トニー・ワーグ(Tony Waag)、アメリカン・タップダンス・ファンデーション(ATDF)代表にインタビュー
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ワールドレポート/ニューヨーク
ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA
----昨年3月半ばから、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、ニューヨークでは全ての劇場、ダンススクールは閉鎖になりました。そして全ての公演もクラスもキャンセルの状態が長く続いています。1年以上に渡ってダンス業界は大きな痛手を被りました。今年5月頃から、ニューヨークでは少しずつ再オープンの兆しが出ていますが、まだまだ、新型コロナ以前のようなダンス業界の活気には程遠い現状です。
タップダンスの世界的な中心地であるニューヨークで、ATDF(American Tap Dance Foundation)は新型コロナの影響により、どのような状況になったか、どのようにして経営を持ちこたえてきたのか、現在はどのように活動しているのか、タップダンス業界やプロのタップダンサーたちはどのような状況にいるのか、また、今年の予定と最新情報などについて、お伺いいたします。
通常は、非営利団体であるATDF(アメリカン・タップダンス・ファンデーション)は、どのような活動をなさっていますか。タップダンス・クラスの提供や、毎年恒例のタップダンス・フェスティバルのタップ・シティなどが主な活動でしょうか。
wear many hats (photo by Lois Greenfield)
トニー・ワーグ 私たちアメリカン・タップダンス・ファンデーションはカンパニーです。最初はアメリカン・タップダンス・オーケストラ(American Tap Dance Orchestra)というダンス・カンパニーで、それが後にATDFになりました。
ATDFでは、いくつかのプログラムを展開しています。
主なプログラムは、このアメリカン・タップダンス・センターで行っています。他の、例えばフェスティバルのタップ・シティは、別の多くの劇場や会場を借りて公演や特別講座を開催しています。
このアメリカン・タップダンス・センターで主なプログラムにはユース・プログラムがあり、これはユース(青少年)対象のトレーニング・プログラムです。
イヤー・ラウンド・トレーニング・プログラムは、ティーンズ(10代)と大人が対象で、すべての年齢層とあらゆるレベルのクラスを開講しています。
新型コロナのパンデミックの影響で、去年からすべてのクラスはバーチャルに変わりました。今年の9月から、新型コロナ以前のような実際にスタジオの中で教師と生徒たちが会って開講するクラスも戻ってくる予定にしています。ユース・プログラムは複雑な状況で、一部のクラスはバーチャルで、また一部はスタジオで会って行うクラスとなり、これらを組み合わせて行います。ATDFはまだ閉鎖していますが、このような予定で今年9月からATDFは再オープンします。
スタジオで対面で行うクラスは、子ども対象のものから主にスタートします。幸いなことに、ここのスタジオはウイルスに対して安全です。なぜら、ここのスタジオは2部屋とも空調が整っていて、常に新鮮な空気が送られて部屋中に拡散して循環しているからです。そして、スタジオで行うクラスは、新型コロナウイルス感染予防のためのルールに厳格に従い、全員の体温を測り、体調は良いかどうか事前に確認を行い、ソーシャル・ディスタンス(6フィート=約1.8m)を守ります。
スタジオの空調はとても良い設備で、常に新鮮な空気が循環していて全体に行き渡るため、新型コロナウイルスの感染拡大を防げるので、私はとてもハッピーです!
