脱力と力強さ 康本雅子の痛快ソロパフォーマンス

ワールドレポート/大阪・名古屋

小島祐未子
text by Yumiko Kojima

康本雅子のソロパフォーマンス

「あいちアートの森=アートが開くあいちの未来=」
オープニング・パフォーマンス

ダンス分野での活躍はもとより、ミュージシャンや演劇人とのコラボレーションでも広く知られる康本雅子が久々に愛知へ登場。ソロパフォーマンスを見せた。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2010」へのプロローグ的な企画「あいちアートの森」のオープニングを飾ったのだが、その内容は幕開けの緊張と興奮、これからへの期待に満ちたものとなった。

「あいちアートの森=アートが開くあいちの未来=」 康本雅子 オープニング・パフォーマンス

「あいちアートの森」は愛知県各所で展開される地域密着イベントでもあり、康本のパフォーマンスは名古屋市の繁華街にある三井住友銀行(SMBC)の吹き抜け型イベントスペースで催された。冒頭、彼女は階段の踊り場に現われると、場内アナウンス嬢のごとく事前の注意を言い始める。ダンサーの中には声、ましてや言葉を発することに抵抗のある者も多いが、康本は心憎い笑いのセンスを垣間見せながら観客の気持ちを軽やかにつかんでいく。
ちょっとハイソな婦人を演じるように階段を降りてきた康本の姿は、おしゃれなジャケットにスカート、帽子。キュートな彼女の身体にはよく似合っている。ところが、メインフロアまで来ると膝をガクガクさせながら崩れ落ち、つんのめって倒れる。きれいな女性の大コケ。奇妙な光景である。"その女性"は何事もなかったかのように起き上がると、もとの踊り場に戻り、再び降りてきてはまたガクガクしてコケる。しかも、この行為はどんどん拍車が掛かっていく。コケてから冷静にバッグの中身をぶちまけては拾ってみたり、自分で散らかした小物の数々に驚いて悲鳴をあげたり、挙げ句の果てには怪電話を受けるコント(!?)が始まったり、"その女性"の自作自演の世界が色濃くなっていった。

中盤に差し掛かったあたりで音楽が入ると、キャラクターの雰囲気が一転、立っていることもままならなかった女性像が毅然とした表情に切り替わる。彼女はソファに腰掛け、しきりと足をモゾモゾさせる。まるで、足が何かを言いたがっているみたいに。やがて、たどたどしく靴を脱いだ彼女は徐々に激しく踊り始めた......! 音楽が入ってからより明快に踊り出したのは、ダンスに音楽が必需品であるという意味ではないだろう。それはスイッチであって、きっかけに過ぎないはず。
一見すました女性の中に眠る"表現への欲求"を通して康本は、誰の中にもアートの泉があることを示唆した。ただ、靴を脱いでからのパフォーマンスには、コンセプト抜きに康本自身の踊りたい欲求がみなぎっていたと思う。
そのセクシュアリティも爆発させながら、激しく大胆に躍動する身体には、以前観た時よりも強くタフな印象を受けたほど。

幕切れ、乱れた着衣を整え、靴を"片方だけ"履き直した康本は、階段を登って退場する。そして残された、もう片方の靴----。ダンスの余韻とアートの未来に向けた力強いメッセージが、ひとつの靴から伝わってきた。康本のセンスに脱帽である。
(2009年12月4日 SMBCパーク栄)

「あいちアートの森=アートが開くあいちの未来=」 康本雅子 オープニング・パフォーマンス

「あいちアートの森=アートが開くあいちの未来=」 康本雅子 オープニング・パフォーマンス

「あいちアートの森=アートが開くあいちの未来=」 康本雅子 オープニング・パフォーマンス

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