斬新な試みもあって大いに盛り上がったタップ・シティの「タップ・エリントン」と「リズム・イン・モーション」

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

American Tap Dance Foundation アメリカン・タップ・ダンス・ファンデーション

"Tap City" 「タップ・シティ」

ニューヨークの夏の風物詩でもある、毎年恒例のタップ・ダンスのフェスティバル、「タップ・シティ」が7月6日から12日まで開催されました。主催はアメリカン・タップ・ダンス・ファンデーション(ATDF)で、代表はトニー・ワーグ(Tony Waag)です。
タップ・ダンスが発達してきたニューヨークは、アメリカで一番タップ・ダンスが盛んな場所であり、アメリカン・タップ・ダンス・ファンデーションの本拠地でもあります。タップ・シティは年々規模が大きくなり、成長していてたくさんの公演やクラス、イベントが行われます。
今回はタップ・シティの中で、2つの公演を観に行きました。「タップ・エリントン」と「リズム・イン・モーション」です。

「タップ・エリントン」Tap Ellington
7月7日、ニューヨークの名門ジャズクラブのバードランドで、「タップ・エリントン」の公演が行われました。「A列車で行こう」などの曲で知られるアメリカン・ジャズの巨匠、デューク・エリントン(Duke Ellington)にちなんだシリーズの一環です。
このシリーズは、アメリカン・タップ・ダンス・ファンデーションと、メルセデス・エリントン(Mercedes Ellington)が代表・芸術監督を務めるザ・デューク・エリントン・センター・フォー・ザ・アーツ(The Duke Ellington Center for the Arts,Inc.)が共催しています。
ニューヨーク出身のメルセデス・エリントンはデューク・エリントンの孫で、ダンサー、振付家、女優です。幼少時からバレエを始めて、ジュリアード音楽院でクラシック・バレエとモダンダンスを学び、学位を持っています。ブロードウェイ・ミュージカルでも活躍しました。1949年生まれで70歳ですが、とても若々しくてまだまだお元気な方です。
舞台上のザ・デューク・エリントン・センター・ビッグ・バンド(The Duke Ellington Center Big Band)の生演奏に乗って、舞台前方にダンサーたちが登場し、タップでリズムを刻んで踊りました。
司会はメルセデス・エリントンとトニー・ワーグですが、司会だけでなく、歌ったり、指を鳴らしたり(フィンガースナップ)、少し踊ったりしました。トニーはタップ・ダンスも披露していました。MCが面白くて観客は何度も大笑いしていました。

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マックス・ポラック © Vitaliy Piltser

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フェリペ・ガルガンニ&リサ・ラ・トゥシェ © Vitaliy Piltser

主な出演ダンサーたちは、フェリペ・ガルガンニ(Felipe Galganni)、リサ・ラ・トゥシェ(Lisa La Touche)、マックス・ポラック(Max Pollak)です。
ザ・デューク・エリントン・センター・ビッグ・バンドが、ずっとオーソドックスなジャズの演奏をしていました。ダンスなどパフォーマンスなしで演奏だけの曲もいくつかあり、ゲストの黒人男性が『ソフィスティケイテッド・レディー』を歌いました。静かでスローテンポの曲でした。

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フェリペ・ガルガンニ&リサ・ラ・トゥシェ © Vitaliy Piltser

フェリペ・ガルガンニとリサ・ラ・トゥシェが2人でタップ・ダンスを踊るところもありました。ガルガンニは静かに抑制した音を刻んで、ゆったりしたとした曲を踊りました。静かなジャズの曲ですが、振付はリズム・タップで現代風にアレンジされていました。
マックス・ポラックは、速めのリズムのオーソドックスなジャズに乗って、伝統的なタップ・ダンスの振付を中心に披露しました。インプロビゼーションも多かったです。そして同時に数名のタップ・ダンサーたちが加わり、短いソロが続きました。
合間に、デューク・エリントンのおなじみの楽曲『A列車で行こう』が歌われました。
再びガルガンニがフィーチャーされていて、ソロで『キャラバン』という曲に乗ってタップを踊りました。司会のトニーがガルガンニとの出会いや親しい友人でもあることなど、彼を褒め称えるエピソードを話していました。速めのリズムで、インプロビゼーションもたくさん入れていて、難しいリズム・タップのテクニックを駆使していました。タップの音も強弱が大きくて、メリハリがあり、速くて迫力がありました。今や実力派のタップ・ダンサーです。
その後、バンドの演奏だけが1曲続き、最後は全員が舞台へ上がって、フィナーレです。
タップ・ダンスのフィナーレではお約束の、「シム・シャム・シミー」というルーティンの簡単な振付で締めくくられました。「シム・シャム・シミー」は、ニューヨークでもタップ・ダンスの基礎クラスで最初に習って覚える基本的な有名な振付で、簡単なステップで構成されていてみんなが一緒に楽しく踊れるものです。