----その空調設備は、新型コロナウイルス以前からありましたか。それともコロナ対策のために新たに設置したものですか。
トニー・ワーグ もともと以前からある空調設備です。新型コロナウイルスの問題が出て来る前からすでに準備は整っていたのです。そのため、ウイルス対策として新たに設備を設置する必要がありませんでした。
でもここを再オープンする前に、空調がちゃんと動いているかどうか設備を点検します。
この施設の空調は整っていますが、再オープンにあたって他の問題が1つあります。それはソーシャル・ディスタンスを取らなければならないので、多数の生徒たちを入れるための十分な広さが無いということです。そのため、財政的にとても難しくなります。スタジオに生徒を多数入れられないと、クラスの受講料を支払ってくれる生徒が減るので、ビジネスとして成り立たないからです。
私は対策を模索して、アメリカ政府に補助金を申請して受領することが出来たので、このATDFはどうにか存続することが出来ています。去年の新型コロナウイルスのパンデミックの初期の頃、3月にはわれわれの運営は焦げ付いていました。その頃はもうどうにもやっていけなくなって、ATDFは倒産しなければならないかと考えていました。どうやって解決したらいいのかも分かりませんでしたし、生き残っていけるかどうかの瀬戸際でした。去年3月にすべての劇場やダンス・スタジオなど人が集まるところが強制閉鎖になった時期に、ここも閉鎖しなければならなかったので誰もここに入れなくなりました。解決方法はノーアイデアだったからです。
----あなたは、ATDFが倒産することも考えていましたか。
トニー・ワーグ はい、倒産することも考えていました。
----でもATDFは生き延びることが出来て、これからも存続していくのですね。
トニー・ワーグ はい、ATDFはこれからも存続していきます。あなたはいつもATDFをサポートしてくださり、本当にどうもありがとう。とても感謝しています。パンデミックでこんな状況になり、ATDFは倒産しなければならない寸前まで追いやられている時に、そのようなこと(サポート)がありがたく身に染みています。あなたは長い間、ATDFを取材して日本へ紹介して下さいました。
----こちらこそ、取材させていただき、ありがとうございます。2003年から18年間、毎年タップ・シティーとATDFの活動を取材してきました。なぜなら、タップダンスはアメリカの重要な文化であり、その世界で一番の中心地はニューヨークだからです。ATDFはアメリカ文化の象徴であり、ニューヨークが拠点ですから、アメリカにとっても世界にとっても大事な組織です。ニューヨークではバレエや他のジャンルの様々なダンスに加えて、タップダンスとATDFの活動は重要な情報です。
トニー・ワーグ バーチャル・クラスは昨年4月末までは始めていませんでした。最初のバーチャル・クラスは子どもたちのクラスでした。彼らはコースのプログラムをすでに開始しており、その途中だったからです。
スタジオ・レンタルは昨年9月から開始していました。ATDFはアーティスト・イン・レジデンスのプログラムがあるので、これらの多くのタップダンサーたちがスタジオに練習しに戻ってきています。そして、彼らの新しい振付作品をATDFで発表しています。新しい12から13の振付作品を、オンラインで今年の7月5日から10日まで開催するタップ・シティで発表する予定です。
今年のタップ・シティはすべてオンラインで開催する予定です。ティーチャー・トレーニング・プログラム(指導者養成プログラム)もあります。
オンラインはZoomとVimeoを使ってご覧いただけます。
詳しくはウェブサイトをご覧ください。https://www.atdf.org/tcregister
そして、ニューヨークのマンハッタンのタイムズ・スクエアで、12人のタップダンサーのパフォーマンスを行います。会場は屋外で無料の公演です。
また、他に良いニュースがあります。アメリカでは、5種類の新しいタップダンスの記念切手が7月10日から発売されます。ニューヨークの5名の重要なタップダンサーの切手です。Max Pollak、Ayodele Casel、Michela Marino-Lerman、Dormeshia、Derick K.Grantの5名が切手になります。
----ニューヨークの5名のタップダンサーがアメリカ郵便記念切手になるなんて、素晴らしいですね。私も買います。
トニー・ワーグ 私も買いますよ! とても楽しみにしています。
この記念切手発売日の7月10日には、タイムズ・スクエアでATDFはこれらの切手になったダンサーたちの公演を行う予定です。これは無料イベントです。
----デリック(Derick.K.Grant)は私のタップダンスの先生でしたが、ボストンに引っ越してご実家のダンス・スクールで教えていますよね。デリック先生はお元気ですか?
