オンライン・クラスが大成功を収めている、マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーのソリスト、シャーロット・ランドローにインタビュー

ワールドレポート/ニューヨーク

インタビュー=ブルーシャ 西村

Charlotte Landreau シャーロット・ランドロー
Martha Graham Dance Company マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー(ソリスト)

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的なパンデミックにより、世界各地でロックダウンになり、ソーシャル・ディスタンスを保つために公演が中止となり、ダンス・カンパニーやダンス・スクールも閉鎖になりました。アメリカでは未だにパンデミックは収まらず、ダンス業界でも先が見えない状況です。
ダンス・カンパニーが閉鎖となり、解雇となったプロのダンサーたちは仕事をすべて失いました。そんなダンサーたちは、それぞれでオンラインの無料クラスを公開する人々が増えていき、ちまたにはあふれ返っていて玉石混淆です。
その中には、上質な内容でワークアウトを発信し続け、今では世界中から生徒たちが集まるようになり成功している現役ダンサー、シャーロット・ランドローがいます。ランドローのオンライン・クラスは、無料でも公開されています。いち早くオンライン・クラスが成功したランドローのことは、日本の皆様にも参考になると思いインタビューをしました。

――最初、あなたが3月からインスタグラムとフェイスブックで、無料でワークアウトのクラスを毎日のように始め、それを見つけた私は内容のクオリティーの高さに驚きました。
ロックダウンのため自宅で過ごしている人々のために、ヨガマット程度のスペースがあれば出来るエクササイズを配信されていましたね。リアルタイムでチェックさせていただいていました。
そして身体を鍛える効果があり、誰でも出来る簡単な運動のメニューもある充実した内容でしたので、とても驚きました。あなたは筋肉とか人体の構造をよくご存知なので理にかなっていて、よく考えて自分の身体を鍛えてきた方なのだな、と分かりました。
このような高いクオリティーのワークアウトのクラスを見て、あなたのバックグラウンドも知りたいと思います。
なぜ、このような上質な内容のワークアウトを無料で公開し始めたのですか。人々の反響はいかがでしたか。
また、現在のあなたの無料クラスと、有料のプライベート・クラスについて、オンラインでの内容をお知らせください。

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© Christopher Jones

ランドロー 私は8年間マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーのソリストを務めています。
COVID-19以前には私はあまりインスタグラムを使っていなくて、舞台で踊り、パフォーマンスすることに優先順位を置いていました。でも、世界中で舞台公演が中止となり、ダンス・スクールもダンス・カンパニーも閉鎖になって、ロックダウンでこのような状況になってしまったからには、その状況を受け入れて順応しなければならないのです。
あなたがおっしゃるように、私もインターネット上にあふれている無料クラスについて同じことを思っていました。多くの人々が無料のダンスやワークアウトのクラスを公開しているものを見たところ、早くて簡単ですが、多くは内容が薄すぎて私にとっては理にかなっていないワークアウトばかりでした。
常に「本物」の内容であることが大切ですから、ワークアウトに関してプロとしての高いレベルに到達していなければなりません。そのため、私は公開するほうが良い、と思いました。
私はニューヨークのマーサ・グラハム・スクールとスイスのルードラ・ベジャール・ローザンヌ・バレエスクール(L'Ecole-Atelier Rudra Béjart Lausanne)のゲスト講師でもあります。2つとも私が学んだ学校です。私は才能のある個人に教えることが大好きです。

