トーマス・フォースター(ABTプリンシパル・ダンサー)=インタビュー

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

Thomas Forster ABT Principal Dancer

トーマス・フォースター:アメリカン・バレエ・シアター プリンシパル・ダンサー

Q:Covid-19の影響で昨年3月から、ABTでもすべての公演がキャンセルになり、ダンサーたちは仕事を失っていますが、あなたはオンラインで何かクラスを教えていますか。

フォースター:はい、オンラインでトレーニングのクラスを教えています。私は幸いなことに、昨年のCovid-19のパンデミック以来、オンラインでパーソナル・トレーニングのクラスを教える仕事が出来ているので、現金収入がありとても助かりました。5年前に私はNASMのパーソナル・トレーナーの資格を取得して、トレーニングを教えています。NASMとは、National Academy of Sports Medicine(全米スポーツ医学アカデミー)です。

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photo/ Renata Pavam

Q:あなたはCovid-19でダンサーの仕事を失っても、副業で収入を得ていたのですね。

フォースター:はい、生き残ることが出来る準備がすでに整っており、私は幸運でした。現在、オンラインのオープン・クラスと個人クラスの両方をZoomを使って教えています。

Q:どのようなトレーニングの内容ですか。

フォースター:パーソナル・ジムのような内容です。今日も午前中は、少し場所を空けて撮影しました。いつもは自転車を置いている玄関付近では撮影していませんが、今夜、ABTの友人がダーツをしに私の自宅に遊びに来る予定なので、ダーツボードを壁に設置していつもとは違う場所で撮影しました。

Q:あなたはどのようにロンドンでバレエを始めましたか。

フォースター:子供の頃大好きだったアニメの「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」(Teenage Mutant Ninja Turtles)に、忍術が得意なカメたちが出て来るのですが、それを観て私も空手を習いたくなりました。母が空手教室に私を連れて行ってくれましたが「10歳からしか空手教室に入れません」と断られました。その時、私は7歳でした。空手を習える年齢に達するまでの間、バレエを習って脚を強化しておけば良いと言われて、母が私をバレエ教室に連れて行きました。その時私は「バレエとは何であるのか」全くノー・アイデアでした。
バレエ教室は当時の私には少々退屈でした。教室では男子は私1人だけだったからです。でも、そこのバレエ教師が私の足腰など身体を観て、「あなたはバレエの才能があるから、11歳から英国ロイヤル・バレエ・スクールを受験してみませんか」と勧めました。それがきっかけで、私は8歳で英国ロイヤル・バレエ・スクールのジュニア・アソシエイト・プログラムに入学し、8歳から11歳まで週1回通いました。

Q:あなたはとても早い時期から正統派のバレエ教育を受けたのですね。

フォースター:はい。英国ロイヤル・バレエ・スクールのジュニア・アソシエイトの教室には、同じような年頃の男の子たちが20人くらいいましたから、とても楽しかったです。その後、11歳の時に英国ロイヤル・バレエ・スクールのホワイト・ロッジ(White Lodge、11歳〜16歳のフルタイムのバレエ・スクール)のオーディションを受けましたが、合格しませんでした。
そのため、私はエルムハースト・バレエ・スクール(Elmhurst Ballet School)に入学しました。ここはバレエだけではなくて全体的なパフォーミング・アーツの学校で、ジャズ、タップ、モダン、ドラマ、歌などたくさんのことを学びました。
日本について少し話しますね。バレエ学校の生徒だった時から、私たちは日本が大好きで皆で憧れていたのです。その頃の昔の同級生の1人、ジェームズが日本に渡って、日本人女性と結婚して東京に住んでいて美しい子供もいるので、私はABTの東京公演の度にジェームズに会いに行きます。それが日本公演の楽しみの一つでした。もう1人の同級生のオリバーも日本に渡って、東京に住んでいます。たしか彼はまだ現役でバレエを続けています。バレエ学校の同級生が2人東京に引っ越して住んでいるほど、私たちは皆、日本が好きなのです。私は日本が大好きで、尊敬しています。日本はとても清潔だし、電車も清潔で時間どおりで正確だし、皆さん礼儀正しいし、他人を尊重するし、私は訪日する度に素晴らしいところだなと感心します。皆、日本を見習って暮らさなければならないと思うほどです。私は日本文化、日本食、温泉、渋谷など・・・、とにかく日本が大好きなのです。( I love love love Japan !)温泉は素晴らしいので、私は日本に行くとよく温泉に通います。