トニー・ワーグ 全く分からないです。私はデリックとは長い間、連絡を取っていないです。ボストンに引っ越した後、ニューヨークとボストンを行き来して活動しているそうですよ。
----ATDFでは、タップ・シティの他に、何かプロジェクトはありますか。
トニー・ワーグ はい、きっとあなたにも興味がありそうなニュースがあります。私は40年間のアーカイブを、ニューヨーク公立図書館とリンカーン・センターに寄付しました。おそらく、それらのアーカイブは、来年2022年1月頃から一般公開を始めるでしょう。私はこれがとても楽しみです。たくさんの重要な映像記録もあります。基本的に、過去40年間で私が収集してきた資料です。ペーパーの資料はもう公開され始めていますが、映像資料はまだ年内には公開されないです。
幸いなことに、なんと、私はこれらの寄付を新型コロナウイルスのパンデミックが始まる直前に終えていたのです。
----パンデミックの直前に全て寄付を終えられていたなんて、すごく良いタイミングでしたね!
トニー・ワーグ はい、ラッキーでした。なぜなら寄付した資料は大量で、大きな箱が何箱もありましたから。
----何箱くらいですか。
トニー・ワーグ 70箱くらいです。
約1000ギガバイト(GB)が1テラバイト(TB)ですが、私はおそらく16テラバイトの映像資料を寄付しました。40年間で私たちが行ったすべてのパフォーマンス映像を、われわれは記録に残していました。
----それはすごい量ですね。40年間の貴重な資料なのですね。このニュースはウェブサイトなどですでに発表しましたか。
トニー・ワーグ いいえ、まだどこにも発表していないです。チャコットが初めてです。いつ一般公開されるのか、予定がはっきり決まっていないからです。
この寄付したアーカイブはATDFのものの他、私自身の私蔵アーカイブ、ブレンダ・バファリーノ(Brenda Bufalino)の私蔵アーカイブ、大量のグレゴリー・ハインズ(Gregory Hines)の情報、コパセティックス(Copasetics)の情報など、貴重なものばかりです。
----そんな貴重なたくさんの資料を寄付なさったのですね。40年間の、タップダンスの歴史が詰まっていますね。
あなたはタップダンサーですが、同時に経営者で組織を率いて運営する能力があり、ウクレレを演奏しながら歌も歌うし、いくつもの才能があってたくさんのことが出来ますね。普通は、タップダンサーはタップダンスだけをやる方々がほとんどなのに、あなたのようなタップダンス以外のこともいくつも出来る方は珍しいですね。
トニー・ワーグ はい、おっしゃるとおり、タップダンサーはタップダンスだけをやっている方がほとんどですね。私のようにタップダンス以外のことも同時にいくつもやるタップダンサーは珍しいです。タップダンスを始める前は、私は美術のアーティストで美術大学の彫刻科出身ですから。私は経営は独学です。
----独学で経営をやってこられたなんて、元々あなたはダンサーとしてだけではなく、直観力や経営の才能もあったのですね。ファンデーションですから、ファンディングのためにもいつも大勢の人々と会わなければならないでしょうから、あなたの人柄の影響も大きかったのでしょう。
トニー・ワーグ そのとおり、私はいつもすごく大勢の人々と会わなければならない役割です。簡単ではないですが、楽しいです。
私にとって、絵を描くこと、踊ること、歌うこと、振付すること、楽器を演奏すること・・・などは全て同じことなのです。私は、タップダンスよりも、エンターテイメントにより興味があるのです。
----エンターテイメントとは、ブロードウェイ・ミュージカルのようなものですか。
トニー・ワーグ はい、でもそれだけではないです。私はバラエティが好きなのです。タップダンスそのものよりも、バラエティのほうがより重要です。良い舞台作品を作るためには、バラエティがあることが必要だと思います。確かに言えることは、1種類のタップダンスだけよりも、バラエティに富んだ様々な種類のタップダンスがあることが大事です。
----なるほど。ブレンダ・バファリーノの舞台もバラエティに富んでいますね。タップダンスだけではなく、歌ったり、詩を朗読したり、ストーリーになっていて演技をしたり、全体が1つのシアターになっていますね。
トニー・ワーグ そのとおり。ブレンダも同じようにバラエティに富んでいるタップダンスをやります。
