デヴォン・トイシャー「バレエは自分を解放することが大事、ほとんど瞑想のようなものです」

ワールドレポート/ニューヨーク

インタビュー=ブルーシャ西村

デヴォン・トイシャー(Devon Teuscher ABTプリンシパル)=インタビュー

----あなたはペンシルベニア生まれですか。

デヴォン:はい、私はペンシルベニア生まれですが、そこには長くはいなかったです。生まれてすぐ、ユタに引越しました。そしてイリノイに引越して、次にバーモントに引越しました。

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© Camila Falquez

----なぜ、あなたのご家族はそんなにたくさんお引越しなさったのですか。

デヴォン:私の父の都合です。父は科学者で、彼は様々異なる大学で研究したかったので、5年から7年ごとに別の研究をするために別の大学へ移動しました。彼はより良い研究をするために、別の場所へ引越すことが好きなのです。そのため私の家族は引越しをたくさんしました。

----では、あなたはアメリカ国内の様々な地域に住んだ経験があり、あちこちのことをよくご存知なのですね。

デヴォン:はい、アメリカのすべてのコースト(海岸)の地域をよく知っています。

----あなたはあちこちへ引越しても、いつもバレエのレッスンを続けてきたのですね。

デヴォン:はい。私はバレエのレッスンは、イリノイに引っ越すまでは受けたことがなかったのです。イリノイでバレエを習い始めて、それからずっと、バーモントでもニューヨークでも踊り続けています。

----何歳からバレエをやり始めましたか。

デヴォン:だいたい8歳か9歳です。何歳からだったかは正確には記憶していませんが、だいたいそのくらいです。私は最初、様々なジャンルのダンスのクラスがあるダンス・スクールで、ジャズ、タップダンス、ヒップホップなどを受け始めました。

----その中に、バレエのクラスもあったのですか?

デヴォン:はい、あらゆる種類のダンスのクラスがあって、やがてバレエのクラスも受けてみました。すると、初めてのバレエのクラスで、私はバレエをすぐにとても気に入りました。

----そうですか! あなたの身体は生まれつき柔軟性があったのですか。

デヴォン:いいえ、まったく柔軟性が無かったです。私は自分のつま先に手先が届かなかったのです。身体を横向きによく曲げることも出来なかったです。全くうまく出来なかったのです。でも、私は最初からバレエが大好きになったのです。
バレエの鍛錬、集中すること、細かい部分など、すべてがすぐに大好きになりました。バレエと恋に落ちたのです。他のあらゆるジャンルのダンスよりも、バレエが一番好きでした。

----なるほど。きっと、あなたには生まれつきバレエの才能があったのですね。

デヴォン:はい、私は、明らかにバレエの才能と生まれつきの能力があります。

----素晴らしいですね。その後、あなたはバレエを選んだのですか。

デヴォン:はい、初めは様々なダンスのクラスがあるスクールに通っていましたが、その後しばらくして、地元のアップタウンで新しく専門のバレエ・スクールが出来たため、もっとバレエを習いたかった私はそちらのバレエ・スクールにも通い始めました。そのため、もともと通っていたスクールを毎日続けながら、新しいバレエ・スクールにも同時に通っていました。

----その頃、週に何回くらいバレエのレッスンに通っていましたか。

デヴォン:バレエのレッスンは、週2〜3回通い始めました。
でもそういうふうに2つのスクールへ通う私の状態を知ったダンス・スクールから、私は注意されました。そして、「あなたはそのように同時に2つのダンス・スクールに通うことは出来ません。このスクールを選んで我々と一緒に残ってこのまま続けるか、それとも他の場所へ行くか、どちらか一方を選びなさい」と言われました。当時、私は10歳でしたが、私は「OK、私はバレエが大好きなのでバレエへ進みます」と自分で言いました。
そして私はバレエだけに限定して学ぶために、最初に通っていたダンス・スクールを辞めました。