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Q:同級生の皆さんも日本が好きなのですね。

フォースター:私は16歳になると身体が成長してさらにバレエに向いている状態になったので、再び英国ロイヤル・バレエ・スクールのアッパー・スクール(Upper School、16歳〜19歳のフルタイムのバレエ・スクール)のオーディションを受けて入学しました。そして16歳から18歳まで、週6日間毎日、学校に通いました。午前9時から夕方6時か7時くらいまで、毎日長時間、学びました。ハードでしたが、とても良いトレーニングを積むことが出来ました。私はロンドンに実家があるので実家から通いました。私が学校から帰宅すると、いつも母が夕食を用意してくれていました。当時のことを私はよく覚えています。私がヘトヘトに疲れて帰宅しそのままベッドになだれ込んで眠ってしまった時、母が私を呼びに来て驚いて「わ〜!ごめんなさい」と言って、そのままそっと寝かしておいてくれました。
私は2005年卒業ですが、この学年は「ベリー・タレンテッド・イヤー」と呼ばれて、たくさんの才能あふれる学生が集まっていました。例えば同級生には、振付家のリアム・スカーレット(Lian Scarlett)、マリインスキー・バレエのプリンシパルのザンダー・パリッシュ(Xander Parish)、イングリッシュ・ナショナル・バレエのプリンシパルのジョセフ・ケーリー(Joseph Caley)、元シュツットガルト・バレエのプリンシパルでチューリッヒ・バレエ団のファースト・ソリストのウィリアム・ムーア(William Moore)、元シュツットガルト・バレエのプリンシパルでチューリッヒ・バレエ団のファースト・ソリストのアレキサンダー・ジョーンズ(Alexander Jones)、サンフランシスコ・バレエ団のプリンシパルのアーロン・ロビソン(Aaron Robison)などがいました。もっと他にも才能ある同級生がたくさんいてとても有名な学年でした。ぜひ、英国ロイヤル・バレエ・スクールの2005年卒業生について調べてみてください。
英国ロイヤル・バレエ・スクールの2005年卒業公演ツアーで、日本に行きました。私たちは素晴らしい経験が出来て、とてもラッキーでした。東京の公演の時に、この同級生と渋谷のシャコトのお店に行きました。

Q:シャコト?

フォースター:そうです、シャコトです。ほら、レッグウォーマーとかシューズとかバレエ用品の。

Q:ああ、チャコットのことですか。

フォースター:そうそう、チャコット! シャコトではなくて、チャコットなのですか。

Q:そうです、これは日本語でチャコットと発音します。フランス語読みの"シャ"ではないです。

フォースター:シャコトだと思っていました! そのチャコットの渋谷店に行って、あるレッグウォーマーが素晴らしいと気に入って、結局、全員が同じレッグウォーマーをお揃いで買ったのです。伸ばしたら踵から太もものほうまである黒いレッグウォーマーです。このレッグウォーマーは私の一番のお気に入りで、今でも使っているのですよ。今日は、それを持ってきましたよ!あなたにお見せしましょう。ちょっとお待ちください。
ほら!(・・・とトーマスはチャコットの黒いレッグウォーマーを見せてくれました)

Q:本当ですね! 2005年から今でも同じものを使っていらっしゃるなんて、すごく長持ちしているのですね。

フォースター:はい、今でもこれは状態が良くて長持ちしています。
この2005年卒業の同窓生は皆、今でもこの同じレッグウォーマーを大切に持っていて使っているのですよ。とても上質なレッグウォーマーだったので、私たちは皆、チャコットが大好きなのです。

Q:それは嬉しいです。ありがとうございます。
ところで、そんなに才能あふれる学生がたくさん集まっていた「ベリー・タレンテッド・イヤー」の学年に在籍していらっしゃった、あなたの学生生活はいかがでしたか。

フォースター:才能あふれる同級生がひしめいていた学生生活は、お互いに切磋琢磨して努力しました。この学年はバレエのレベルが非常に高かったので、皆、ついていくためにはとても努力をしていました。英国ロイヤル・バレエ・スクールは1年ごとに試験があり、合格点に達していなければ落第となり、退学させられます。優秀な才能ある学生が多いこの学年は落第しないために努力が必要でした。ですから、とても充実した学生生活を送ることが出来ました。
私は入学して最初の年の試験はただパスしただけでしたが、卒業の年の試験では最優秀者になり、Honor(栄誉)で卒業しました。