インプロビゼーション、振付、ソロ、スイング、ブラジリアンの影響を受けたもの、日本の影響を受けたもの、エキセントリックなダンス、おかしなダンス、真面目なダンス・・・あらゆるスタイルのダンスがあります。なぜなら、皆さん1人1人の個性は全く違いますから、ダンスもそれぞれ全く違うものです。タップダンスには、様々な違った種類のスタイルがいくつもあるのです。
ある者は語りながら踊り、ある者はただスイングだけをして、ある者はタップダンスだけを踊りたくて、ある者はタップダンスで社会と関りを持ちたくて、ある者はタップダンスで政治的な内容を伝えたいし、そのようにタップダンスにはありとあらゆるものがあるので、すべての人々に居場所があると私は思っています。
----素晴らしいお話ですね。ところで、あなたは「Tony's TAP TV」という動画を時々配信していましたね。
トニー・ワーグ はい、あれはパンデミックの直後に私がやり始めたことでした。私はたくさんのアーカイブを所蔵しているので、ただただその情報をシェアしたかっただけでした。タップダンスの貴重な情報と歴史について、シェアしたかったのです。このようにシェアする活動も私がやりたいことですが、ちょうど今の時期はフェスティバルのタップ・シティのために集中しています。またこれが落ち着いたら、再びこのようなシェアする活動をこれからも続けていこうと思っています。タップダンスのアーカイブをシェアすることはとても楽しいので、気に入っている活動です。また、私は映像の編集も自分でやるので、このようなアーカイブを編集して、インターネットで公開したいです。
----あなたは、映像もご自分で編集なさるのですね。本当に多才で、いろいろなことが出来ます。すごいですね。
ブレンダがあなたの経営者としての才能を見出して、代表を任せたのですか。
トニー・ワーグ 私は、やらなければならないことは自分でやってみます。
ブレンダとは、大学生の時に私の故郷(コロラド)で出会いました。そして私はタップダンスをやりたくて、ニューヨークへ来ました。それから15年間、私はブレンダのダンス・カンパニーのメンバーでした。その後、カンパニーは名前を変えてファンデーションになりました。今では、私はブレンダの上司です!
----ブレンダはリタイアしましたか。
トニー・ワーグ いいえ、ブレンダはリタイアしていません。今も現役でダンサーとして踊っています。彼女は83歳です。
----現役で踊っているのですか? それはすごいですね。
トニー・ワーグ そうです。83歳で現役ダンサーなんて信じられないことです。彼女は驚くほど見事です。素晴らしい方です。私は彼女のことをとても誇りに思っています。
私は彼女ともう40年も一緒に働いています。もともと最初はブレンダが代表だったのです。私はダンサーとして彼女のカンパニーの一員でした。その後、私はアドミニストレーターとしてマネジメントを行うようになり、やがてアドミニストレーターの責任者になりました。なぜなら、カンパニーの中で誰かがそれを行わなければなりませんでしたが、私はどうすれば良いのか自然に分かりましたから、この仕事に向いていました。
その後、私がブレンダの後を継いで代表になり、監督しています。その後、カンパニーは踊ることだけをやめて、ファンデーションだけになりましたが、この場所にファンデーションを構えてからもう12年になります。早いものです。そして、フェスティバルのタップ・シティはもう21年になります。
私は「情報をシェアすること」がとても大好きなのです。実はその一貫として、私はドキュメンタリー映像を編集して作っています。私自身のタップダンスの映像です。どのくらいの長さの作品になるかはまだ分かりません。もう2年もそれに取り組んでいます。プロの映像の編集者にも手伝っていただいて編集中です。私はとても大量の映像記録を持っていて材料は揃っているからです。これも私の新しいプロジェクトの1つです。
----たくさんのプロジェクトを抱えていらっしゃって、充実していて素晴らしいですね。
日本にいる人々が、オンラインでATDFのタップダンス・クラスを受講することは可能ですか。
トニー・ワーグ はい、日本からもオンラインで受講可能です。通常はすべて1クラス12ドルです。
----渡米しなくても、日本にいながらにしてニューヨークの本場のタップダンス・クラスを受講できるのは素晴らしいことですね。
ところで、ATDFの所属アーティストの方々は、パンデミックの後、皆さんどうなさっていますか。