----それは何というバレエ・スクールですか。

デヴォン:Champaign Urbana Ballet です。先生はDeanna Doty です。こうしてここで、私はバレエ専門のスクールを選んで学びました。

----様々なダンスを習ってみて、たくさんの選択肢の中からバレエだけを専門で選んだのは、まだ子どもの時期だったのですね。

デヴォン:はい。私は最初からバレエが大好きだったのです。なぜなのかその理由は分かりません。

----もともと、あなたはバレエに向いている才能を、持って生まれているからでしょう。

デヴォン:はい。私にとってバレエは、すべての動きにおいてとても自然なことなのです。自然に簡単にバレエの動作が出来たのです。バレエの構成、そのディテール、いろんな動作など、そのすべてが大好きで、私にとっては自然なことでした。
当時、まだ子どもの時期から、私はとても完璧主義者なので、本当に私には達成可能なことだと意気込んでいました。

----子どもの頃から完璧主義者だったのですね。当時、ご自宅でもバレエの練習をしていましたか。

デヴォン:はい。いつも自宅でも練習していました。

----バレエのような大きな舞台に出演するパフォーミング・アーツが好きで、やりたかったのですか。

デヴォン:はい。私は舞台のほうが快適でとても安心できますし、自分に自信が持てるのです。これはとても不思議なことです。

----なるほど。子どもの頃から自分が好きなこと、やりたいことがはっきりしていたので、早い時期からバレエに集中することを自分で選んだのですね。

デヴォン:はい。

----子ども向けのバレエ教室から、本格的にプロフェッショナルのバレエ教育を受け始めたのは早い時期からですね。

デヴォン:はい。父のお陰です。父は、私がバレエが好きで真剣に取り組んでいる様子を見て、私のバレエ教育のためにより良い環境へ移動することを考えて、イリノイからバーモントへ引越ししたのです。父は、そのほうが良いバレエ教育を受ける機会を得やすいと考えました。
バーモントでは私は地元の小さなバレエ教室に通ってバレエを続けながら、そこを拠点にしてABT(American Ballet Theater)、他にもキーロフ(Kirov Academy of Ballet)、PNB(Pacific Northwest Ballet)、ワシントンなどのサマー・インテンシブ・プログラムに参加しに行きました。ABTのサマー・プログラムには毎年通っていました。最初にABTのサマー・プログラムに参加した後、そこで私はまた彼らに翌年に呼ばれて、ナショナル・トレーニング・スカラシップといって少数の学生へ全額支給される奨学金を与えるから、サマー・プログラムにまた戻って参加するようにと、オファーをいただきました。

----ナショナル・トレーニング・スカラシップのオファーがあったのは何歳の時ですか。

デヴォン:14歳の時です。サマー・プログラムに参加した後も、14歳の時に彼らからニューヨークに引っ越して引き続きABTのJKOスクール(Jacqueline Kennedy Onassis School )で学ぶようにと、私はオファーをいただきました。これは1年間のJKOスクールの奨学金でもあったのですが、14歳の時は辞退して、結局、私は翌年の15歳からJKOスクールへ入学しました。

----最初、当時14歳のあなたへ、1人でニューヨーク・シティに引っ越してJKOスクールで学ぶようにというオファーだったのですか。

デヴォン:はい、そうです。ニューヨークでの住居の用意は何もなかったので、一からすべて1人で生活しなければならない状態でした。父は「それは絶対ありえない! 14歳の娘を1人でニューヨーク・シティに行かせられない!」と言って反対しました。

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© Ken Browar and Deborah Ory from the NYDanceProject

----そうですよね、14歳の娘さんなら、親御さんとしては、それはとても心配で当たり前ですよね。

デヴォン:はい、当然です。そして翌年15歳の時、父は「OK、もしあなたが真剣なら、おそらく今、どうするか選択しなければならない時だよ。なぜなら、今までのトレーニングでも良かったけれど、さらに次のレベルのトレーニングへ、本当にプロフェッショナルのトレーニングへ進むのかどうかを、選択しなければならない」と言いました。

----そうですね、おっしゃるとおり、バレエ・ダンサーを目指すなら若い時期のほうが良いですからね。

デヴォン:はい。その頃、すでに私の他の兄弟たちは成長して家を出ていたため、子どもは私1人だけが残っていたので、私たち家族にとってちょうど良いタイミングでした。父と母と15歳の私は3人で「OK、私たちはやりましょう!」と話をしました。そして私は母と2人でニューヨークへ引越したのです。ニューヨークでは、私と母は同じベッドで寝て、ベッドルーム、バスルームなど、すべてを母とシェアして生活しました。父は毎週末、私たちに会いに来ました。