Q:Honorとは最高得点で卒業したのですか。

フォースター:はい。最高得点を取って卒業しました。

Q:才能あふれる卒業生の中で最高点とは、すごい努力をしたのですね。

フォースター:はい、私は努力しましたが、ただやみくもに努力するのではなくて、努力の内容が理に適っていたから成果が出たのです。私が16歳の年の進級試験ではスレスレでパスしたのは、当時、まだ私が成長過程にあったから身体が踊るために出来上がっていなくて、身体的に弱かったからです。ありがたいことに、英国ロイヤル・バレエ・スクールは、まだ身体が成長過程にある子供たちが上手く身体を強く作りながら、成長していくことが出来るためのカリキュラムが充実しているのです。私はまだ弱かった自分の身体を、ケアしながら確実に強く作り上げていくことが出来るように、学校で細かく指導してもらいました。卒業する頃は、入学直後よりも、より良い強い身体になりました。この学校は、このように本当に最高の内容を教えてくれるので、私はここで学んで良かったととても感謝しています。

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© gene schiavone

Q:英国ロイヤル・バレエ・スクールは、ただバレエだけを教えている学校ではないのですね。バレエだけではなく、成長期の子供たちが身体をより強く作りながら成長していけるためのケアもしているのですね。

フォースター:はい、そのとおりです。成長期に合わせて上手く身体を強く作っていくことができる学校です。それぞれの身体の状態を見て、医学的に理に適っているトレーニングをするのです。歴史が長く蓄積があるからだと思いますが、カリキュラムがとても充実しています。
それから私たちの学年は、ちょうど学校の校舎の引越しを経験しました。最初の1年目は、とても古い校舎に通いました。2年目からはコヴェントガーデンの新しい校舎へ引越しました。ですから私たちは、歴史ある古い校舎と新築の校舎と両方で学び、貴重な経験が出来たと思います。

Q:同じ英国ロイヤル・バレエ・スクール出身のABTのプリンシパルのコリー・スターンズとあなたは、仲の良い友人だそうですね。

フォースター:はい、コリーとは英国ロイヤル・バレエ・スクール時代から、今もずっと仲の良い友人です。2003年に私は入学しましたが、コリーは1学年先輩です。

Q:私は去年、コリーにもインタビューしましたが、コリーは元ABTのアンヘル・コレーリャのの後輩で、よくアンヘル自身のプロジェクトで一緒に踊ったとのことでした。そのアンヘルにも私は何回かインタビューをしてきました。アンヘルからコリー、トーマスへと、仲の良い気の合う先輩後輩が同じ線の上で続いている3人にインタビューすることが出来ました。この3人は波長の合うお人柄なのでしょうね。

フォースター:アンヘルはとても素晴らしい先輩で、優れた監督でもありますが、コーチとしても優れていますよ。アンヘルはずば抜けた実力のダンサーだったので、ジャンプや回転も上手で、すごかったですね。彼はとても優しくて親切で、私たちのような後輩にも、プリンシパルだった当時からよくコーチしてくださっていました。高く大きくジャンプをするコツとか、より良く回転するコツとかをよく教えてくださいました。私はアンヘルにとても感謝しています。

Q:アンヘルは若い後輩たちに、現役当時から自分の技術を教えていたのですか。バレエの世界は競争社会だから、中には自分の技術は秘密にしておきたいと考えるダンサーも多いではないしょうか。

フォースター:はい、アンヘルは素晴らしい先輩です。

Q:あなたは英国ロイヤル・バレエ・スクール出身なのに、なぜ、ABTに入団することを選んだのですか。

フォースター:卒業後の進路を決める頃に、私は2つの選択肢が与えられました。一つは英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団へ入団するか、もう一つはニューヨークのABTのスタジオ・カンパニーに入団するか、でした。私はどちらも選べる立場でした。ABTの選択肢は、2005年の英国ロイヤル・バレエ・スクールの卒業公演ツアーで、ニューヨーク公演にも行ったことがきっかけでした。そのニューヨーク公演で私のパフォーマンスを観たABTの監督の目に留まって直接オファーをいただいたのです。
当時私は若かったので何にでも好奇心旺盛でしたから、自由な若者が「ニューヨークに行くチャンスがあるよ」って言われたら、迷わず「ニューヨークに行ってみたい!」と思いました。エネルギーがあり余っていましたから。あまり深く考えずに、ただ「ニューヨークに行きたい」という一心でABTを選びました。今でしたら、家族の近くに住みたいと思いますが、若かった私は「外の世界も観てみたい!」という好奇心のほうが勝っていたのです。

