バットシェバ舞踊団からの帰国公演、女医ダンサー・曽根知

ワールドレポート/大阪・名古屋

桜井 多佳子
text by Takako Sakurai

BEFORE PUPA by Tomo Sone + Guests

曽根知演出・振付『BEFORE PUPA』

数年前までバレエ公演の舞台に立っていた曽根知。『ジゼル』のミルタなどで、知的で品の良い踊りを見せていた。その彼女が、産婦人科の医師としても活躍していると知ったときも驚いたが、2008年9月からバットシェバ舞踊団で研修をするためにイスラエルに旅立ったと聞いたときも、びっくりした。バレエの道をひたむきに歩むタイプと思い込んでいたからだ。
現在もイスラエルで研修中の彼女は、平成22年度京都市芸術文化特別奨励者の認定を、コンテンポラリー・ダンス、バレエという分野で出身地京都市から受けた。今回の公演は、奨励金を支給されたことで実現。いまの彼女を見る良い機会となった。
出演者は、曽根と3人のゲスト。男性のアビダン・ベン・ギアットは、イスラエル生まれでバットシェバ舞踊団を経て、現在インバル・ピント&アヴシャロム・ポラックダンスカンパニーに所属。女性のアヤラ・フランケルはイスラエルに生まれ、社交ダンスやラテンアメリカダンス、コンテンポラリー・ダンスを学んだダンサー。もう一人の女性、タマー・グロスはチリに生まれ、エルサレムでダンスを学び、バットシェバ舞踊団などで活躍してきた。

最初の『BULMUSE』はギアット演出・振付。暗闇のなか白く発光する全身タイツに身を包んだダンサーが床を這う。柔らかで歪(いびつ)な動きは不思議な生命体のよう。白い全身タイツには、オレンジ色の、まだら模様。その模様部を生命体は自ら外し、全身黒づくめの男性がそのオレンジ色の模様を自分の身体に貼り付けていく。カタチを変えていく生命体は、われわれの眼には見えないが、この世界にも確かにいるようにも思えてくる。舞台後方から手前へと移動する白い柵は、絶対的な、しかし、ひょいと飛び越えられる「境界線」を示しているようにも。想像力を刺激し、ユーモアにも富んだ作品だった。

「BOLMUSE」撮影:井上 大志(写真はゲネプロより)

『A message』は、タマー・グロス演出・振付の映像作品(映像制作:イツハク・マーラー)。深い森(エルサレムの森なのだそうだ)のなか、手付かずの自然のなかを茶色のコスチュームのダンサーが走り、踊る。木に備えられた電話を受けたり電気のコードらしきものを切ったりもするのは、テクノロジーに対する警鐘か。横たわるダンサーの周りに枯葉がまとわりつき、やがてダンサーの姿が見えなくなり、自然と同化してゆくようなシーンが面白い。
続く『Post message』 は、映像と同じ衣裳のダンサーが舞台で踊るが、動きに変化はあまり見られず、映像からライブへの移動の新鮮さが感じられなかったのが残念だった。
最後の『BEFORE PUPA』 は、曽根の演出・振付で、彼女の出演はない。自分の姿を映しつつ、ガラスのように向こう側も透けて見える鏡を効果的に使っている。自分の姿だと思っている像が他人であったり、他人だと思っている人間が自分だったり。Pupaとは蛹(さなぎ)。蛹の前は、まだ自己形成の前。何にでも生まれ変われるエネルギーはあるはずだ。
久しぶりに見た曽根知は充実した表情。コンテンポラリー・ダンサーとして振付家としては未知数だが、ダンスが根っから好きという気持ちに正直に生きていることは見て取れた。
(2011年4月23日 京都府立府民ホールALTI)

「BOLMUSE」撮影:井上 大志(写真はゲネプロより)

「BEFORE PUPA」撮影:井上 大志(写真はゲネプロより)

撮影:井上 大志(写真はすべてゲネプロより)

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