----ご家族も皆さん、サポートしてくれてすごいですね。ご両親は、15歳のあなたがバレエにそんなに真剣だったことを、驚かれたでしょう。

デヴォン:はい。両親はバレエについてノー・アイデアでした。父は科学者で、母は善き主婦で、家族で誰もアート関係の者がいなかったのですから。正直言って、私がバレエが上手くても、彼らにとっては「彼女はとても楽しんでいるからいいね〜!」と言っているだけでした。私がバレエで成功しつつあった状況でも、両親はそれを全く分かっていませんでした。何が起こっているのか分からないけれど、やってみましょう!という感じでした。思い返すと、私が小学4年生頃も、両親は「あなたはバレエを楽しんでいるの? それは良かったね。ぜひ続けてみたらいいよ」と私に言っていただけで、決して私にプレッシャーを与えることは無かったのです。このように私をサポートしてそっと見守ってくれただけなので、素晴らしい両親です。

----ご両親の、子育て方針は素晴らしいですね。他にご兄弟は何人いらっしゃいますか。

デヴォン:姉が2人、兄が1人います。私たちは4人兄弟です。家族の中でダンサーは私1人です。

----ニューヨーク・シティのJKOスクールでは、授業は毎日ありましたか。

デヴォン:はい、毎日ありました。ABTのJKOスクールは月曜日から土曜日まで毎日で、日曜日は休みでした。それ以外に、私は高校をオンラインで勉強して卒業しました。バレエだけでなく、私の両親は普通に高校を卒業することは大切だ、と私にすすめたからです。父は大学教授ですから、「学校は大切だ。教育は受けておくほうが良い」と私に言いました。そのため、毎日バレエ・スクールの授業の後、オンラインで高校の勉強を続けました。

----日中にバレエ・スクールと放課後にオンラインの高校で勉強するのは、忙しくて大変だったでしょう。

デヴォン:はい、多忙でしたが、私はとても楽しんでいました。

----その後、ABTにいつ入団しましたか。

デヴォン:まず、ABTのスタジオ・カンパニーに16歳の時に入団しました。その後、ABTへ18歳の時に入団しました。

Q:とても若い時期にABTに正式に入団したのですね。プロになるのが早かったですね。

デヴォン:私はABTに入ったのはとても若かったです。でも、その後長い間、7年くらいコール・ド・バレエでした。その7年は長かったです。細かい年齢のことは忘れましたが、ソリストに昇進したのは確か25〜26歳頃だったと思います。プリンシパルに昇進したのは27歳の時でした。

----あなたの好きな役は何ですか。

デヴォン:『白鳥の湖』のオデットとオディールです。

----あなたは女性バレエ・ダンサーとしては、とても身長が高いですよね。身長は何センチですか。

デヴォン:アメリカではフィートで身長を測りますが、私はだいたい5.7フィート(約174cm)位です。

----あなたは身長が高く手足がとても長いので、バレエ・ダンサーとして舞台上で優雅な表現に向いていますね。身長が高い女性ダンサーにはコリー・スターンズのように身長が高い男性ダンサーを相手役としてペアを組めますものね。

デヴォン:はい。コリーとは以前ペアを組みましたが、去年からはさらによくペアを組むようになりました。
実は長い間、「私は女性のバレエ・ダンサーとしては身長が高すぎる!」「私は体格が大きすぎる!」とずっと思っていました。でも最近になってから、今では、私は自分の体格を本当にとても気に入っています。長い手足を生かして、舞台上でとても優雅な表現が出来ると自分で感じていますし、体格が大きいので、観客の皆様が舞台上の私の姿を見失うことがないという利点があります。皆様が、すぐに私が舞台上のどこにいるか見つけ出しやすいのです。このように私の高い身長はまさに神からの大きなプレゼントであったことに気付き、今ではとても気に入っています。
でも私はまだ若かった少女時代には、「絶対に私は身長が高すぎる!」と自分で思い込んでいたのですよ。