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© Rosalie O'Connor

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© Rosalie O'Connor

Q:あなたはロンドン生まれロンドン育ちですね。伝統のある英国ロイヤル・バレエ・スクールもご自宅から通えたし。恵まれているのに逆に「ニューヨークに行ってみたい」となったのですか。

フォースター はい、「ニューヨークに行ってみたい」という好奇心のほうが強かったです。若い時はそんなものですよ。そして卒業後にはニューヨークに引っ越して、ABTのスタジオ・カンパニーからABTに入団しました。そして昨年、プリンシパルに昇進しました。

Q: ABTと英国ロイヤル・バレエ団には何か違いがありますか。

フォースター:世界のトップのバレエ団はどこでもバレエ技術のレベルはとても高く、どちらのカンパニーもテクニック的には同じようなレベルだと思います。大差はありません。
ABTには常に、世界のスーパースターのダンサーが在籍してきています。アンヘル・コレーリャ、マルセロ・ゴメス、コリー・スターンズ、デヴィッド・ホールバーグ、・・・それに、ホセ・カレーニョなどです。ジュリー・ケントやジリアン・マーフィーなどもいましたし、ABTにダンサーとして在籍しているだけで常にそのようなスーパースターの踊りを間近で観ることが出来ますから、とても勉強になります。これは若いダンサーにとって、スーパースターの踊りを間近で観て刺激を受け、具体的にどのように踊るのかイメージが湧きます。若者たちはすごく高いレベルのテクニックを自然に身につけて、踊ることができるように発展していっています。若いダンサーたちの踊りをじっくりチェックしてみてください。きっと驚きますよ。スーパースターが常に在籍しているバレエ団では、他のダンサーたちが刺激を受けるので、レベルが自然に高くなっていくことが分かります。

Q:あなたのご家族や親戚で、他にダンサーの方はいらっしゃいますか。

フォースター:いいえ、いないです。私1人だけがダンサーです。アスリートといえば、親戚で他に1人、ボクサーがいますが。私の父はアーティストで、画家と彫刻家として活動しています。大きなブロンズ像の注文が時々入って、手掛けていました。父は今でも毎週末、近くの公園に出かけて人々をスケッチしています。

Q:お父様はバレエとは違う分野でアーティストとして活動されているご家庭だったのですね。

フォースター:はい、アートに関係している家庭環境でした。父の作品の画像をお見せしましょう。(スマートフォンで画像を見せました)
これは、父の彫刻の作品です。私はこの作品が大好きなので、ニューヨークの自宅に飾っています。

Q:素晴らしいですね。お父様がそんな成功している画家で彫刻家でしたら、あなたも子供の頃から絵を描いていましたか。

フォースター:いいえ、私は絵がすごく下手で、全く向いていなかったのです。だから私は絵を習いませんでした。

Q:そうですか。でもあなたにはバレエの才能があったのですね。プリンシパルとして、まだABTの公演が無いままですが、あなたが今まで踊った演目の中で、好きな役柄は何ですか。

フォースター:『ロミオとジュリエット』のティボルト役が大好きです。ティボルトは劇的な役柄だから演じるのが好きです。『ジゼル』のアルブレヒトも好きです。『ジゼル』は、ワシントン公演でジリアン・マーフィーを相手役にアルブレヒトを踊りました。とても光栄でした。マーフィーは素晴らしいダンサーですし、パートナーとしてとても踊りやすかったです。
他には、アレクセイ・ラトマンスキー振付の作品も好きです。昨年の3月に踊った彼の新作で、『オブ・ラブ・アンド・レイジ Of Love and Rage』が好きです。これはフルレングスの作品で、私はカエレアス(Chaereas)役を踊りましたが、難しかったのですが踊りがいがあり、とても楽しかったです。

