狂った黒田育世、近藤良平を翻弄!?その懸け引きに終わりはない
- ワールドレポート
- 大阪・名古屋
掲載
ワールドレポート/大阪・名古屋
- 小島 祐未子
- text by Yumiko Kojima
構成・演出・振付・出演:近藤良平&黒田育世『私の恋人』
〈パフォーミング・アーツ・ウェーブ〉
男性集団コンドルズの主宰・近藤良平と、女性集団BATIKの主宰・黒田育世。人気・実力の両面で日本のコンテンポラリーダンス界を代表する存在にして、好対照のふたりが、デュオ作品『私の恋人』を愛知で初公演した。
同作は初コラボレーションとなった04年以降、2度の改訂を経ており、今回も"あいち版"と呼んでいい新鮮なステージに。なんせ、開演前から目に飛び込んできた舞台美術の多くが、会場となった愛知芸術文化センターのどこかから持ってきたものだというんだから!
工事現場で見かける"黄色と黒の棒"とか赤いコーンは一体どうやって......。そんな裏話は終演後のトークイベントで黒田の口から明かされたのだが、そのあたりの近藤のセンスに彼女は感服しきり。思えば作品全体に渡って、黒田の自由奔放さを存分に生かしつつ、要所要所を近藤がシメるという具合だった。
幕開け、自転車の二人乗りで客席通路に現れた近藤と黒田は、ご当地を意識して『燃えよドラゴンズ!』を鼻歌しているのだが、歌詞・メロディともにデタラメ。「おいっ!」とツッコミを入れたくなるドラ党の気持ちもおかまいなしに、自転車は舞台上へと乗りつける。
常に従来の概念を打ち破ってきたようなダンサーふたりの競演だ。舞台に上がってからも、言葉は多用するし、演技も見せれば客イジリもする。コントさながらの掛け合いには笑いがあふれ、観客は一瞬も目が離せない。というか、気を抜けない。特に"ちょっとイタい女"に扮する黒田と彼女をなだめる男役の近藤の場面は、ふたりの演技の真骨頂!?
黒田は観客にヤクルトみたいな物を渡して無理やりにでも飲ませたり、頭で板を割って流血したり、さらには血を吐いて近藤のTシャツを真っ赤に染めたり、ホントやりたい放題なんである。それに近藤は翻弄されつつ、どこかニヤニヤしながら彼女を見守るナイトぶり。
なんとも素敵な恋人同士だ。近藤が言っていたが、デュオの場合、相手との距離や向きだけでも自然といろんなニュアンスが出てしまう。まして、『私の恋人』という題名を踏まえて観ればなおさら。観客は舞台上の男女に、思い思いの妄想を膨らませたことだろう。
演劇的な趣向のことを書き連ねてしまったが、ダンスそのものがいちばんの見どころだったことは言うまでもない。ふたりの身体は、時に恋愛の甘い時間を、時に切ない関係を浮かび上がらせた。また、ふたりが同じ振付を踊る場面はどれも興味深くて印象に残る。同じ動きをしても違う感触があったり、この場面はどちらがリードして振付したのかなど考えさせられた。そういう私の反応は、ふたりがそれぞれカンパニーを率いている舞踊家だからこそ起きたものではないか。
女性の黒田が、男性の近藤を圧倒するほど高く跳び、足を蹴り上げる姿は、美しくも異様な激しさに満ちていた。男女の懸け引きに、ある意味、主宰者同士の懸け引きが重なった『私の恋人』。
男と女の問題に答えや終わりがないとすれば、このデュオも近藤VS黒田のライフワークとして果てしなく続いていくのかもしれない。
(2011年2月10日 愛知県芸術劇場小ホール)
撮影:南部辰雄