----ああ、少女時代のそのお気持ちはよく分かります。女性のバレエ・ダンサーは皆さん、小柄な方が多いですものね。

デヴォン:小柄な方が多いですから。でも私は今では、この私の体格をとても気に入っていて、快適です。身長が高い男性ダンサーとペアを組めば良いのです。幸いなことに、ABTにはたくさんの身長が高い男性ダンサーが在籍しているので、ありがたいです。

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© Ken Browar and Deborah Ory from the NYDanceProject

----いつ頃から、あなたは高い身長の体格を受け入れて気に入るようになりましたか。

デヴォン:だんだん全体的に自分が成長してきてからです。年齢と共に、同時に精神的な面も成長が伴ってきて、自分に自信がついてきてからです。また、他の身長が高い女性ダンサーたちのことも観て、舞台上の彼らはとても素晴らしいと感じて尊敬しています。その影響もありました。身長が高いことを「美しい」とか「特別」とか捉えているのではなくて、ただ私が淡々と「自分で自分のことを受け入れている」というだけです。なぜなら、外見的な条件、身長が高いことは自分で変えられないですよね?だから自分の意識でそれをそのまま自分に受け入れたら、自然に自分がありのままで快適になります。つまり、弱点であっても観方を変えたらそれは長所として生かせます。弱点は、長所に変えることが出来るのです。私の身長がとても高いということは変えられない、それならその長所はどんなことかな?舞台上での利点は何かな?と考えてみて、先ほどお話したような有利な点を見つけることが出来ました。「皆と違う」ということは、その違いを良い方向へ生かせば「強み」になります。だから、「皆と違う」ことは良いことです。「皆と違う」ということを欠点として捉えないことが大事です。皆と自分の「違い」について、視点を変えて観察してみてその利点に気がつくことは、実は普遍的にあらゆる面でとても大切なことです。「違い」は「個性」「特質」として生かすことができます。
そして、自分で自分を受け入れることが出来れば、自分に自信がついてきて意識が変わるので、自然にそういう意識の変化は表面にも現われて、自然と輝いてきます。私たちは皆、ユニークな存在で、それぞれがユニークな特質を持っていますから。このようなことをよく考えて、それを自分の意識へ落とし込んで、私の場合は観客のために、ダンサーとして人としてより良いものになれるように、心がけてきました。

----とても興味深いです。われわれ日本人にとって、そのように「個人」を大事にすることはとてもアメリカらしい価値観だと思います。

デヴォン:本当?

----はい。アメリカ人は「個人」をとても意識して「自己確立」と「個性」を大事にすると思います。日本はその正反対だと思います(個人を抑えて、和を重んじる)。

デヴォン:そうなのですか。あなたはたくさんの舞台を観に行かれますが、ダンサーたちは皆それぞれに「違い」を表現しているでしょう? あなたがそれぞれのダンサーに共鳴する部分はそれぞれに全く違いますよね? なぜなら、ダンサーはそれぞれ皆違う個性があるので、それぞれ違うものを舞台上へ持ってくるからです。だから私にとってダンサーとしても人としても、「個性」「唯一であること」が大事であり、そうであればあなた独得の特別なやり方(踊り方)へ、誰かが共鳴する部分が出てくるものなのです。
自分がやっていることに自信がない意識でいると、それは人々に伝わるものです。人々は敏感にそれ(自信がない意識でやっていること)を感じます。例えば、自信がなくて、全く真実ではない状態を表現していると、人々には分かります。そうではなくて、正真正銘のあなたである状態が、より良いアーティストであると思います。

----なるほど。おっしゃるとおりですね。
2020年3月からの、Covid-19のパンデミックの自宅隔離の時は、あなたはどのように自宅でバレエの練習をしていましたか。

