純粋すぎる心が生んだ究極の2つの愛の物語、アルティ・プロジェクト

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ
text by Atsuko Suzuna

演出・振付:河邉こずえ『ゆきおんな』、望月則彦『オンディーヌ』

アルティ・アーティスト・プロジェクト(A.A.P.)ブヨウ部門

「劇場は発表する場であるだけでなく、芸術作品を創造する場であるべきだ」ということが最近盛んに叫ばれている。ここ数年、制定に向けて話題に上る「劇場法」も、この考え方の上で検討が重ねられているわけだ。"創造する"ということは、劇場内に創り手がいる、ダンスで言えば振付家やダンサーがいる、欧米のようにレジデンシャル・カンパニーがあるというのが理想型。日本では、まだ思い浮かぶダンスのレジデンシャル・カンパニーは片手にもまったく足りないわけだが、2004年に立ち上がって7年、7回目を迎える、このアルティ・アーティスト・プロジェクト(A.A.P)は、そのハシリの一つだと考えて良いだろう。

『オンディーヌ』オンディーヌ:福谷葉子

ただ、新潟のNoismのように給料制で毎日ダンサーが通い......という形にまではなっていないのは残念なのだが、それぞれのメンバーが別の活動も行いながら、登録制で必要に応じてリハーサルを重ねて京都府立府民ホール"アルティ"という公立劇場主宰のカンパニーとして作品を創り上げている。現実的に、今後劇場での"創作"が重視されていくなかで、全国を見渡して、常勤給料制で振付家やダンサーを雇うのがどうしても難しい劇場が多いとしたら、それが理想でゆくゆくは──ということはしっかり頭にたたき込んだ上で、まずアルティのように登録制のアーティストによる形で作品を創ってみるのも良いのではないかと思う。

『ゆきおんな』

さて、今回の公演の内容に移ろう。"─「和」と「洋」の女の悲恋─純粋すぎる心が生んだ究極の2つの愛の物語"とサブタイトルがついたこの公演、「和」が『ゆきおんな』、「洋」が『オンディーヌ』。
まずはじめに上演されたのは河邉こずえ振付の『ゆきおんな』、ラフカディオ・ハーンの『雪女』を原作にした作品。深々とした雪の中に迷い込んだ樵(きこり)の茂吉(桑田充)を、美しく透き通るように真っ白な腕で、抱きしめてキスでもするように殺してしまう雪女(山口陽子)、眼に残るシーンだった。

一緒にいた若い樵・巳之吉(榎本心)は、見たことを誰にも言うなと念押しして、見逃す雪女。その後、お雪という人間の女性になって巳之吉の前に現れ、結婚し子供をもうける。幸せなある日、巳之吉が「昔、お前にそっくりな......」と、口止めされたことも忘れあの時のことを話してしまう。お雪はその裏切りに、巳之吉を殺そうとするが子供を見て殺せず、みるみる溶けて昇天してしまう。
お雪を踊った山口の、色の白さが薄幸と純粋を表したような雰囲気が作品に良く合っていた。そして、巳之吉を踊った榎本は若さが香りたつような素直な踊りに好感が持てる。これからの育ち方次第で、どんどん成長してゆくだろうことを感じさせた。

後半で上演されたのは、望月則彦振付の『オンディーヌ』。50分ほどの作品なのだが、さすがに、舞台の使い方、さまざまなCDから別々に選んだという音楽の使い方、踊りの構成の仕方がとても良く、見ていてあっという間と感じるものに仕上がっていた。ポアントは履かないものの、クラシック・バレエの美しいラインを諸所に活かした振りで、良いバレエ・ダンサーの実力を上手く引き出していた。

『オンディーヌ』

こちらは、男性の方が破滅する物語。水の精オンディーヌ(福谷葉子)と、人間で騎士のハンス(末松大輔)が恋に落ち、水界の王の引き留めにも関わらず「貞節を失えば彼の命はなくなる」という取り決めも意に介せず、2人は結婚する。しかし、人間界の常識、礼儀やお世辞がまったく分からないオンディーヌから、ハンスの心は徐々に離れ、もとの婚約者であるベルタ(宮澤由紀子)に惹かれるようになってしまう。やがて狂気に犯されるハンス。──ハンスの死と同時に、水界の王はオンディーヌから人間界の記憶を一切なくしてやる。最後には子供のように幸せそうに微笑むオンディーヌ。
とにかくオンディーヌ役の福谷が美しく、水の精のイメージにぴったりなのとともに、人間とは違う"生き物"としての純粋さ、無邪気さをよく体現していたのが良い。ハンスの確かなバレエ・テクニックに基づいての心情を静かに込めるようなソロも心にしみ入った。中ほど、ボレロのリズムを延々と刻むKARL JENKINS 作曲の「UN BOLERO AZUL(BLUE BOLERO)」が流れるなか、前方でオンディーヌが苦しみ、後方の段上で人間のカップル、ハンスとベルタが・・・というシーン。人間とそうではないもの、その存在の対比がとてもよく表され、響くリズムとともに深く心に残った。
(2010年3月13日 京都府立府民ホール"アルティ)

『オンディーヌ』ベルタ:宮澤由紀子、ハンス:末松大輔

『オンディーヌ』

『ゆきおんな』お雪:山口陽子、巳之吉:榎本心

『ゆきおんな』

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