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フェリペ・ガルガンニ © Vitaliy Piltser

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© Vitaliy Piltser

フィナーレが盛り上がって、「タップ・シティ、タップ、タップ・シティ!」というフレーズが口ずさまれていました。素晴らしいバンドのジャズの名曲の演奏で、至近距離でダンサーたちの踊りを観ることが出来るとても良い機会でした。
この「タップ・エリントン」はソールドアウトになりましたので、同じバードランドで引き続き、定期的に日曜日に「タップ・エリントン」の企画が続けられるそうです。
(「タップ・エリントン」2019年7月7日 バードランド)

「リズム・イン・モーション」Rhythm in Motion
7月11日、シンフォニースペースで「リズム・イン・モーション」の公演が行われました。芸術監督と司会はトニー・ワーグです。以前も「リズム・イン・モーション」のレポートをしたことがありましたが、当初はタップ・シティとは別の時期に新しい振付で企画された公演でした。数年前からこの「リズム・イン・モーション」もタップ・シティの中に組み込まれて、メインの公演へと成長しました。アメリカン・タップ・ダンス・ファンデーションのユース・アンサンブルや、教師たちが中心に出演しました。歌もあり、音楽も生演奏がほとんどでした。
主なプロ・ダンサーの出演者は、ブレンダ・バファリーノ(Brenda Bufalino)、桜井タミイ、クリスティーナ・カルミニッチ(Christina Carminucci)、フェリペ・ガルガンニ(Felipe Galganni)、マックス・ポラック(Max Pollak)&ルンバ・タップ、リサ・ラ・トゥシェ(Lisa La Touche)、タニア・バグナト(Tanya Bagnato)などです。日本人の舟喜直美も出演していました。桜井タミイは4つの演目に出演し大活躍でした。
振付は、現代のリズム・タップが多かったです。まだ16歳の新人ダンサーで活躍中のタニア・バグナトもとても上手でした。リズム・タップの速打ちも軽々出来、これからまだまだ実力が伸びると思います。

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ブレンダ・バファリーノ © Amanda Gentile

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Tanya Bagnato & Case Prime © Amanda Gentile

印象に残った演目についてレポートします。
久しぶりに大ヴェテランのブレンダ・バファリーノのタップを見ました。ソロで踊りました。これはこの日で一番見ごたえがありました。振付も音楽と歌詞もバファリーノ自身によるものです。バファリーノは80歳を超えていますが、まだまだ元気で若々しく、時々クラスを開講して教えてもいるし、現役のタップ・ダンサーとして舞台に出演したり、ご自身のソロ公演をしています。タップの腕前は全く衰えていなくて、鍛錬を続けている様子が分かりました。
舞台上にはベーシストが1人一緒に出ていて、生演奏でした。ベースラインの作曲とインプロビゼーションを行ったこのベーシストは、ジョー・フォンダ(Joe Fonda)です。
バファリーノは、足元にマイクとペダルを置いていて、そのペダルはシーケンサーにつながっていました。出演するだけでもお客さんに喜ばれ、これまでの伝統的なタップや古くから自身が築いた内容を繰り返していても見応えがあるのに、今まで見たこともないような新しい試みもあって驚きました。
舞台上でペダルを踏んでスイッチを入れ、床に設置したマイクのすぐ前でバファリーノがタップのステップを踏んで、またペダルを踏んでスイッチを切って、スピーカーから音を鳴らすと、今その場で踏んだステップと同じタップの音が鳴りました。それが何度も繰り返されていくと、短く録音された今のステップの音が多重に鳴って、スピーカーから音が響きました。その録音の音にあわせてまた自身でタップのステップを踏んで踊りました。
このペダルとその場で録音された音がくり返し鳴り続ける仕組みから、シーケンサーを使っている様子が分かりました。斬新なタップダンスです。バファリーノ自身が作詞した詩を語りながら、タップが踊られました。
これはお見事、圧巻でした。新しい試みも取り入れて、臨場感があふれていました。会場も一体となって笑い声や驚きの声まで録音されてシーケンサーでくり返し鳴る音に入っていて、真迫力があり、素晴らしかったです。

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フェリペ・ガルガンニ © Amanda Gentile

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ルンバ・タップ(マックス・ポラック) © Amanda Gentile

ガルガンニは、3拍子のワルツの速いリズムのピアノ演奏に乗って踊りました。
小さな音から大きな音まで、音の強弱が大きく、メリハリがあってドラマチックな構成でした。重心が安定していて、リズム・タップの難しい速打ちも軽々と出来ていました。ワルツのリズムでのタップ・ダンスは珍しかったです。今回は、全体に若いダンサーたちが多く出演していました。
(「リズム・イン・モーション」11日 シンフォニースペース)

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