トニー・ワーグ 率直な話、ある者は連絡が取れなくなり、ある者は毎日ここへ練習しに通い続けました。全員が全く違う反応を見せました。不安でいっぱいになり誰にも会いたくなくなって、このスタジオに全く来なくなった者もいます。
----誰にも会いたくなくなって来なくなった方は、落ち込んでいるからですか。
トニー・ワーグ いいえ、単に落ち込んでいるというわけではなさそうです。もっと複雑な心境のようです。皆、違う状況ですから、1人1人がそれぞれ全く違う反応をしています。彼らの間の反応の違いについて、私は全く意見を持たないようにしています。
----それぞれ状況が違うのだから、彼らの反応の違いについての意見は言わないということですね。それぞれの態度が良いとも悪いとも言い切れない、練習の努力をし続ける者こそが良いのだも言えないのですね。7月のタップ・シティのクラスもオンラインなので、日本からも受講可能ですね。
トニー・ワーグ はい、日本からも受講していただけます。普段のクラスと違って、タップ・シティのクラスはコースになっています。コースで249ドルです。35名の異なるタップダンス教師による、事前に録画したクラスをオンラインで流します。あらゆるレベルのクラスをご用意しています。私のクラスもありますよ。7月5日から開催します。
受講者には、全てのクラス、パフォーマンスの公演、イベントには24/7(1日24時間1週間毎日)、30日間いつでも何度でもアクセス権があります。つまり、好きなだけ何回も同じクラスを受講して復習することも出来ます。日本にいながらにして30日間、いつでも好きな時に好きなだけ、クラスを受講していただくことが出来ます。
お申込みはウェブサイトで出来ます。
https://www.atdf.org/account/login/create
クラスの受講なしで、それ以外の公演、イベントにオンラインで参加ご希望の方も、ウェブサイトでお申し込みいただけます。全て通しのチケットで49ドルです。
バーチャル・タップ・シティは新しい試みですが、私はとても楽しみにしています。今年のタップ・シティは人々と直接会えないですが、オンラインで世界中の人々にご参加いただけるので、新しい形の再スタートです。
また、新型コロナウイルスに感染して亡くなったタップダンサーたちへ捧げるイベントも用意しています。活発に活動していたタップダンサーたちが、世界で1年間に新型コロナウイルスで6〜7名亡くなりました。
実は私自身も、去年3月に新型コロナウイルスに感染しました。3月9日に感染が分かりましたが、私は病院には行きませんでした。あのようなパンデミックで野戦病院のように感染者があふれていた病院に行くと、私はかえって病院の廊下で寒くて凍えたり、さらに具合が悪化しそうな気がしたので、病院に行きたくありませんでした。私は自宅で自主隔離して療養することを選びました。3月はニューヨークでは、新型コロナウイルスのパンデミックで毎日大勢が死亡していたので、あんな状況下でそのパンデミックの渦中にある病院へわざわざ自らいくことは、私には絶対にできませんでした。まだ自宅のほうが安全だと思ったのです。
私は新型コロナウイルスを治すためには、自分の直観に従ってよく考えて、2週間はただひたすらじっと寝て休んで過ごして、体力の回復に努めました。私は感染してから長期間、体調が悪かったです。でもじっとよく休んで寝続けたお陰で、無事に回復して蘇りました。
----無事に回復されて本当に良かったですね。パンデミックの最中だった病院へ行かないで自宅療養を選択なさったのが、幸いだったのでしょうね。新型コロナウイルスからの生還者の生々しい体験のお話は、とても参考になります。
トニー・ワーグ そのとおりです。私はもしあの時、ニューヨークの病院へ入院していたらさらに悪化していたかもしれないのです。病を治すには、じっと寝てよく休むのみですよ。私は自宅療養を選んで回復したのでラッキーでした。
昨年のパンデミック以降も、ずっとやることが山積みで多忙な日々が続いています。
私は、今後はタップダンスの歴史について、詳しい内容をシェアしたいと考えています。タップダンスの歴史はとても興味深くて、重要です。新型コロナウイルスのパンデミック以前には、誰もタップダンスの歴史について興味を持たなかったし見向きもされていなかったのです。ですから、私は今こそタップダンスの歴史に注目してシェアしていきたいです。
