続けてきているバレエ団のひとつと言ってよいだろう。越智バレエのこの作品は、完成度と安定感において高いレベルを有している。今年は2公演のうち初日を越智久美子と越智友則、そして2日目に渡辺梢とワディム・ソロマハが主役を務めたが、完成度の高い演出に支えられた作品は、主役の交代によって揺るぐことはないということを感じさせられた舞台でもあった。

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

私が観ることができたのは2日目で、この日の少女クララは川口沙也加。プロローグで配役が紹介された後、大勢の人々が橋がかりを渡って舞台に登場し、人々が行き交うクリスマス・イヴの街の風景が劇場全体に映し出されていく。この日は本当のクリスマス・イヴ、劇場もまた魔法をかけられたかのように、あっという間に街の一部となった。
クリスマス・パーティでは華やかに着飾った大人たちが、子どもたちと一緒に特別の一夜を楽しんでいるようだ。ダンサーたちの気品に満ち溢れた踊りは宮廷時代の貴族達の華やかな宴を髣髴とさせる。狂言回しを務めるドロッセルマイヤー役のセルゲイ・ボンドゥールは圧倒的な存在感で、全体のアクセントの役割を果たしていた。ドロッセルマイヤーのプレゼント、ハレキン人形役の少年・久野直哉は昨年よりすっかりと大人びた表情をみせ、コロンビーヌ人形の松尾梨帆やヌビア人形の山本恵里菜、コンスタンチン・ヴォノボイも優れたテクニックと等身大の表現でリアルな人形ぶりをみせた。

越智インターナショナルバレエ団 『くるみ割り人形』ワディム・ソロマハ 撮影/野田直樹(テス大阪)

真夜中のねずみの王様とくるみ割り人形の戦いの場面ではキエフ・バレエの男性ダンサーのダイナミックなダンスが舞台狭しと展開され、越智バレエの『くるみ割り人形』の見どころのひとつとなっている。もうひとつの目玉は、クララとくるみ割り人形から変身した王子との出会いから冬の松林への転換、そして雪の結晶を両手にもった雪の精たちのアンサンブルだ。舞台を走り抜けていく雪の精たちは、床に伏せたり、両腕を上下に動かしたままクルクルと回転しながら移動して、幻想的な風景を作り出す。そして大がかりなバトンを駆使した転換により、お菓子の国がドラマティックに観客の目の前に現れるのだ。
クララの渡辺梢と王子のワディム・ソロマハは大人の落ち着きをもって、終始舞台を支配、安定感のある踊りで観客を惹きつけた。彩り鮮やかなお菓子の国では、ロシアの踊りの鈴木芽衣、フランスの踊りの吉冨由見子がいずれも伸びやかかつチャーミングだ。またこのバレエ団の花のワルツは、バレエ団ダンサー総出演の華やかなコール・ド・バレエによって、クリスマスの祝いに相応しい豪華な饗宴となった。
(2010年12月24日 中京大学文化市民会館プルニエホール)

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ団『くるみ割り人形』 撮影/野田直樹(テス大阪)

撮影:野田直樹(テス大阪)

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