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© Rosalie O'Connor

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© Rosalie O'Connor

Q:昨年3月から、ABTでも全ての公演がキャンセルになりスタジオも閉鎖していますが、あなたはどのようにダンサーとしての身体を保つ努力をなさっていますか。

フォースター:ABTは、週5日、毎朝10:15から11:30まで、所属のダンサーのためにバレエ・クラスをZoomで提供しています。それにABTから、ダンススタジオ用のハーレクイン・フロアーが、ダンサー全員に無料で提供されました。そのフロアーを自宅の床に敷いています。これはとても良いです。このフロアーの上でバレエの練習をしています。
あとは、自宅にトレーニング用のバイクを設置して、毎日運動しています。心肺機能を高める有酸素運動です。私のダンサーとしての心肺機能を保つためです。このバイクを使った有酸素運動はハードですが、とても良い効果があります。

Q:そのバイクは、現役のプロのダンサーにとってもハードな運動なのですか。

フォースター:はい。ダンサーは心肺機能を高く保っていなければならないので、心肺を鍛える必要があるのです。私はすべてのダンサーにこのバイクを使った有酸素運動をおすすめします。

Q:何というバイクですか。

フォースター:Rouge Echo Bikeです。私は自分で購入しました。Covid-19のロックダウンの最中に買いました。1台800ドルくらいです。
これはギアがついていて、ギアをだんだん上げていくと負荷がかかっていき、風圧が出ます。風圧を上げると騒音も鳴りますが、すごくハードな運動になり、足腰と心肺が鍛えられます。漕ぎ始めて40秒で息がきつくハアハアして苦しくなってきます。ものすごい運動量となり、効果的に有酸素運動が行えるので、心肺機能を高く保ち続けることが出来ます。私はこのバイクをとても気に入っています。これはダンサーだけではなくあらゆる人々におすすめです。

Q:ロックダウン中に体重が増えてしまった人が多いですが、このバイクで有酸素運動を行えば、痩せることが出来ますか。

フォースター:もちろん。ダイエットしたい人々にもおすすめです。

Q:でもそのバイクはかなり大きいので、自宅に設置するにはスペースが必要ですね。

フォースター:私はヨガが大好きで、オンラインでヨガのクラスを受講しています。毎日やるほうが良いのだろうけれど、私は今のところ、少なくとも週2回以上はヨガをやっています。ヨガも皆さんにおすすめの運動です。他には、私はストレッチを毎日、少なくとも30分以上やっています。ストレッチは大事です。
運動以外に大切なのは食事です。私は自分の肉体を通じて実感しました。若い頃は食事に全く気を使っていなくて、ジャンク・フードをたくさん食べていました。ヘルシーではない食事でした。でも若い時は若さのお陰で食事の影響があまり出ませんが、年齢が上がってくると体調に影響が出ます。特にダンサーは食事に気を付けないと、長く健康を保つことができなくなると思います。
私は毎日、よく水を飲むように心がけています。水を少しずつたくさん飲むことは大切です。野菜もたくさん食べるようにしています。ほうれん草、アボカド、卵など、ヘルシーな食事をとっています。食事に気を付けている時は、身体の状態がとても良いことを感じるようになって気がついたのです。

Q:あなたはいつ頃までジャンク・フードを食べていたのですか。

フォースター:ニューヨークで一人暮らしをし始めてからジャンク・フードを食べるようになってしまいました。ロンドンにいた時は実家にいましたから、母が毎日、ヘルシーな料理を作ってくれていました。ニューヨークに来てからは、全く料理をせず、手軽な外食ばかりしていましたし、何も気にせずジャンク・フードばかり食べ続ける生活をしていました。今の私が、昔の私へ「もっとヘルシーな食事をするべきだよ」と言ってやりたいですよ。実家にいた時には気付かなかった食事の大切さを身体で実感してからは、私はヘルシーな食事に気を付けるようにしています。
ダンサーとして私は、タバコとお酒も身体に影響が出るので、摂らないようにしています。特に公演期間中は、私はお酒を1滴も飲みません。寝る前に晩酌して、酔ったままの状態で寝ると、公演やトレーニングで酷使した身体が寝ている間に回復できないままになってしまいます。回復できていない状態でまた翌日も踊って肉体を酷使してまたアルコールを摂ると、だんだん身体に疲れが蓄積していくことに気が付いたのです。
私は公演やリハーサル、トレーニングをしなかったオフの日だけ、時々お酒をたしなむことはあります。
運動の他に、このように食事と睡眠も気をつけています。質の良い睡眠をとって、踊ったり練習した日のうちに身体を回復させて、翌日の練習へ向けて疲れを残さないようにすることが大事なのです。
若い時は何も気をつけなくても、自然に身体が回復しやすいから平気でしたが、私のように年齢が上がってくると体が回復しにくくなります。年齢が高くなってもダンサーを続けるには、毎日こまめに身体の回復に気を付けることと、疲れをためないことが大切なのです。

