DANCE BOXによるチャリティー公演『Dance Live in KOBE #1』
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掲載
ワールドレポート/大阪・名古屋
- 唐津 絵理
- text by Eri Karatsu
DANCE BOXによるチャリティー公演『Dance Live in KOBE #1』
DANCE BOX
NPO法人DANCE BOXは長年にわたって、関西のダンスの拠点として多様な事業を開催してきた。その成果を称え、2011年2月21日に「国際交流基金・地球市民賞」を受賞。そしてこの度、受賞会と、東日本大震災被災地のためのチャリティー公演が同時開催された。
阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けた経験を持つ神戸市長田町で活動を行ってきたDANCE BOX。今回の公演はその長田から、被災地である東北に向けてエールを送りつつ、共に考えていくための意思表明の場ともなった。約16年前に被災地となったこの土地に、今はたくさんのアーティストが集い、町の人々と共同しながら多数の創造活動が行われている。
これまでの体験から、「東北のアーティストたちともその経験を分かち合いたい」と語る代表・大谷燠。そして大谷氏の呼びかけに応えたアーティストは47組。1組7〜8分、計8時間を越える大盛会となった。下記に印象に残った作品を中心に報告する。
『Dance Live in KOBE #1』
【第1ラウンド】
出演:岩下徹、大西由希子、神戸野田高等学校・創作ダンス部、KiRing・JM、淡水、千葉聡佳、椙本雅子、内山大、ハイディ・S.ダーニング(ゲスト:野中久美子)、 宮北裕美(ゲスト:鈴木昭男)
通常とは反対向きに設営された観客席。その向かいの観客から見下ろすように配置された舞台空間に、身体を預けるように静かに分け入る岩下徹。ゆったりとした平坦な動きの中、淡々と時間が過ぎ去る。身体を開いてすべてを感じ、ただひたすらに時の経過を味わう。幕開きに相応しい静謐な舞踏作品だ。
他方、神戸野田高等学校創作ダンス部は、若さはじけるパワーと高校生らしいユニークな動きで元気いっぱいに被災地にエールを送る。お腹の大きな千葉聡佳もただそこに居ること、妊婦という自らの身体を提示することで命の存在を問うた。グレーのボディースーツの椙本雅子は、スピード感溢れる動きで床に這い蹲っては逃げ惑うようなダンスを見せたが、そこにはこの悲惨な現実を目の前に何をなすべきか、悩み悶える今日の我々の姿が重なって見えた。
内山大は意表をついて客席から登場し、演説調の声に反応したアクティブなパフォーマンスを披露。宮北裕美は、ゲストに迎えた鈴木昭男に打楽器を持たせ、完全なる即興で動物のような原初的な舞を踊る。太鼓と身体、呼応する魂のリズムにダンスの起源をみたような気がした。
【第2ラウンド】
出演:吾妻琳、阿部綾子、森田かずよ、SUGAR&salts、中西ちさと、双子の未亡人、村上和司、南弓子、きたまり
つば広の帽子を被った吾妻琳は、ミニマルな音楽を使用し、少しずつ崩壊していく身体と空間の関係性を描く。第1ラウンドの大西由希子に続いて、ここでも被災地に思いを馳せ、祈りをテーマにする作品も多かった。阿部綾子、森田かずよは、舞台中央にて天と地を見つめながら、被災地を思い、祈りの舞を捧げた。SUGAR&saltsもまた、男性4人が祭りのように輪になって踊る。周りの男たちが手拍子足拍子で囃し立てる中、中央に進み出たダンサーが一人ずつアクロバティックな踊りを披露。死を弔う祭儀を現代の長田に再現した。マイクをもち言葉の断片を口走りながら登場したウミ下着主宰の中西ちさと、ボロボロの動物の気ぐるみを被り、釣竿をもって現れた女性2人組みの双子の未亡人は、独自な表現でこの日のための特別な時間を演出。村上和司はいつもテーマとしている「Red Man」にこだわり続け、赤色の衣装や競泳水着のトレードマークは健在。ワンピースを身に纏った南弓子が流麗なソロを見せた後、ここで終了のアナウンス、かと思えば「私も踊る!」と客席から叫ぶきたまりの声。観客の間を縫って登場したきたまりは、チャーミングな振る舞いとユニークな動きで第2ラウンドを締めくくった。