デヴォン:実は、3月にパンデミックで劇場がシャットダウンされた1週間ほど前に、私は腰を怪我しました。その時、カンパニーはカリフォルニアで公演中で、私は怪我のため降板しました。すべてシャットダウンされていた時は、私はあまりその影響について実感がなくて、私は自分の怪我のことにすごく集中していました。この怪我はいったいどんな状態になっているのか、どのように感じているのか、どのように治療したらいいのか、リハビリの方法はどうすればいいかとか、怪我についてのあらゆることを考えていました。ですから、私にとっては世の中の変化は特に感じられませんでした。その当時は、私は怪我で踊ることが出来ませんでしたから。
シャットダウンされてから自宅隔離をしていた最初の数ヶ月間は、本来なら私だけ怪我のため仕事が休みだったところを、他の方々も皆さん自宅隔離になって同じように休みになり、「私だけが仕事を逃しているのではないのだな」「私だけが孤立しているのではないのだな」と思えて、私にとってはまるで神の恩恵のようでしたから、気が紛れていました。ですから、私は怪我からの回復と仕事の復帰を急ごうとする必要がなかったので、時間をかけてゆっくり怪我と向き合ってリハビリに取り組むことが出来ました。もしあの時Covid-19が起こっていなければ、私はそんな悠長な調子ではいられなかったでしょう。ですから正直言って、私にとってはあの奇妙な状況(Covid-19)にとても感謝しています。

----それはとてもラッキーでしたね。

デヴォン:そうなのです。私はとてもラッキーです。ですから最初の数ヶ月間は、私は焦ることなく、ゆっくりと自分の怪我と向き合ってリハビリに専念することが出来ました。怪我の状態を見ながら、少しずつ(オンラインの)クラスを恐る恐る受けてみて、「まだ身体を動かすのはきつい」と感じた時は、自分で自分の身体の状態は分かるのでバレエの練習はまたしばらく休んで、再びリハビリに戻りました。そしてまたクラスを受けてみて、試しながら自分の身体の状態を見て、少しずつ自分のペースでリハビリを進めていきました。シャットダウンの最中は、ABTでは団員へオンラインで毎日クラスを提供してくれていたので、その中でリハビリのためにジムのクラス、エクササイズのクラスなどを選んで毎日受講していきました。
他にも、私はラッキーなことに、私の仲間がダウンタウン(マンハッタンの)に小さなスタジオを持っていたので、まだ(パンデミックの)とても初期の頃から私もそこに通って、オンラインのクラスをそのスタジオで受講することが出来ました。

----それはABTのスタジオですか。

デヴォン:いいえ、ABTとは別のプライベートなスタジオです。ABTのスタジオはとても長い間、クローズしていました。
そのスタジオで、私は他の仲間と一緒にABTのオンライン・クラスや、ジム・クラスを受けたり、リハーサルをしたりしました。そうでなければ、自宅のキッチンでオンラインのクラスを受けなければならなかったことでしょう。キッチンではなかなか、思うように練習が出来なかったです。

----そうですね。キッチンでは、スタジオのようにはなかなかバレエの練習が出来ないですし、気分も乗らないでしょうし、バレエを続けるモチベーションを維持しにくいでしょうね。

デヴォン:はい。キッチンではなかなか難しいです。ですから、仲間のスタジオを私も使わせてもらうことが出来てラッキーでした。
あと、私はバレエ・クラスが本当に好きだということを、改めて実感しました。私はバレエが本当に大好きなのです。特に、バレエのバーの練習が大好きで、私は毎日バーのクラスを受講しています。バレエの練習で身体を動かすことによる全身への効果が、とても快適だから好きなのです。
パンデミックの時期は、ABTのオンラインのクラスは受講しなければならないものではなくて、受けたれば受けられるというものでした。別に受けたくなければ受けなくてよかったのです。でも私はバレエが好きだから毎日受けていました。これは私にとって良い身体の動かし方だからやりたいし、バレエの練習の後は、私の身体だけでなく精神的にも感情的にもスッキリしてより良い状態になれるからです。バレエの仕事で忙しい時期でなくても、どんな時でもとにかく毎日、自分の心身を目覚めさせるためにバレエのクラス(オンライン)を受けています。バレエでまず私の身体を動かしてから、私の頭がちゃんと働くように起こして、それから何かやりましょうか、という感じの毎日です。そういうわけで、私はバレエが大好きなのです。

----毎日、バレエのクラスを受けているのですか。

デヴォン:はい、ほぼ毎日バレエのクラスを受けています。週末の土日だけABTのクラスは開講していないので、週2日間は私もお休みをとっています。
私はこれが好きで、やらずにはいられないので、どうしてもやりたいから毎日やっています。