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Q:あなたは今、何歳ですか。

フォースター:35歳ですが、今後もまだ踊るつもりです。何歳まで踊ることが出来るか分からないですが、気をつけて身体を保って、様子を見ながら続けていきたいです。ダンサーがリタイアする平均的な年齢が35歳ですが、私は今後も踊り続けます。

Q:あなたは今も若々しいので、さらにダンサーを続けることができそうですね。応援しています。
ABTはCovid-19の影響で、ダンサーたちを解雇したり、一時的に給料を支払ったりまた止めたりしていますね。あなたはまだニューヨークに残っていらっしゃいますが、ABTの仕事がほとんど無くなっても生活はしていけますか。

フォースター:はい。Covid-19の後は、最高の状態ではないですが、生活はしていけます。公演が無くてもABTは存続していかなければならないので、給料を払うことが出来る時は払ってくれますが、払えない時期は仕方ないです。ABTもダンサーもともに存続していかなければなりません。幸い、私はABTが時々支払ってくれる給料と、アメリカ政府からの給付金がありますので、それだけでも生活していけています。それ以外に、私は先ほどお話しました副業で、パーソナル・トレーニングを教えています。ABTがバレエのクラス以外に、時々、フィットネス・クラスをZoomで放映していますが、ここでも私は時々教えています。

Q:そのクラスは不特定多数へ公開していますか。

フォースター:はい、公開しています。日本からも受講可能です
https://www.abt.org/training/open-division/adult-ballet-classes/
現在、フォースターは毎週水曜日と金曜日の朝10:00AM(ニューヨーク時刻)オンライン・クラスを開講。(45分間で10ドル)

Q:他にABTではバレエのクラスも公開していますね。バレエのクラスは教えていますか。

フォースター:はい、時々、バレエのクラスも教えます。でも、バレエ・クラスは、2時間近くかかりますが、トレーニングのクラスは短いですから。私が教えているのはトレーニングがほとんどです。好きな音楽をかけながら12種類くらいの運動を教えています。

Q:なぜ、あなたはパーソナル・トレーナーの資格を取ったのですか。

フォースター:それは副業でパーソナル・トレーナーとしても仕事をしたかったからです。もともと、私はABTのダンサーとして身体をさらに強く鍛える目的で、ニューヨークでジムに通っていました。私の身体がさらに強くなったので効果を実感しました。その体験がきっかけで「もっとこのようなフィットネスについて学びたい」「そして私と同じような状態にいる他の人々の助けになることが出来たらいい」と考えました。
バレエはとても静的なもので静止する動きが多いですし、ゆっくり身体を動かすことも多いですね。でもソロで踊る時は、長時間、身体をさらして激しい運動をします。でもダンサーがソロで激しい運動をすると、簡単に疲れやすい状態になります。バレエにはこのような両極端の静的な動きと激しくて速い動きがあります。ですから普段からその中間の運動を長くやる必要があり、そういうふうにクロストレーニングをして、身体を鍛えておくと良いということに気がつきました。
特にプリンシパルは舞台で出番が多いので、リハーサルでも本番でも長時間踊るために強い心肺機能、持久力とスタミナが必要です。プリンシパルではないダンサーは、出番が少なく運動が少ないですが、そういう時期でもプリンシパルの踊りを観察していて、私は気が付きました。私はまだ出番が少なかった時の合間に、ジムに通って身体を鍛えました。コール・ドの時期からプリンシパルになる時に備えて、身体の心肺機能を鍛えて高めておくことは大事なことです。
そしてフィットネスで身体を鍛えていくうえで気が付いたのは、バレエに必要なのは身体の外側の筋肉を鍛えることではなく、もっと身体の内部を鍛えて持久力をつけることが大事だということです。外側の筋肉を鍛えることと、体内を鍛えて持久力をつけることとは、全く違う運動をしなければならないのです。使う筋肉が全く違うのです。そのようにトレーニング方法と人体についての勉強も必要でした。