私のオンライン・クラスのインスタグラム・ライブは、毎週水曜日ニューヨーク時刻正午(12;00 pm EST)(日本時刻1:00 am木曜日)、私のインスタグラムのアカウント(@charlottelandreau.graham)で配信しています。これは無料クラスです。
私はこの新型コロナウイルス(Covid-19)による世界的な危機の最中に、奮闘しているアーティストたちへ上質な内容のクラスを提供したいと思い開講しています。これは私にとっても、ダンサーとしての肉体を維持するためになっています。私の母親も時々このクラスを受講しています。
上級クラス、初心者クラスなど、毎週違う内容です。このクラスで使う音楽は、私の友人のプロのピアニストのアン・ヴァダグニン(Anne Vadagnin)によるオリジナル曲です。彼女はスイスのルードラ・ベジャール・ローザンヌ・バレエスクール(L'Ecole-Atelier Rudra Béjart Lausanne)とベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL 、Béjart Ballet Lausanne)のピアニストです。
毎週、私はクラスの内容を組み立ててそのメモを彼女に送り、彼女はそれを読んでピアノで即興演奏して私に送ってくれて、毎回その新しい音楽で踊ります。彼女のとても美しい音楽のお陰で、クラスはさらにスペシャルなものに仕上がっています。
また、私はCovid-19の期間、経済的に生き延びるために、プライベート・クラスも開講しています。
私はCovid-19が最初にニューヨークで蔓延し始めてから数週間後に、人々が私へ連絡を取ることが出来るように、ウェブサイトを作りました。
その結果、驚くことに、多くの人々が私へ連絡してくださるようになり、現在、多くの才能あるセミ・プロのダンサーでグラハム・テクニークを学びたい方々に、プライベート・クラスを教えています。
このような「シェアすること」は、私が以前からずっとやりたかったことでした。

私のオンラインのワークアウトは、私をますます有名にしていっているので、感謝しています。お陰様で現在、私は毎日、プライベート・クラスを教えています。そして、世界中のダンス・スクールで、オンラインのマスター・クラスを教えています。ロンドン、メキシコ、パリ、ニューヨーク、ヒューストン、アルゼンチンなどです。
先述の毎週水曜日の無料オンライン・クラスは続けています。この無料クラスの優先順位は私の中で一番高く、私がやりたいことです。私自身のダンサーとしての身体を保つためでもありますし、人々と交流し続けるためでもありますし、グラハム・テクニークの私の情熱をシェアするためでもあります。
私は、早く私の身体と魂を使った作品を届ける舞台公演に戻りたくてたまらないですが、それまでの間、私のクラスが、少しでもこの現在の状況を乗り切る助けになることを望んでいます。

――あなたのクラスを時々受講していらっしゃる、お母様はダンサーですか。

ランドロー 私の母はダンサーではありません。ある学校の学長です。

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© the NYC dance Project

――Covid-19のパンデミックの後、あなたの生活はどのように変化しましたか。

ランドロー 3月半ばに特にニューヨークでCovid-19の蔓延がひどくなり始めてから、私は出来るだけ早くニューヨークから逃げ出しました。
マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーは3月12日に閉鎖したと記憶しています。この世界的危機は私にとってとても困難なものとなり、カンパニーはいつ再びダンサーたちを雇うことが出来るのか、私たちには分からないです。おそらく今年、2020年中は無理でしょう。
私はカンパニーが閉鎖したすぐその翌日に、テキサスのコーパスクリスティに住んでいる私の恋人に会いに行くために飛行機に乗りました。この地では、Covid-19の状況はひどくはなっていないように思えました。
それから私は、以前から頭の中で温めていたすべてのアイデアとプロジェクトをどのようにすれば実現できるのか、何が出来るか考え始めました。ずっと前から私はウェブサイトを作りたかったのですが、今まではそのための時間を取ることが出来ませんでした。そのため、ロックダウン中に私はウェブサイトを作りました。そして自分のウェブサイトを4月にオープンしました。

私は現在もコーパスクリスティに滞在中です。ニューヨークのCovid-19の状況はとても悪化していましたが、その後、ここも悪化しました。私は安全のためにもここを移動したくはないです。
仕事が無ければ、私の友だちや同僚のほとんどは彼らの実家で過ごしているので、私はニューヨークにいれば自分のアパートで1人ぼっちになったことでしょう。
私もヨーロッパの家族に会うために帰ることを考え始めましたが、私の恋人はここにいるし、もし私がフランスに行くと、とても長期間フランスに閉じ込められて会えなくなるだろうと思いました。
ニューヨークでは私はクイーンズに住んでいて、まだ私のアパートはそのままですが、いつ戻れるのか分からないです。

