ガツンと衝撃。新時代を感じさせる日本人アーティスト

ワールドレポート/大阪・名古屋

小島 祐未子
text by Yumiko Kojima

梅田宏明 振付・ダンス『Adapting for Distortion』『Haptic』

あいちトリエンナーレ2010

海外で評価を上げ、逆輸入的に国内で紹介される日本人アーティストは多い。梅田宏明もそんな存在のひとりだろう。私自身も〈あいちトリエンナーレ2010〉に彼が出品したおかげで、その実力&魅力を知ることとなった。

事前情報をもとにボンヤリと作品の感触を想像して足を運んだものの、現実の舞台は、いろんな意味で想像をはるかに超えて刺激的だった。
梅田の作品では〈音・光・身体〉が対等の関係にある。その指針を聞いた当初は、
「あまり踊らないのかな?」と思ったりした。
単純に考えれば、身体やダンスは"1/3"なワケなので......。しかし実際に彼の作品に触れてみると、踊るとか身体うんぬん以前に、パフォーミング・アーツやライブというものの根本を改めて考えさせられた。

2作品を同時上演する今回、まず〈錯覚〉をテーマにした『Adapting for Distortion』が始まった。同作では照明の代わりにプロジェクターを使ってスクリーンに幾何学的な光の線を映し、その前で梅田が踊るのだが、彼の身体が挟まれることで光はいっそう生き生きと観客の目に飛び込んでくる。まるで、線も梅田と一緒に踊っているような感覚だ。
そして続く『Haptic』は〈色〉がテーマ。

あいちトリエンナーレ2010

梅田は「光の粒としてダンスを目に届けたい」という発想から、光の周波数である〈色〉を扱った。こちらでは先の白い衣裳から真っ黒な衣裳に着替えた梅田が、色の変化していく舞台上に身体を埋没させたり、力強く立ち現れたり。ダンス、振付の醍醐味をより押し出した。

あいちトリエンナーレ2010

両作品とも、観終わる頃には目がチカチカするような刺激物!? 音だって決して心安らぐようなものではなく、機械的なサウンドがクラブばりの大音量で観客を煽り、鼓動を速める。ただし、1作品は約30分ほどで、2作を観て適度な疲労感とともに満たされる心地。
正直に言えば、観る前はどこか頭でっかちな作品をイメージしていた。ところが、ダンサーの身体を前面に出す方法ではなく"観客の身体"へとストレートに訴える梅田作品のライブ感に、私は圧倒された。大量の音と光の中から聴こえてくる踊り手の確かな息遣いに生の躍動を、劇場自体が命を宿したようなグルーヴ感にはパフォーミング・アーツ本来の祝祭性を感じた。

しかも梅田はそれらをごく自然に実現させていて、肩肘を張ったところがないから爽やか。トークイベントでの発言を聴いても、新時代のアーティストという印象で頼もしい。
なお、このトリエンナーレで梅田は劇場以外でも光とサウンドによる体験型インスタレーションを出品している。ダンスだとかビジュアル・アートだとか枠にとらわれることなく、彼は自分の表現を模索しているだけ。私は自分の中に知らず知らず育っていたダンスやアートへの決めつけ、偏見を思い知らされて、ガツンと頭を殴られたような想いだ。
(2010年9月11日 愛知県芸術劇場小ホール)

あいちトリエンナーレ2010

あいちトリエンナーレ2010

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