----バレエ・ダンサーで、自然にそんなにまでバレエが大好きで、ラッキーですね。

デヴォン:はい。なぜか理由は分からないのですが、本当にバレエが大好きなのです。

----なるほど。分かる気がします。バレエの練習は、身体をていねいにストレッチするから、ヨガに似ていますものね。

デヴォン:はい、バレエはヨガに似ています。バレエはほとんどメディテーション(瞑想)で、同じようなものです。

----あなたにとって、バレエの練習は、精神にも良い効果があるのですか。

デヴォン:はい、もちろん精神にも良い効果があります。すごく意識を集中するし、多くの動作が優雅だし、その優雅さは自分へ潤いを与えてくれますから。エゴが消えていきます。エゴはあっていいものなのですが、エゴをなくしていくと、まるで私が子どもの頃にバレエのクラスを受けていた時のように謙虚になります。
プロのダンサーたちは生涯ずっとダンス・クラスを続けますが、ゆっくりしたバレエのクラスはほとんど瞑想に近くて、ゆっくり身体を目覚めさせてから、身体を起こして作り上げていきます。次の動作は何がくるのかすべて分かっていますから、ダンサーにとってバレエは瞑想とほぼ同じことなのです。

----なるほど。もしかして、あなたは晩年には良いバレエ教師になられるかもしれないですね。

デヴォン:ノー! 私は教えることは好きではないのです。教えるとなると、教えることに情熱を持っていなければならないから、そういう熱意は神からの特別なギフトだと思うのです。私はそのような教える熱意のギフトは神から授かっていないです。私は単に踊るギフトを神から授かっているだけです。

----踊ることと、踊りを教えることは、違う才能ですか。

デヴォン:はい、全く違う才能です。教えることは誰でも出来ます。でも、とても上手に教えることは、ほんのわずかな人だけが出来ることです。私にとって「とても上手に教えること」は教師としてとても大事なことです。

----なるほど。勉強になります。あなたはいろいろなことを、よく考えるのですね。

デヴォン:はい。いつもよく考えています。私はすごく考えることが好きです。

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© Ken Browar and Deborah Ory from the NYDanceProject

----それはダンサーでは珍しいですね。ダンサーたちはそこまであなたのようにはよく考えないですし、考えるよりも感覚型の方が多いですよね? あなたは個性的ですね。科学者で大学教授のお父様の影響がありますか。

デヴォン:ありがとう。はい、私はダンサーでは珍しいタイプです。私がよく考える性質なのは、科学者の父の影響です。

----コリー・スターンズのインタビューでお聞きしましたが、パンデミックの最中は、お二人でご自宅のマンションの階段を走って昇り降りするトレーニングを毎日続けたそうですね。

デヴォン:はい、バレエ以外の追加のエクササイズとして、階段でランニングをしていました。私の怪我からカムバックした後に、2人でこのトレーニングを取り入れ始めました。私たちは45階に住んでいるので、1階から45階までランニングをしました。飼い犬も一緒に連れて行って走りましたが、彼(犬)はこれが嫌いで、とても機嫌が悪くなりました。だから、彼(犬)は2度と階段のジョギングに一緒行きたがらなかったので、連れていくのは止めました。

----1階から45階までの階段のランニングは、犬でも嫌がるほどのきつい運動なのですね。毎日、45階まで昇り降りしたのですか。

デヴォン:日によって、45階から1階まで降りるだけや、1階から45階まで昇るだけや、10階分だけ降りたり昇ったり、様々でした。その日の体調によって、ランニングの量を変えていました。

----Covid-19のパンデミックの後、劇場やダンス業界も打撃を受けて、だんだん回復しつつあるといってもそれまでの世界のようには戻っていないですよね? そういう先の見通しがつかない時代にダンサーを目指している若者たちへ、どのようにモチベーションを保って努力していけばいいのか、何かアドバイスをくださいますか。

