「かつてのABTのように素晴らしいダンサーが世界中から集まってます」ペンシルバニア・バレエ芸術監督、アンヘル・コレーラ=インタビュー

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

アメリカは新型コロナウイルスの蔓延により、3月14日にトランプ大統領が緊急事態宣言を出し、ニューヨーク市では3月12日からブロードウェイミュージカルやバレエ、ダンス、オペラなどの劇場が閉鎖になりました。そのため、すべてのダンス公演が中止になりました。その後、刻々とパンデミックが大きく広がり、3月22日からニューヨーク市はロックダウンになり、自宅待機が続いています。ニューヨークが新型コロナウイルスの震源地となり、刻々と感染者数と死亡者数が増えていて、危険な状況です。
2月末に、ニューヨークで以前もインタビューをしました元ABTのプリンシパル・ダンサーのアンヘル・コレーラにインタビューしました。劇場は閉まっていて公演は全て中止ですが、インタビューをお送りします。
アンヘル・コレーラは、2014年からペンシルバニア・バレエ団の芸術監督に就任しています。

今回、2月23日にニューヨークのグッゲンハイム美術館にて、"Working & Process"(ワーキング&プロセス)というイベントでアンヘル・コレーラによるペンシルバニア・バレエ団の『ラ・バヤデール』について特集が組まれていたので、観に行きました。それは1時間程度のトークショーのようなイベントで、司会進行を交えてアンヘルが舞台上に座って、もうすぐペンシルバニア・バレエ団で初演予定だった『ラ・バヤデール』の製作と演出過程について、説明していました。
途中、実際にデモンストレーションとして、普段のレッスン着のままのペンシルバニア・バレエ団のダンサーが男女3名出てきて、順番に『ラ・バヤデール』の中の踊りを披露していました。その度に、アンヘルはそれぞれのダンサーにどこをどのように直したらいいかとか、表現のうえで気を付ける点を指導したり、自分も少し踊って見本を示したりして、実際に演出している姿を見せてくれました。
短いイベントでしたが、実際にどのようにバレエ団員を指導して演出しているのかを知ることができて、興味深かったです。
このイベントのためにアンヘルはニューヨークに滞在していたため、合間にインタビューをさせていただきました。

Q:以前、インタビューをさせていただいたことがあります。その続きとしてABT以降の活躍の様子と人生についてご質問します。
なぜスペイン(アンヘルが芸術監督だったバルセロナ・バレエ)を出て、再びアメリカに戻ってペンシルバニア・バレエの芸術監督になったのですか。

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Angel Corella. PENNSYLVANIA BALLET © Vikki Sloviter

アンヘル:なぜなら、スペインの経済が悪化したため私のバレエ・カンパニーも閉鎖しなければならなくなったからです。閉鎖してからの約1年間は、私はほとんど何もしていませんでした。ただ呼ばれたら様々なガラに出演していただけでした。バイオリニストなどの小さな個人的なプロジェクトやクリエイティブなコラボレーション、様々なガラ公演には出演していました。
そういう活動をしばらくしていたのですが、その後、元ABT役員のマイケル・カイザーから連絡があり、ペンシルバニア・バレエ団が新しい芸術監督を探しているからやりませんかとお話をいただきました。マイケル・カイザーはABTの後はIMG(インターナショナル・マネージメント・グループ)で働いていおり、そのIMGからのお話でした。
私の姉カルメン・コレーラ(元ABTソリスト)が1997年にABTに移籍する前、1995年から97年までペンシルバニア・バレエ団でダンサーとして踊っていました。その間、私は1995年からABTに在籍していたので、ニューヨークから時々、カルメンに会いにフィラデルフィアに行きました。それでペンシルバニア・バレエのことも、その地域のこともよく知っていましたので、"ぜひペンシルバニア・バレエ団の芸術監督になりたい"と答えました。

Q:お姉さんのカルメン・コレーラは今、どうなさっていますか。

アンヘル:カルメンは現在バルセロナに住んでいて、「コレーラ・ダンス・アカデミー」というバレエ・スクールを運営しています。200人以上の生徒が在籍していて、バルセロナの中心地にあります。
カルメンはダンサーとしては引退してもう踊っていないですが、バレエを教えています。このバレエ・スクールは私が運営していた学校とは全く別のもので、彼女の名前のカルメン・コレーラのコレーラ・アカデミーという意味です。私はバルセロナでダンス・カンパニーを持っていた時にカンパニーの学校も持っていましたが、カンパニーを閉鎖した時にその学校も閉鎖しました。

Q:あなたはもうダンサーは引退されたのですか。

アンヘル:はい。もう踊ることを止めました。

Q:もったいないですね。

アンヘル:いいえ。大きなバレエ団の芸術監督の仕事とダンサーとして踊ることは、なかなか両立できませんから。私は今までに、カンパニーとその学校の運営、芸術監督、ダンサー、振付を同時にやった経験がありますが、1人で何役もやっているとやることがあまりにもたくさんあり、とても難しかったのです。いつも時間に追われている状態が続いて、時々、気分が憂鬱になっていたものでした。
現在のペンシルバニア・バレエの芸術監督の仕事は、常に周りに人がいて大勢と話をし続ける毎日が続いて、多忙で全く自由な時間が無い状況なので、踊り続けることとの両立は無理です。
それにダンサーとしては、もう私の身体はだんだん衰え始めてきた頃でしたし、肉体的に元気でとてもパワーがあって良く動ける若い世代のダンサーたちがたくさんいるので、若い彼らにダンサーとしての道を譲るほうが良いと思い、もう自分が踊ることは止めました。