また、自主隔離やソーシャル・ディスタンスのお陰で、ダンスクラスもオンライン化したため、人の直接のコミュニケーションが減ってしまいました。それはあまり良くないなと思います。人々と直接会うこと、教師と生徒が直接会ってのコミュニケーションが必要だと思うのです。やはり人は直接会って話をするほうが、その方がどのように感じているのか、何を考えているのかとか、数値化したり言葉で説明できない情報量が多いから教師と生徒もよく分かりあえますから。人類は生身の人々との直接のコミュニケーションが必要不可欠だと実感しています。そのため、スタジオ内にはあまり生徒の人数を入れられませんが、少人数で教師と生徒が直接コミュニケーションを取れる特別クラスについても計画を考えています。
----何か日本のダンスファンの方々へ、メッセージをくださいますか。
トニー・ワーグ 遠い日本は、われわれから見れば世界の別の地域なのでとても興味深い国です。私は日本独特の文化に興味があります。日本のあなた方も、アメリカの文化であるタップダンスに興味がありますよね、それと同じことです。
私はぜひ、今後もっと日本人による、日本の文化の影響を受けた特別なタップダンスを見たいです。もっと、日本の歴史や文化の要素をミックスさせて、日本的な音楽を使った、日本人によるタップダンスを見たいのです。例えばあなたはアメリカ人よりもパーカッシブですが、日本にもパーカッシブな伝統的な音楽があるでしょう。多くの日本人はアメリカのジャズ音楽が好きなことは知っていますが、それと同じようにアメリカ人である私は日本の伝統音楽がとても興味深いのです。日本はタップダンス人口が多いですが、アメリカの影響を受けているタップダンスをそのまま踊るよりも、もっと日本の文化と音楽の影響を受けた日本人独自の日本的なタップダンスを踊ったら良いと思います。
----最後に、新型コロナウイルスの影響で、自宅隔離が多くなっているので、特にこれからダンサーになりたい若者は、モチベーションを保つことが難しいかもしれません。ダンスの練習を1人で続けるモチベーションをどのように保ったら良いのか、何かアドバイスをくださいますか。
トニー・ワーグ 確かに、自宅隔離をしたり、ソーシャル・ディスタンスを取らなけらばならなかったり、オンラインでクラスを受けたりすることが多くなりましから、自宅で1人で過ごす人も多いと思います。長い期間、1人で過ごすことになったとしても、私はそれを必ずしも悪いことだとは思っていません。1人で静かに考えることが出来る良い機会の到来とも言えますよ。
自然界を見ると、例えば、水が1滴ずつポタッポタッと落ちたり、やがて水がたまっていったりしますよね? 1滴のしずくの水の姿も自然の姿です。1滴のしずくの水のように、人間も1人になって静かに考えることも自然の姿です。そのように自然界を見渡せば、あらゆることを私たちに教えてくれていますよ。自然界の中には様々な答えやヒントがたくさんあります。
「人は何か1つのことに集中して努力し続けるべきだ」という考え方は、私は嫌いです。そのように出来ない人々もたくさんいるのだから、そうしない人たちが良くないとか堕落しているというふうに捉えることは、嫌いなのです。どうして一つのことに集中して努力しなければならないと押し付けるのか? 集中して努力し続けることが出来なくても、それでいいのです。自然に自分の内側からあふれてきて努力に向かうことこそが本来のアートです。アートなのだから、自然に自分の内側からこんこんと湧き出てくることを取り出して外へ表現したり、自然に努力するもののはずです。自分に無理なことをする必要はないです。何事も、自然体で取り組むことが一番良い結果につながると私は思います。
私自身も、いつも大勢の人々と会うので、時々たった1人でスタジオにこもって過ごすことがあります。静かに自分の内側からこんこんと湧き出て来ることを探って感じたり1人で考えてみたり、踊ってみたりしています。そのように、皆さんも1人だけで過ごして自分の内側と対話する時間を持つことは、大切なことだと思います。今は自主隔離で、そのように1人で自分の内側と対話したり、内側から外へ取り出すためには、良い機会だとも言えます。
----おっしゃるとおりですね。とても勉強になりました。興味深いお話をお聞かせくださりありがとうございました。
(2021年5月24日 アメリカン・タップダンス・センター)
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