地元ダンスチームをアオキ裕キ、小野寺修二、遠田誠、山田うん、森下真樹他が指導
- ワールドレポート
- 大阪・名古屋
掲載
ワールドレポート/大阪・名古屋
- 唐津 絵理
- text by Eri Karatsu
クリエイティブダンス フェスティバル2010 「灼熱オドリタイム」
■アーティストの作品
『ソケリッサ!』出演:アオキ裕キ、富永恭弘ほか
『もう一つの話』出演:佐藤亮介、鈴木美奈子、藤田桃子、小野寺修二
『独楽犬イルツキー』 出演:遠田誠、森下真樹
『カサかサカ』 出演:山田うん、川合ロン
■地元参加者の作品
『ハチタチハ』 出演:きらりん☆ももんが/振付:山田うん
『元気is 歪 ・ ワイ ・ Y』出演:元気ィーズ Wai・ワイ・Y /振付:遠田誠
『ある話』 出演:D- TRUE DANCE SCHOOL PADOM/振付:小野寺修二
『花の時間』 出演:ワークショップ参加者/振付:アオキ裕キ
多治見市文化会館は、これまでも地元の参加者とプロのアーティストとの交流から生まれるダンスに積極的に取り組んできたが、今回は昨年度よりさらに本格的に地元のダンスチームとプロのダンサーの共同制作に取り組んだ。
10日間にわたるワークショップを通じて、地元のダンサーたちを指導し、作品を創作したのは、アオキ裕キ、小野寺修二、遠田誠、山田うんというダンサーとしても、また振付家としても今のりにのっている4名のアーティスト。そして彼らの要求に誠心誠意応えたのは、いずれも多治見で活動を続けている熱心な指導者の率いる3つのダンスチームであった。公演では地元参加者の作品と指導したアーティストの作品の組み合わせで、全8作品が並んだが、どれもバラエティに富んだ仕上がりで、その多様性とエネルギーに充ちた舞台に、身体表現の可能性をあらためて感じる好機となった。
まず最初は、小野寺修二の指導したDーTRUE DANCE SCHOOL PADOMAの『ある話』。5名の中学生が小野寺のパントマイムから発展させた間合いやそのズレを重視した動きに挑戦。「リーダーになりつつ、フォロワーになること」を指導したとアフタートークで小野寺が語っていたように、通常のリズムに合わせるダンスとは全く異なる発想で、空間と身体、さらにはダンサーどおしの関係を意識した濃密な作品を創り上げた。続いて、講師作品として、小野寺率いるカンパニーデラシネラによる『もう一つの話』を上演。少女作品と同様にテーブルや椅子を使いながらも、空間をどのように意識しているのか、そういったことも非常に明確に見えてくるプロ作品になっており、2つの作品を合せて見ることでより小野寺の動きの意図がクリアだった。
次に発表したのは、アオキ裕キ振付による『花の時間』。この作品は、愛知県外から募集した一般のワークショップ参加者とチェリストの松田直子の出演によるもの。自らが選んで持ってきたモノたちを舞台上手において、その周りを取り囲むように花のコサージュをつけた出演者が座っている。ゆったりとした時間が流れる。時折、それぞれのソロを交えつつも、大方は無理のない自然な動きが中心に構成され、誰もがダンスをすることへの自由に気づかせてくれる心地良い時間が広がっていった。講師作品はアオキと6名の路上生活者による『ソケリッサ』。タイトルは「それ行け、前に進む」という意味をこめた造語だということ。リーダのアオキが真ん中で彼らをリード、叫んだり、台本を読んだり、まねをしたりと、出演者が迷子にならないような工夫がなされている。おじさんたちの身体を眺めていると、その過去やその内にどんな思いがあるのか、その背後にある様々な思いが偲ばれてくる。一人ひとりの歴史を担った身体の強さをしみじみと感じた作品だった。
次に、元気ィーズ Wai・ワイ・Yに遠田誠が振付けた『元気is 歪 ・ ワイ ・ Y』。いつも元気いっぱいでまるで忍者のように素早く動き、跳ねる少女たちの持ち味を生かしつつも、少し歪めて新しい世界を見つけてもらうことを目指したという。沢山の少女たちが森下真樹のナレーションに合せて、客席から登場。パフォーマンスをしながらゆっくりと椅子をかき分けて舞台へ。舞台では素早く動き、忍者さながらの本領を発揮するが、側転や転回、ジャンプなどの日常的なトレーニングを何度も何度も繰り返すことで、訓練だと思っていたことが、振付になってしまうことや、舞台だけではない客席まで意識した空間の広がりなど、「いつも」を少しズラすことで見えてくる違った世界に新鮮な驚きを感じたことだろう。遠田は地元作品の後にそのまま自らの作品『独楽犬イルツキー』を続け、全体でひとつの小品に仕立てた。気づかぬそぶりで携帯電話で話しながら重なり合ったりおぶられたりする遠田と森下はコミカルだが、しだいにタイトルが示すように円を意識した様々な振付が登場。
彼らの軌跡を追っていると目が回ってしまうような素早さに圧倒されつつ、そこにはそれ以上にダンスの楽しさが溢れている。そういえば、回って遊ぶことこそ、子どもたちが大好きだった、踊りの本質だったな、と気づかせてくれる踊りの発露に充ち溢れた作品となっていた。
最後は、山田うん率いるきらりん☆ももんがチームの『ハチタチハ』。最初から激しい動きの連続に本当に参加者の子どもたちかしら、と目を見張る。山田が「子どもだからといって容赦しません」と語っていたとおり、大人の振付の時と同様に、即興や子どもたちによる自作などの手法も取られていたということだった。振付されている動きの量も半端ではなく、10日間の練習がどれだけのものだったのか、それにかじりついていった子どもたちの情熱と可能性に感心した。続く、アーティスト作品では、『ハチタチハ』の姉妹作品として山田うんと川合ロンが『カサかサカ』を上演。子どもたちの作品と同じ音楽を使用し、洗練された大人のダンスでプロの舞台を見せた。山田の圧倒的な瞬発力と極めて柔軟な身体、そして踊りの密度にも圧倒された。
アフタートークでは参加者たちも口を揃えて「これからが本当のスタートだ」と語っていた。多治見が地元で蒔いたいくつかの種が次にどのように育っていくのか、今後の参加者の動向にも注目していきたいと思う。
(2010年1月24日 多治見市文化会館大ホール)