【第3ラウンド】
出演:アンサンブル・ゾネ、飯田あや、下村唯、原和代、伴戸千雅子、鎌田牧子、文、佐久間新、砂連尾理
第3ラウンドの幕開きは、アンサンブル・ゾネより4人の女性ダンサーが、3月に発表したばかりの『Still MovingⅡ』のワンシーンを披露。ダンスミュージックで激しく踊る飯田あや、下村唯は携帯の音を利用したパフォーマンス、長身の原和代はゆったりとしたソロダンスをみせた。伴戸千雅子はギターを演奏する男性と幼児を連れて登場し、短いフレーズの歌と単純でユニークな振付を繰り返す。独りよがりな母のダンスと他の家族(らしき他者)との微妙な違和感。家族でも踏み込めない距離感が露呈される。呼吸をテーマにした鎌田牧子、ArtTheater dB 神戸の事務局長でもある文は、フワリと漂うオレンジのワンピースを身に着け、流れるような旋回舞踊で原始へと思いを馳せた。砂連尾理は垣尾優とデュオを製作。男二人が手をつないで登場する奇妙な場面から、バナナの皮をぶつける等、ナンセンスなシーンの連続。無意味なユニゾンを披露したかと思えば、ダンサーによる日常的な動きを差し挟むことで、動きの質そのものを問う作品を提示した。
【第4ラウンド】18:25開始
出演:東野祥子、重里実穂、里奈、佐藤健大郎、鞍掛綾子、松本芽紅見、TEN(ゲスト:三林かおる)、福岡まな実、関典子、竹之内淳
東京から参加した東野祥子は、ライブハウスだったこの劇場に以前から備え付けられている柵や階段等も利用し、場所を意識した極めて高い強度のダンスを見せた。重里実穂は髪を振り回すほどの激しいダンス。黒のワンピースを身に着け赤いハイヒールを持って登場した里奈は、屹立しては倒れる振付を何度も繰りかえす。佐藤健大郎は一緒に登場した男性とポスター程度の大きさの板を空間に多様に配置し、様々なものに見立てることで観客の想像力を引き立たせた。鞍掛綾子、松本芽紅見、福岡まな実、関典子はいずれも今の気持ちに寄り添う個性的な女性ソロダンスを踊った。「すべてと踊る」をコンセプトにした竹之内淳は、東日本大震災被災地に際して自らしたためた文章を言葉として発しながら踊ることで、身体から魂をせり出すような渾身の舞踏をみせた。
【第5ラウンド】
出演:山下残、西岡樹里、川崎歩、田村博子、今貂子、北村成美、セレノグラフィカ、山田うん、ヤザキタケシ
山下残は、7〜8分という持ち時間を作品の構造に利用し、観客に時間を計ることを依頼。選ばれた客が「終わり!」と合図を告げるまで1〜2分程度の即興を2回繰り返すコンセプチュアルな作品を披露。椅子とりんごを小道具として小品を創作した西岡樹里。鍋いっぱいに福島のコメを炊いて登場し、公演後に小さなお握りをふるまった川崎歩。白塗りに赤のドレス、金色の扇子を携え、迫力ある舞踏で存在感たっぷりの今貂子。はじけっぷりが気持ちいい北村成美は男性客の近くに近づいては紫の下着を見せつけダンスのエネルギーを爆発させた。セレノグラフィカの2人は阿吽の呼吸で息の合ったコンタクトダンスを踊ったが、大人の余裕の間合いに穏やかな風景が広がって見えた。東京から参加した山田うんは音楽を媒体にして身体に寄り添う自然体のダンスを披露。ラストを飾ったのはヤザキタケシ。アコーディオンの演奏と共に、ピエロのような道化を見せる。鳥笛を取り出したり、瀕死の白鳥を真似たり、羽ばたく希望と現実の絶望をアイロニーとコケティッシュに見せた作品で短いながら凝縮されたパフォーマンスとなった。
全47アーティストの作品を顧みるに、「振付」される以前の、素の「身体」そのものの存在を問うパフォーマンスや、身体の内から溢れ出る祈りのようなダンスが多かったように思う。多くの死に直面することで、原始的な祭儀のなかで巫女として存在した踊り子の本質が目覚めてしまったと感じたのは気のせいだろうか。舞踊家の「生贄」としての宿命、そんな言葉が何度も木霊した。
また時代への問題提起的な作品も多く見られた。原初的な身体の叫び、そして個としてのリアルな身体と表現。生命の危機に際して、プリミティヴかつ同時代的なダンスのもつ特質が意図されずとも滲み出た、まさしく祭礼のような宴だった。
(2011年4月16日 ArtTheater dB 神戸)