歌舞伎とシェークスピアを現代的に融合させたパンク歌舞伎『マクベス』

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

構成・演出:原智彦、振付:原智彦、瑞鳳澄依、永野昌也『マクベス』

パンク歌舞伎

元ロック歌舞伎「スーパー一座」で座長として一時代を築いた原智彦は、大須ロック歌舞伎を解散後、ハポン劇場プロジェクトを結成し、ロック歌舞伎の精神を受け継いだ公演を精力的に行ってきた。今回は名古屋能楽堂を舞台に、「ロック」あらため「パンク」歌舞伎と銘打つ新作を発表した。
原にとってのシェークスピア『マクベス』は、1985年に「スーパー一座」でヨーロッパ・ツアーを行った思い出深い演目だという。それはミュージシャン・タートル・アイランドの出会いによって新たな作品として創造されることになった。

『マクベス』 撮影/安野亨

言葉、踊り、音楽、歌、映像が混然一体となった新作は、日本の歌舞伎創出当時の混沌とした状況をも想起させる破壊的かつ祝祭的エネルギーに満ちており、「パンク歌舞伎」と名乗るに相応しい舞台であった。
爆発的な音の洪水に襲われる冒頭、能楽堂の橋がかりの上部に色鮮やかな幾何学的映像が流れる。チラつく映像の光と色彩に、ギター、ベースのほか、ソプラノ、打楽器に琴まで加わったアジアン・エスニック音楽が空間の猥雑さを増幅させる。観客にはまるで伝統的な能舞台に紛れ込んだかのように感じられたかもしれない。一般公募で集まった多数の黒子が縦横無尽に舞台上を走り抜け、その混沌さを引き立たせていく。

『マクベス』 撮影/安野亨

原自身が演じる魔女・ヘカテの、3人の妖巫を介した予言によって、スコットランド王への野望をもったマクベスとマクベス夫人。2人が言葉と欲望の虜となり、破滅していくまでを描いた悲劇マクベスが、魔女に操られ、人生を翻弄される人物として描かれた本作品。亡霊や使者などの多数の黒子が摺り足で行き来し、ヘカテの言葉が人物たちに乗り移るなど、歌舞伎のみならず、文楽や能など日本の伝統芸能の手法も駆使しながら、現代のシェークスピアを作り上げている。

またこの芝居にはマクベス夫人や3人の妖巫、人形などのダンスが随所に登場し、インド舞踊や日舞、舞踏なども想起させる配役独自の踊りがその人物の存在の証のように作品全体を貫いている。また全編を通じてマクベス役の永野昌也の存在感が際立っていた。
ミュージシャン・タートル・アイランドのほかにも、沢山の衣装のデザインと製作で舞台のヴィジュアル面を支えた久野周一や、美術・題字の西島一様、宣伝美術のアマノテンガイなど、地元のアーティストたちが創作に参加。歌舞伎とシェークスピアを現代的に融合させた独創的な舞台は、愛知の多彩なアーティストたちの参加を得て、舞台と観客とが一体感をもつ祝祭空間となった。
(2010年12月23日 名古屋市能楽堂)

『マクベス』 撮影/安野亨

『マクベス』 撮影/安野亨

撮影:安野亨

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