Q:なるほど。バレエのために心肺機能と持久力を高めるのには、どのようなエクササイズが効果的ですか。

フォースター:一つは先ほど話したバイクです。他はボディ・ウェイト・トレーニングがとても効果的です。自分の体重を使って鍛える運動です。自分の体重を使った運動なら、何でも良いのです。
例えば、スクワットがあります。スクワットもボディ・ウェイト・トレーニングです。スクワットに同時に他の要素の運動もプラスすると、他の効果も加わります。スクワットにジャンプを加えた運動がジャンプ・スクワットですが、これは心肺機能を鍛える効果が加わった運動です。腕立て伏せも体重を使った運動ですし、腕立て伏せにジャンプを加えることも出来ます。

Q:あなたはとても身長が高くて手足が長いダンサーですが、身長は何センチですか。

フォースター:190cmちょっとあります。でも背が高くて手足が長いと、バレエで小さく早くシャープに動く時は不利です。舞台上で優雅に見えるなど利点もありますが、バレエで素速く動くのはやりにくい時があります。それを少しでも改善するためにもクロストレーニングをしています。

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© Rosalie O'Connor

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© Rosalie O'Connor

Q:Covid-19の影響で仕事を失ったダンサーたちに、身体と精神を保つために、何かアドバイスをくださいますか。

フォースター:先ほど話しました、クロストレーニングをしっかりと続けていくことが大事です。ピラティス、ヨガ、パーソナル・トレーニングなどです。もちろんバレエ・クラスに加えて、クロストレーニングを行うことです。
ダンサーは練習を続けて、この時期を乗り越えていかなければならないのです。稽古場と舞台に戻れる日が来るまでは、振り返らずに前に進みましょう。
ダンサーとしての肉体と精神を保つための運動には、決して広いスペースは必要ではありません。狭いスペースでも出来る運動もたくさんあります。ヨガ、ピラティスは狭くても出来ます。別にバイクを買う必要はなくて、ボディ・ウェイト・トレーニングなら何でも効果的ですから、ぜひ続けてください。

Q:TRXも効果的ですか。

フォースター:はい、TRXはサスペンション・トレーニングですが、自宅のドアに引っ掛けて、簡単に狭いスペースでも出来ます。私はTRXも大好きです。TRXの資格のベーシックのコースを受講しました。ハードな運動をすることも可能です。体幹を鍛えて強くすることが出来るので、ダンサーにおすすめです。

Q:最後に日本のダンス・ファンにメッセージをいただけますか。

フォースター:もし夢があれば、夢を目指してみてください。健康に気をつけて、よく休んで眠ることも大切です。ダンサーは練習ばかり繰り返す毎日を送るので、その分、身体の回復も繰り返していかなければならないです。回復も大切です。もし自分で練習ばかりに追い込みすぎたら、身体の回復が追いつかなくてストレスがかかりますから、逆効果です。ですから身体のストレスを取り除いて、リラックスして、身体の疲れを回復させることにも力を入れてみてください。もし若ければ、夢をあきらめないで、やめないで努力し続けてみてください。
(2021年4月2日午後、ニューヨーク近郊の某会議室)

ABTカレンダー(オンライン・クラスやパフォーマンス映像放映の予定表)
https://www.abt.org/performances/master-calendar/
ABT Youtube Channel:
https://www.youtube.com/AmericanBalletTheatre

Thomas Forster
ロンドン生まれ。8歳で英国ロイヤル・バレエ・スクールのアソシエイト・プログラムに入学。11歳からフルタイムでエルムハースト・スクール・オブ・ダンスで学び、2002年16歳で英国ロイヤル・バレエ・スクールのアッパー・スクールへ入学、05年に卒業。翌年5月にABTスタジオ・カンパニーに入団。07年1月にABT入団。15年8月からソリストを務め、20年9月にプリンシパル。ABT認定教師、NASMパーソナル・トレーナー。
Instaglam は、@thomasforster22

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