大島早紀子と白河直子による6年振りの新作ソロダンス『エタニテイ』の感動

ワールドレポート/大阪・名古屋

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

H. アール・カオス

『エタニティ』大島早紀子:構成・演出・振付・美術、白河直子:出演

H・アール・カオスが6年ぶり(オペラ『ファウストの劫罰』以来)に、新作『エタニティ』を上演した。愛知県芸術劇場の単独公演ということもあったが、チケットを売り出して間もなくソールドアウトだった、と聞く。大島早紀子と白河直子の舞台を多くの観客がまちわびていたことがわかる。
大島早紀子振付の最新作『エタニティ』は、盟友、白河直子がおよそ65分間踊るソロダンス。「エタニティ」とは永遠、永劫、(死後の)永遠の世界、無窮、不滅、などの意味がある。音楽はシュニトケの『イン・メモリアル』『レクイエム』ほかショスタコーヴィチの『ピアノ協奏曲』などを使用している。

崩壊の轟音とともに幕があき、ダンスは無垢な安らかな世界から始まる。人生は旅人のごとくであり、時間と連れ立ってともに生を刻む。そしてあらゆる記憶や様々な附随する断片が堆積し、身体は絶えず変容に晒されていく。そういった人間が生きて行くことに対する認識が背景にあって、「エタニティ」という時間とは相入れない世界への希求が描かれていく。
大島の振付は、かつては数名のダンサーが宙吊りとなって入り乱れて踊るなどの手法を駆使し、驚異的なダイナミックな展開をみせた。しかし、白河直子のソロ『瀕死の白鳥』(2010年)以降は、じっくりと白河の際立って優れた神秘的な身体性を探るかのような動きの構成となっている。白河もアクロバティックな能力を感じさせながらも、動きのラインにいっそうの深みを表して観客の心に共鳴を送ってくる。

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志

撮影/羽鳥直志(すべて)

ホリゾントには、美しい白を輝かす羽根のような素材が全面を覆っている。(島田清徳作品提供)鮮やかな色彩の照明を変換して空間全体を大きく変化させていく。舞台上には、テーブルと椅子一脚、そして鞄。時間の旅人がいつも脇にかかえている鞄である。そこには身体と時間にかかわるあらゆる断片が詰め込まれている。それは当初は規則正しく整理されていたはずだが、今では身体に纏わり付き紙吹雪のように舞い上がり、何処へか流れていく......。
白河のじつに表現力豊かな渾身の踊りにより、ラストは、永遠に刻まれる時間というものがその性質を消失し、「一瞬」に収斂してしまう奇跡が顕現したかのような、生と死が交換したかのような、かつて味わったことのない次元の感覚の高揚を感じ、私は、そこが劇場の観客席だったことが信じられない想いであった。
(2016年7月3日 愛知県芸術劇場小ホール)

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志

H. アール・カオス『エタニティ』撮影/羽鳥直志(すべて)

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