――現在のテキサスのCovid-19の状況は、いかがですか。ニューヨークではパンデミック中には、食糧をスーパーマーケットに買いにいくことや地下鉄バスに乗ることは感染リスクが高くて危険でしたが、テキサスでは食糧の入手はどうなさっていますか。

ランドロー 現在、テキサスの状況は良くないです。ある地域はCovid-19のパンデミックがひどくなりました。ありがたいことに、私たちは海岸沿いのとても小さな街に滞在しているので、長い間、ほとんどの他の地域よりもより安全でいられました。
でも私たちは食糧などの調達に少し恐怖を感じていたため、すべてオンラインで注文して、ドアの前まで配達してもらっています。
私は家に閉じ込められているため困難な状況です。とてもアクティブなダンサーにとって、これは簡単なことではありません。でも私たちは他の三人のルームメイトたちと美しい1匹の犬と共に住んでいるし、美しいビーチの近くなので、感謝しています。

――今までは、プロのダンサーとして、普段の生活の中では、どのように食事を摂っていらっしゃいましたか。また、ロックダウン中は、ダンサーとしての身体を維持するためには、どのように食事に気をつけていらっしゃいますか。

ランドロー グラハム・テクニークは、とても内容が濃いです。普段、団員ダンサーは月曜から金曜まで毎日、正午から夜7時まで練習をします。そのためツアー中や練習中は、私は自分の身体のエネルギー・レベルを高く保つために、しょっちゅう食事を摂るように心がけています。必ず3時間毎に、フルーツか野菜と、パスタかご飯と、たんぱく質のものを食べます。
現在のロックダウン中は、私は健康的な食事のバランスを維持するために努力しています。もし食べ過ぎたら、私は気分が悪くなりますし、ダンサーとしての身体を保てなくなります。もし十分に食べなければ元気が出なくなります。
そのため、ロックダウン中は、私は完全な十分な食事を1日3食摂り、ほぼ毎日ダンスの練習をして、もし欲しければ週末だけお酒を飲んでいます。この方法は、ハッピーで活動的に、やる気がある状態を保てる効果があります。

――ロックダウン中は、ダンサーとしてのモチベーションを保つために、どのようなことを心がけ、どのように自宅で練習していらっしゃいますか。このような危機的な時期にダンサーが気をつけなければならないことがあれば、アドバイスをいただけますか。

ランドロー 私はほぼ毎日、ダンスの練習をしています。私の身体と精神の休息をとることも、とても大事なことです。もし今日あなたは疲れていてやる気が出なかったら、心配しなくていいですよ。そういう時はベッドの中でよく休んでください。楽しんでください。そして明日、練習をしましょう。

――現在の滞在先はダンスをするスペースはありますか。

ランドロー ありがたいことに、私の今の滞在先には大きなガレージがあるので、そこでストレッチしたり踊ったり、いつでもやりたい時にクラスを教えることが出来るスペースがあります。
それはダンシング・フロアーや大きな窓が無いですから、ニューヨークのグリニッジ・ビレッジにある私たちのグラハム・スタジオのようではないですが、でも必要なものがすべて揃っています。

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© the NYC dance Project

――Covid-19の影響を受けて仕事を失っているダンサーたち、ダンス業界はどのような状況ですか。人々に何か伝えたいことはありますか。

ランドロー マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー(Martha Graham Dance Company)は3月半ばに閉鎖したので、私たち団員はいつ仕事に戻ることが出来るのか分からないですし、次の公演の予定を考えることすら出来ない状況で困難に陥っています。
Covid-19の影響で、ダンサーたちはそれぞれ状況が異なりますが、誰もそれについて何も話をしないです。
アートは生き残らなければならないですし、アーティストは社会によって保護されるべきです。私たちアーティストにとって今のこの状況がどれほど困難なことなのか、どれほど見通しが暗いのかを、世界は知らないのです。

