耳の聴こえない中国のダンサーと義足のダンサー 大前光市など日本人ダンサーが同じ舞台で踊った「希望の光へ」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ
text by Atsuko Suzuna

LWF企画「希望への光へ」

『SWAN』大前光市;振付、『samsara〜輪廻転生〜』上杉真由;振付 他

聴覚障がい者だけで立ち上げた団体、一般社団法人LWFの主催で行われた公演。"LWF"というのは、Love(愛)、World(世界)、Friend(友達)の頭文字を取った名称ということで、"愛する世界の友"という意味がこもっているのだという。

『千手観音』でも活躍した聴覚障がいを持ったダンサー、于滋嬌と王先賀を中国から招き、この公演の少し前にリオ・パラリンピック閉会式で踊ったことでも話題になった日本の義足のダンサー大前光市、日本の健常者のダンサー、上杉真由と金刺わたるも出演しての舞台。小さな会場だったが、とても見応えのある公演に仕上がっていた。会場には、手話の人、言葉で話す人が入り交じり、さまざまな障がいを持った人と健常者が入り交じり、最後のトークでは、中国語、日本語、中国の手話、日本の手話がリレーのように通訳されて、人間というのは本当に多様なものだなぁとつくづく感じた。

『SWAN』大前光市 撮影/直江竜也

撮影/直江竜也(すべて)

一番、気になったことで、また印象に残ったことは、"踊る"ということは音楽と切り離しては考えられないように思ってきた者として、耳が聴こえない状態で踊るということはどういうことなのだろう?──ということだった。聴こえなくても、振動は感じられる、その振動と、あと、目安として下手前と上手前で、白手袋をはめた手で指を折りながらリズムを視覚的に表す人がいる。ダンサーはじっとこれを見ているわけではないけれど、時折、目の端でそれを捉え確認し踊る。そうして踊られる姿は、音楽を聴きながら観ている身には、音楽に乗って踊っているように自然に見え、とても不思議な気がした。

『雨人行』于滋嬌 撮影/直江竜也

『雨人行』于滋嬌

『生命・蝶』王先賀、于滋嬌 撮影/直江竜也

『生命・蝶』王先賀、于滋嬌

『生命・蝶』王先賀、于滋嬌 撮影/直江竜也

『生命・蝶』王先賀、于滋嬌

上演された演目は多彩、大前光市と上杉真由がカップルのさりげない日常のなかの幸せを表現した優しいトーンのコンテンポラリー『オープナーズ』で幕を開け、男女仲良く凧揚げをする姿を描いた王先賀と于滋嬌の『凧箏舞』(凧は日本の文字で正しくは中国文字が使われている)。"静"と"動"のコントラストが素晴らしく、毅然とした意志を感じさせる上杉真由の『samsara〜輪廻転生』。ベートーヴェンの『運命』に乗せて王先賀と于滋嬌が心臓の鼓動を感じる幸せを表現した『生命之歌』。福澤里泉のヴァイオリン生演奏に乗せて、義足のダンサー大前光市が声にならない叫びをあげる『SWAN』。

後半には、中国の伝統的な民族衣装に身を包んだ女性の美しさ、可愛らしさが伝わる于滋嬌の『雨人行』(雨は日本の文字で正しくは中国文字が使われている)。人間というものに潜む "影" の部分を描いた大前光市と金刺わたるの『めまい』は希望を感じさせるラストがとても爽やかに感じられた。そしてラストは王先賀と于滋嬌の『生命・蝶』、幸せなカップルの女性が死んでしまい、その絶望から男性も死んでしまう──美しくも悲しい踊り、愛の尊さを感じさせる踊りで幕を閉じた。観て良かったと思える公演だった。
(2016年9月24日 クレオ大阪東館)

撮影/直江竜也(すべて)

『オープナーズ』大前光市、上杉真由 撮影/直江竜

『オープナーズ』大前光市、上杉真由

『凧箏舞』王先賀、于滋嬌 撮影/直江竜也

『凧箏舞』王先賀、于滋嬌

『samsara〜輪廻転生〜』上杉真由 撮影/直江竜也

『samsara〜輪廻転生〜』上杉真由

『samsara〜輪廻転生〜』上杉真由 撮影/直江竜也

『samsara〜輪廻転生〜』上杉真由

『生命之歌』王先賀、于滋嬌 撮影/直江竜也

『生命之歌』王先賀、于滋嬌

『めまい』大前光市、金刺わたる 撮影/直江竜也

『めまい』大前光市、金刺わたる

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