インスタレーションとフィジカル・シアターが融合した舞台、パパイオアヌーによる『ザ・グレート・テーマー』

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

"The Great Tamer" 『ザ・グレート・テーマー(偉大なる調教師)』

Conceived and directed by Dimitris Papaioannou ディミトリス・パパイオアヌー:発想&監督

11月14日から17日まで、ブルックリンのBAMで、ディミトリス・パパイオアヌーによる『ザ・グレート・テーマー』の公演がありました。BAMが毎年行うネクスト・ウェーブ2019に招聘されていました。
音楽は、ヨハン・ストラウス II です。

ディミトリス・パパイオアヌーは1964年アテネ生まれ、ギリシャの実験演劇の舞台監督、振付家、美術家で、2004年にアテネ・オリンピックの開閉会式の演出をしたことで注目されました。高等美術教育を受けており、活動初期には画家、イラストレーター、漫画家として知られていました。ベースが美術家である珍しい振付家のため様々な要素を兼ね備えていて引き出しが多く、その作品は美術的で発想が独自で、動く絵画か映画のようで視覚に強く訴える衝撃的なものです。その後、舞台の芸術監督、振付家、パフォーマー、舞台背景デザイナー、衣装&メイクアップ・デザイナー、照明デザイナーとして、活動の中心を移していきました。1986年にニューヨークでモダンダンスや舞踊を学び、ギリシャに戻りエダフォス・ダンス・シアター( Edafos Dance Theatre)という自身のダンス・カンパニーを設立し、2002年まで16年間で17作品を創作しました。2012年に『プライマル・マター』(Primal Matter)、2014年に『スティル・ライフ』(Still Life)を創作し、ヨーロッパ、南米、アジア、オーストラリアなど広く世界で公演しました。2017年にこの作品『ザ・グレート・テーマー』は10の共同プロデューサーの協力を得て制作され、同年、ヨーロッパ演劇賞をローマで受賞し2019年にパパイオアヌーはローレンス・オリヴィエ賞の優秀ダンス賞にノミネートされました。この作品は2019年末まで長きにわたり30都市以上で世界ツアーを行い続けています。2018年にはヴッパタール舞踊団へ『シンス・シー』(Since She)を振付・演出し、ピナ・バウシュの没後、初めてフルレングスの新作を創作したアーティストとなりました。

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© Max Gordon

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『ザ・グレート・テーマー』は、休憩なし1時間40分の作品でした。10名のパフォーマーはほとんど男性です。ダンスというよりパントマイムのような演劇のような作品でしたが、全員の身体は引き締まっていたので普段から鍛錬を積んでいるダンサーたちであることが分かりました。
舞台セットは、客席へ向かって黒っぽい色の傾斜した床が舞台全体を覆っていました。全体にモノトーンで舞台全体は薄暗く、出演者にスポットライトが当たって明暗のコントラストが強く劇的な場面を作っていました。作品全体を通じて、このように明暗法の絵画のような場面が続きました。
舞台が始まる前から一人の男性パフォーマーが出ていて、寝そべったり、座ったり、客席を見渡したり、ゆっくりと動いていました。舞台が始まるとスーツの一人の男性が、靴を脱ぎ、ジャケットを脱ぎ、1枚ずつ衣服を脱いで裸になり、舞台の床の表面のシートを1枚めくって裏返し、その上に横たわりました。舞台の床は無数に重ねられた黒っぽい色のタイルのようなシートで一面覆われていて、めくれるようになっていました。別の男性が出て来て、横たわった男性に白い布をかけました。また別の男性が出て来て、隣の床のシートをめくって裏返してパタッと倒すと、その男性にかけてあった白い布がふわっと浮いて外れました。それを何度も繰り返していき、ペースがだんだん早くなっていきました。このような情景で始まりました。全体に、音楽はほとんど流れず無言のまま体の動きで表現しているところが多かったです。

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盛り上がった面白いシーンはいくつかあり、1人が裸、3人は黒子のように顔と片足か片手など身体の一部分を出している黒い服を着ていて、4人くらいでくっついて1人の人体を表現してゆっくり歩いて動かしたりしました。これは男性たちだけや、女性たちと男性が混じって1つの人体を表現していましたが、筋力が必要な動きで難易度は高かったです。息も合っていました。
床のシートがめくれて穴が開いて、その中にパフォーマーが入って表現するところも何度かありました。その中には水があって外へ水しぶきをまいたりもしていました。
宇宙飛行士の格好をしたパフォーマーがゆっくり斜面を降りて来て進み、スローモーションで動いているところは、まるで宇宙空間で月面を動いて進んでいるかのように上手く動けていました。
空間の使い方と演出が上手く、美術の立体のインスタレーションに無言の演劇のような動きで、フィジカル・シアターが合わさったようななんとも美しい作品でした。美術的で独特で面白く、あっという間に終わったように感じられる、楽しくてしかし衝撃的な舞台でした。
(2019年11月15日夜 BAM、ハワード・ジルマン・オペラ・ハウス)

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