デヴォン:Covid-19は有益な面もありました。Covid-19はダンサーだけが直面した問題ではなく、あらゆる人々が強制的に経験したことです。このお陰で、世の中の人々にたっぷりと時間が与えられたので、ゆっくり座って自分について見つめて考えることが出来たともいえます。
例えば私の場合は、いったん椅子に深く腰掛けて落ち着いてから、「なぜ、私はダンサーなのか?」とよく考えました。そして、毎日のオンライン・クラスは強制ではなく、受けることも受けないことも意識的に自分で決めて選べる状況だったので、それでも翌日の朝のクラスを受けようと思った時、「なぜ、私はクラスを受けたいのだろうか?」「なぜ、私はそれをするのだろうか?」と意識して自分を見つめなおすことが出来ました。
出来る限り自分の意識を見つめると、「私はこれを好きだからやっているのだろうか?」、それとも「私はこれをただやっているだけなのだろうか? なぜなら上手に出来るから周りから賞賛されるからやっているだけなのか?」ということも考えることが出来ます。
そして、「私はこれがやりたい! 私はこれが大好きだからやっています。大好きだから強い情熱があります。これが私の天職です。だから私は今生の人生でこれをやらなければならないです。私にはこれ以外に、他の選択肢がありません。なぜなら他の選択肢には私は情熱が湧かないから天職ではないので、他の道へ進むことが出来ません。」というふうに、自分のことが分かってきます。
多くのダンサーたちが行き詰まったら踊ることを止めますが、彼らはダンスをそんなに好きではないから止めるのであり、他にも選択肢があるから他の道へ進んでいくのです。
バレエの場合は特に若い時期から進路を選択して進まなければならないので、他の選択肢を探求することがなく、大学に進学しないし、他の分野の勉強をする経験がないのです。
でも人々は最終的に勉強する機会を得られるし、いろいろと考える機会もあるし、個人として彼らの可能性を開花させることが出来るし、例えばダンサーであること以外に、「本当に、科学が大好きだ」と気付いて科学者になりたいのかもしれません。
Covid-19で、このように私たちは自分の気持ちを整理して、「これをこのまま続けるのか?」、「これを止めて別のことをやるのか?」などを自問自答して、「私はこれが本当に大好きなのだ!」、「これが大好きだと実感したからCovid-19でも私はこれをこのまま続けます」など、改めて自分のことを見つめなおすきっかけになりました。
ですから、「なぜあなたは踊るのか?」、「なぜあなたはそれをやるのか?」ということをよく見つめなおすと良いです。私の場合は本当にバレエが大好きで気持ち良いし、強い情熱があるし、天職だからこれをやり続けなければならないですから、止められないですよ。
若者はやりたいことを全部やってみたら良いし、いろいろやっているうちに時期がきたら自分の道へ進んでいくものです。Covid-19の時期もダンスをやっている若者たちへのアドバイスは、「なぜあなたはそれをやっているのか?」、「なぜあなたはクラスを受けているのか?」、「なぜバー・レッスンをやっているのか?」、「なぜパフォーミングをやっているのか?」などダンスについてすべてのことをよく考えて見つめ直してみて、よく覚えておいてもらいたいことは、「あなたにとってそれはどんな意味があるのか?」ということです。皆さんそれぞれが違いますから、全く違うことを感じているものです。人によって(レッスンの内容のことを)、「これはやりたくない」、「これは難しすぎる」、「これは簡単にできる」、「これは多すぎる」など様々に違うことを感じていますが、そういう小さなことは全く気にする必要ありませんよ。そうではなくて、原点に戻って、もっと先の将来のことを見据えて、大きな図面を思い描いてください。この場合の大きな図面とは、「なぜ私はこれをやり続けたいのか?」、「なぜ私の肉体を通してこの努力をし続けたいのか?」ということです。
そんなことを私はいろいろと考えていたので、「Covid-19はなんて素晴らしいものなのでしょう!人々に自分は何が本当に好きなのかを見詰め直させるきっかけになったのだから。」と、つくづく思いました。

----「舞台のほうが快適でとても安心できるし、自分に自信が持てる」とおっしゃっていましたが、それについて詳しくお聞かせいただきたいです。あなたは舞台上で踊っている時、どのように感じていらっしゃいますか。

