生贄の乙女役2人がまったく違った魅力を観せてくれたサイトウマコトの新作『春の祭典』
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掲載
ワールドレポート/大阪・名古屋
- すずな あつこ
- text by Atsuko Suzuna
サイトウマコトの世界Vol.5
『春の祭典』『アンタイトルド』『黄昏れる砂の城』ほか サイトウマコト;振付
サイトウマコトの世界Vol.5は、さまざまな振付家が力作を手がけるストラヴィンスキー作曲の『春の祭典』初演を中心に、Aプロ、Bプロ2つのプログラムで行われた。『春の祭典』は、Aプロ、Bプロ両方でキャストを変えて上演され、他の演目はどちらかという形。
私は両方のプログラムを観たのだが、先に観たのはBプロ。まず上演された『黄昏れる砂の城』は、泉鏡花の「春昼後刻」に想を得たもので、あがた森魚の歌詞付の曲や坂本龍一の曲を使って。道ですれ違った絶世の美女に命がけの恋をし海の底に漂う死体となる男「客人」──そんな物語を、客人をヤザキタケシ、絶世の美女役に関典子、客人が夢の中で出会う女に長尾奈美、後にこの場所を訪れる散策師に宮原由紀夫と、技術も表現もレベルの高いダンサー4人が踊り、独特の世界に引き込んだ。
Aプロ独自の演目は2つ。東福寺弘奈と宮原由紀夫が踊った『アンタイトルド』は、スケールの大きな魅力を持った踊り。井上陽水とAlliesの曲を使った『センチメンタル』は、舞台上で玉ねぎを囓り、圧力鍋で煮ての、昭和アングラ演劇の香り漂う作品で北原真紀とサイトウマコトが中年夫婦の人間模様を表現した。
そして、『春の祭典』。2つのプログラムの生贄の乙女が違うことで、まったく違った雰囲気の作品になっていたのが、とても印象的だった。Bプロの生贄の乙女は斉藤綾子。生まれたての赤ん坊のように、いたいけで非力、ピュアな魅力が感じられた。プログラムにサイトウが書いている、今の時代の生贄について考えた時思い浮かんだのが「コインロッカーベイビー」だということ、その感覚はこのキャストで表されていたように感じる。
『アンタイトルド』
撮影:井上大志
だが、Aプロはまた別の魅力があった。こちらの生贄の乙女は辻史織。彼女の踊りは、群舞も自らの世界に巻き込んでいくような迫力。運命の中で、何かに取り憑かれた狂女のようになる生贄。ぐいぐい引き込まれる強さを持ち、"女"の独自性のようなものも感じられる良い踊りだった。
この作品は、踊るキャストによって、もっとさまざまに印象を変えるのではないだろうか? ── 再演にも期待したい。
(2016年6月12日昼夜 伊丹アイホール)
『黄昏れる砂の城』撮影:井上大志
『センチメンタル』撮影:井上大志
『春の祭典』撮影:山下一夫
『春の祭典』撮影:井上大志
『春の祭典』撮影:山下一夫
『春の祭典』撮影:井上大志
『春の祭典』撮影:井上大志