――あなたはフランスのどの地域の出身で、どのようにダンスを始めましたか。

ランドロー 私はフランスのストラスブール(Strasbourg)というドイツの国境近くの街に生まれ、フランスではダンスの経験が全くありませんでした。
元々私は10年間、新体操をして成功しました。オリンピックを目指してトレーニングをしていて、私は16歳の時にフランスで3位になりました。でも足を骨折してしまいました。
そのため、私はこの新体操のキャリアを次のキャリアへと生かしたかったので、18歳からダンスのレッスンを受け始めました。私は演劇、サーカス、ダンスなどたくさんの学校に通ってみました。まだ自分が何をやりたいのかはっきりとはしていませんでしたが、私の中の何かが、いろいろ試してみるようにと私を後押ししていました。私は、何か芸術的な分野のことをやりたいということは確信していました。でも何を? どこで? と思っていました。

――どういう経緯でスイスのルードラ・ベジャール・ローザンヌ・バレエスクールで学んだのですか。

ランドロー スイスのベジャール・スクールは、とても特別なダンス・スクールで、無料で、優れた才能を持つ若いアーティストたちのための2年間のプログラムを組んでいます。彼らはベスト・ダンサーを探しているのではなく、本物のアーティストを探して完全な教育を提供しています。
彼らはオーディションで私を採用するのはリスクがありました。なぜなら私はダンスのレッスンをたった3ヶ月しか受けていなかったからです。でも私を採用してくれました。
この学校に通うと、周りは3歳からダンスをやり始めたような天才ばかりだったので、私は恐ろしかったです。私はここでの2年間でたくさんのことを学び、トレーニングの内容に追いつくためにすさまじい努力をしました。演技、歌、パーカッション、音楽、サーカス、バレエ、コンテンポラリー・ダンス、インディアン・ダンス、モダンダンス、ダンスのパートナリングについてなどを学びました。その過程で、私はマーサ・グラハム・テクニークを知り、大好きになりました。

――その後、どのような経緯でニューヨークに来てマーサ・グラハム・スクールで学び、マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーのダンサーになったのですか。

ランドロー ベジャール・スクールで2年間のダンス経験の後、私の周りの人々は全員、私はダンスの仕事を見つけることは不可能だよと言いました。私はいくつかのダンサーのオーディションを受けましたが、すべて落ちました。
それでも私はへこたれず、もう1つ、マーサ・グラハム・スクールのオーディションを受ける決心をしました。これはパリで1週間行われた長期間のオーディションでした。私はそこで踊ることがとても楽しかったので、これがオーディションであることをほとんど忘れていたほど没頭しました。その週の最後に、驚いたことに、ディレクターが私にグラハム・スクールで学ぶためのスカラシップをくださいました。その時、本当にここに行きたいと自分で認識するのに、2秒くらいしかかかりませんでした。ニューヨークでダンスを学ぶこと? もちろん、イエス! です。

私の両親はいつも私をサポートしてくれて、たとえそれがどんなに普通ではないことでも難しいことであっても、私が自分自身の道を見つけるために応援してくれています。アメリカ合衆国へ、この国の文化とダンス業界をまったく知らない私をたった1人で行かせることは、両親にとってとても難しいことだったに違いありません。
私がつまずきながら自力で自分自身の人生を作る自由と愛情を私に与えてくれたことについて、両親に感謝しています。
(2020年6月、8月1日〜4日 メールと電話でインタビュー)

Charlotte Landreau(シャーロット・ランドロー)
ウェブサイトは、charlottelandreau.com
インスタグラムは、@charlottelandreau.graham

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