Q:最高のダンサーは世界の大きなバレエ団へ入っていくものですよね。でもペンシルバニア・バレエ団のダンサーたちをあなたが指導すれば、レベルはアップするという自信はありますか。

アンヘル:もちろんです。でも実際は、今は世界の優秀なダンサーたちがペンシルバニア・バレエ団に入りたがっているのです。
ダンサーたちにとっては、世界の主要なバレエ団であるかどうかにかかわらず、素晴らしいレパートリーを踊れることがとても大事なのです。世界へ向けて良い演目のプロダクションを作り上げるためには芸術監督が良い仕事をすることが最も大切です。芸術監督とそのチームが共に芸術的な仕事を成し遂げることです。
芸術監督は、ダンサーたちに良い仕事してもらうために出来る限りよく話すことが大事で、このプロダクションをこのように作り上げるためにはこれとこれとこれが必要でこうするべきだというような説明が必要です。それが足りなければダンサーたちに、よりきめ細やかに多く情報を与えなければなりません。さらに必要ならば違う種類の踊りを踊るために、バレエ団の教師とは異なった分野の文化の踊りを教える教師を用意して直接指導してもらいます。そのようにして異なった文化や踊りについても、より深く理解してもらうために努力します。世界中の重要なダンサーたちにとって、どこで何を踊りたいかということは、芸術的に注意深く作品作りをしているところかどうかということが、とても大事なのです。
今年はペンシルバニア・バレエ団に世界中から780名ものダンサーの応募があり、そのうち採用したのは2名だけでした。今ではそのくらいペンシルバニア・バレエ団で踊りたい、という素晴らしいダンサーたちが世界中から集まってきます。
現在はインターネットに、フェイスブック、インスタグラムなどでペンシルバニア・バレエ団の動画を直接発信しているので、それを観たダンサーたちが大勢「私は彼らと一緒に踊りたい! 彼らはとても素晴らしいダンサーたちだから」と、世界中から注目を集めているのです。
かつて、ABTには素晴らしい男性ダンサーたちがたくさん在籍した黄金時代がありました。ホセ・カレーニョ、イーサン・スティーフェル、フリオ・ボッカ、エルマン・コルネホ、そして私が同時に踊っていました。世界中の重要なダンサーたちが「私もABTに入って彼らと一緒に踊りたい! 彼らは素晴らしいダンサーたちだから」といって殺到しました。今まさに、それと全く同じことがペンシルバニア・バレエ団で起こっているのです。大勢の素晴らしい男性ダンサーたちがいます。とても美しい素晴らしい女性ダンサーたちもたくさん揃っています。

Q:ダンサーたちの踊りの実力をアップするためには、どのような指導をしていますか。

アンヘル:クラシック・バレエのテクニックについては、実力をアップさせるためのコツがいくつかありますし、踊るための身体を完璧にするように、筋力をつけなければならないということもあります。例えば、回転するテクニックにはどのように身体をアップするのかとか、どのように足で床を押すといいのかというコツなど、いくつかの小さなシークレットがあります。そういうことはダンサーたち一人一人を見ると分かるので、そのコツを指導していきます。舞台の上に立つ時には、ダンサーたちは踊りのテクニックのことに気を取られたり、回転のことなどをいちいち心配していてはいけないですし、頭で何も考えずに自然に踊れるようになっていなければならず、余裕を持って踊って楽しんでいることが大事なのです。ダンサーたちをそこまでの境地に至らせるためには、プロセスに長い時間をかけて、少しずつテクニックを洗練させて純度を高めていき、改善していく訓練が必要です。
私はダンサーたちを育てるために、できるだけ長い時間を彼らと一緒にスタジオにいて、彼らと直接たくさん話をし合い、どのように手を動かして使うか、どのように体を使うか、一つ一つの動作を細かく指導します。彼らがより深くバレエを表現できるように、役柄のキャラクターを理解させるためにも、この役は今どこにいるのか、何をしているのか、歴史の時代背景はどういうものか、といったことをたくさんの話して教えています。

アンヘル・コレーラ Angel Corella
1975年11月8日、スペイン、マドリッド生まれ。1995年にABT(アメリカン・バレエ・シアター)に入団し、翌年にプリンシパルとなり、17年間活躍した後に退団。2002年にブノワ賞、2003年にスペイン国民舞踊賞(El Premio Nacional de Danza de España)などを受賞。2008年から2014年まで、バルセロナ・バレエ(The Barcelona Ballet)というバレエ・カンパニーを率いて芸術監督、振付、プリンシパル・ダンサーを務めて活動した。2014年にペンシルバニア・バレエ団(Pennsylvania Ballet)の芸術監督に就任。

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