スピード感にあふれるスリリングな舞台、ブルーノ・ベルトラオの世界

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

Bruno Beltrão / Grupo de Rua ブルーノ・ベルトラオ/ グルーポ・ヂ・フーア

"Inoah" Bruno Beltrão 『イノア』ブルーノ・ベルトラオ:振付

10月31日から11月2日まで、ブルックリンのBAMで、ブルーノ・ベルトラオ/グルーポ・ヂ・フーアによる『イノア』の公演がありました。休憩なし50分間の作品で、出演ダンサーは男性10名でしたが、ベルトラオ本人は出演しませんでした。音楽はフェリペ・ストリノ(Felipe Storino)です。
ブルーノ・ベルトラオは1979年生まれ、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ郊外のニテロイ出身の振付家で、1996年からグルーポ・ヂ・フーアで活動しています。
ベルトラオの振付の特色は、抽象的な振付の風景を形作るために、様々に影響を受けたヒップホップなどとともに、コンセプチュアルな演劇の文脈の中で都会的なダンス・スタイルを用いていることです。
ベルトラオは13歳からダンスを始め、ヒップホップと関わっていきました。1995年から地域の学校でストリート・ダンスを教え始めています。16歳の時、ロドリゴ・ベルナルディとともにグルーポ・ヂ・フーア・ヂ・ニテロイを設立し、始めの2年間はフェスティバルやコンペティションに出演していました。
2001年にデュオ作品の『フロム・ポッピング・トゥー・ポップ』が、コパカバーナのデュオス・ヂ・ダンサ・ノ・セスクで受賞したことがきっかけで、コンテンポラリー・ダンスの世界で活躍しています。これが振付家としての転機となりました。同年、ロドリゴ・ベルナルディがカンパニーから脱退し、ベルトラオはグルーポ・ヂ・フーアを率い続けました。2002年からグルーポ・ヂ・フーアは世界ツアーをしています。
2005年にバレエタンツ誌のアップカミング・コレオグラファー・オブ・ザ・イヤー、2010年にベッシー賞を受賞し、世界的に活躍しています。

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© Julieta Cervantes

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© Julieta Cervantes

舞台は全体的に暗闇の中にぼんやりとスポットライトが当たっている感じで、明暗のコントラストが強いものでした。地下の部屋でダンサーたちが踊っています。舞台後方は幅の狭い横向きのいくつかの窓枠で囲まれていて、そこから外の様子が映像で映し出されていきました。木々や葉っぱの影、電線、電柱の陰、青空、星空などの映像が流れました。彼らは薄暗い地下室でダンスの練習をしているようで、時間帯によって窓から見える風景が変化していくように見えました。

出演ダンサーたちは全員、鍛え上げられた肉体で身体能力が高く、レベルが高かったです。踊るのことが不可能にさえ見える動きを繰り広げます。強靭な腹筋と背筋と足の筋肉がなければ出来ない振付でした。難易度が高い踊りです。ずっと走り続けながら踊り続け、スピード感にあふれていました。
例えば、後ろ向きに走りながら2~3人のダンサーたちが同時に動き回っていて、すれすれですれ違ってもう少しでぶつかりそうな距離で、でもぶつかることなくスムースに踊りました。振付ではよく側転のような動きをしていましたが、その時にダンサーたちはけっして両肩や両腕を床につけずに回転するのです。そのように他にも、回転したり走り回って上半身を床に近づけても、両肩と両腕を床につけないでそのまま走り踊り続けていきました。バック転や側転を,両肩を床につけずに横向きにやっているような感じに観えて、それを床すれすれの低い位置で軽々とやっていました。どうやって床に倒れこまずに重心を上にキープしているのだろうかと、驚きました。
全員がバラバラに上にジャンプし続けたり、違う動きを同時にバラバラに踊ったり、リフトもありました。
踊りを通じて、日常生活の中の対立、逃亡、連帯、すれ違いなどを表しているようでした。

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© Julieta Cervantes

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© Julieta Cervantes

ヒップホップの影響を受けているとのことですが、振付はヒップホップとは違っていました。ヒップホップのリズムの取り方とは全く違いますし、もっと早くて淡々と動き続けていきました。見事に独自の解釈を入れて新たな違うものに昇華されており、ヒップホップから派生して発達したダンスとは思えないほど、独得な個性がありました。個性的で他に似ているものがない振付となっていて、素晴らしいです。
すごいスピード感と、ぶつかりそうでぶつからないスリルがあり、緊迫感が漲る作品でした。
(2019年11月1日夜 BAM、Howard Gilman Opera House)

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© Julieta Cervantes

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© Julieta Cervantes

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