デヴォン:舞台上で常に毎回、そのようにとても安心できる状態でいるわけではないです。私は子どもの頃、バレエが大好きでいつもそのように感じていて、「私が安心できる場だから行きたい」、「私が100パーセント自由でいられる場」と思っていたということです。
舞台上でどのように私が感じているのかは、説明するのが難しいです。そのようなことは考えたことが無いです。舞台上では、私がその最中はどのように感じているかについて考えたくない状態です。舞台上にいる時に大事なことは、バレエと作品のストーリーに完全に没頭することです。次の演技がさらなるストーリーへ展開していく流れが好きです。作品の役柄のキャラクターに完全になり切ることで、とても感情を込めて演技をすることが出来ます。舞台上では、「次のステップは何か?」とか「32回転のフェッテをする」とかは一切考えません。その瞬間のリアルな状態を観客へ見せるということ、落ち着くこと、自分を解放することが大事で、ほとんど瞑想のようなものです。バレエとヨガ、瞑想はよく似ていると思います。

----あなたにとって、演技についてはどう考えていらっしゃいますか。バレエは、踊りだけでなく演技も大事ですよね。

デヴォン:演技は、とても難しい分野だと思います。バレエ・ダンサーたちは、次のステップは何かとか振付を踊るうえに、他にも演技をしなければならないから、この2つを同時に行わなければならないです。そのためには、アクティング(演劇)も学ぶといいです。バレエ・ダンサーは、バレエだけでなく、その他にプラスして演劇も学ぶほうがより良いです。私は、バレエと演劇は、この2つはそれぞれとても専門的な分野だと実感しています。
私にとってバレエの演技で一番大切なことは、「(舞台上で)今自分がやっていることを、100パーセント完全に信じきる」ことです。つまり、「このストーリー、この役柄の性格と個性をすべて自分で完全に信じきっていること」が大事です。これが出来ていなくてあやふやだと、その役柄に没頭して演じきることが出来ませんから、(バレエの舞台が)全く台無しになります。練習の時は、自分のバレエの役柄の動作と演技を細かくひとつずつ追って、「これはよく理解して完全に信じきった」、「これも信じきった」、「これも信じきった」・・・「これも」「これも」「これも」「これも」・・・、というふうに、バレエ作品の進行を順番に1つずつ分解して確認して、役柄のキャラクターと個性を完全に信じきる状態にすることです。このように、バレエ・ダンサーがやるべきことはバレエの技術以外にもたくさんあります。

----ダンサーとしての肉体を保つために、食事には気を付けていらっしゃいますか。

デヴォン:はい、食事には気をつけています。皆それぞれ全く違うので、それぞれに合う食事も全く違うものですから、自分の肉体の声をよく聞いて自分に合っている食事をとることが一番大事です。
私は6ヶ月前に肉を食べることを止めまして、その代わりに魚を食べています。なぜなら、私は肉を食べると快適ではないから、食べなくなりました。私がやっているパフォーミングと踊りはとても肉体的なことなので、肉体は車みたいなものです。例えば、最高の車には最高のガソリンを注ぎたいですし、よりよく作動するように心がけますよね? ダンサーの肉体もそれと同じことで、快適に感じられるために、最も上質なもの(食物)を注いで、最も良い状態で肉体を動かすことが出来るようにしておきたいのです。
他には、私は砂糖をあまりとらないようにしています。砂糖について科学的に調査してみると、中毒性があるそうなので、私は肉体のために気をつけています。
でも皆それぞれ違うので、誰かが勧めている食事のやり方を鵜呑みにしないで、自分の肉体に合っているものを選んで取り入れることが大事です。ですから、私の食事法をそのまま他の方々へお勧めいたしかねますし、他の方へ「こうしたほうが良い、こうすべきだ」などとプレッシャーを与えたくないです。

----日本のダンス・ファンの方々へ何かメッセージをいただけますか。

デヴォン:私はABTの公演の仕事のため、今までに4回くらい訪日したことがあります。毎回、ニューヨークのMETシーズンの後、夏に東京へ行くことが慣例になっていました。日本はとても素晴らしかったです! 日本食も大好きです。
日本は、公演した国々の中で私のお気に入りの国のひとつです。日本の観客のバレエを尊重する様子は、他の場所には並ぶものがないです。
私は、再び日本で公演する日を本当に望んでいて、楽しみにしています。
(2021年11月24日 ニューヨーク近郊の会議室にてインタビュー)

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