ダンサーたちが踊っていて楽しくて仕方がない、と感じさせたパーソンズ・ダンスの素敵な5作品

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

Parsons Dance パーソンズ・ダンス

"Round My World" by David Parsons, "Eight Women" by Trey McIntyre, "Runes" by Paul Taylor, "Caught" by David Parsons, "Nascimento" by David Parsons.
『私の世界の周りで』 デービッド・パーソンズ:振付、『8人の女たち』 トレイ・マッキンタイア:振付、『月』 ポール・テイラー:振付、『コウト』デービッド・パーソンズ:振付、『ナシメント』デービッド・パーソンズ:振付

アメリカのモダンダンスで中堅振付家として安定した活動をしているデーヴィッド・パーソンズの舞台を久しぶりに見た。パーソンズはアルヴィン・エイリー・スクールに学び、ポール・テイラー・ダンスカンパニーで踊った。ポール・テイラーに所属しながら、モミックスで踊ったり、ミハイル・バリシニコフとマーク・モリスが設立したホワイト・オーク・ダンスプロジェクトやその他海外の大手バレエ団と踊り、テイラーのカンパニーを出た後は、ニューヨーク・シティ・バレエでも4年間踊った。その後自身のカンパニーを設立して現在に至っている。盛衰の激しいニューヨークのモダンダンス界で、安定した活動を保っている振付家である。

この日は『私の世界の周りで』で舞台を開けた。ダンサーたちは非常に端正なテクニックで、皆美しい。ポール・テイラーのスタイルの名残りを見せる振付だ。バレエの基礎がしっかり入っていて、ターンも多く取り入れ、強いテクニックを要求する。この作品は円が印象的で、回転もさながら、様々な方法で円を作る。肩の関節をふんだんに使い、肩の周りで円を作ったり、円を使った動きをする。
あるデュエットではふんだんにリフトをとり入れてあるが、これもターンや円を多く用いている。3組のデュエットでは男性が女性を肩の上にリフトし、女性たちが男性の肩の上で横に繋がり、円を作ったりした。あるセクションでは、少しジャズダンスのような振りを使い、ダンサーたちは体全体を大きく使ってファンキーに踊る。しかし、音楽はジャズではない。ここでも肩の関節を使って円をたくさん作り出していた。これは肩の周りのスペースを使ったダンスという意味だろうか? 最後のセクションはリズミカルで、強いテクニックを駆使してダンサーたちが楽し気に舞台を円で埋めた。円を使っているせいか、ある意味で陶酔感を持っているダンスであった。

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Zoey Anderson in Eight Women Photo by Roberto Ricci

『8人の女たち』は、ジャズの大御所の一人と言われたアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)の曲「スペイン系ハーレム(Spanish Harlem)」を使った作品。8人のダンサーが踊ったが半分は男性で、全員パンタロン・ユニタードを来てユニセックスな衣裳で表現した。パワフルなフランクリンの歌で女性のソロで始まるジャズモダンダンスだ。黒人男性ダンサーが踊ると、やはり黒人だったフランクリンの音楽の芯を掴んだような踊りで、音楽と彼らに通じる血のようなものを感じた。
次々と場面が変わり、様々なダンサーがそれぞれの強みを活かして踊るが、場のつなぎ方が非常にうまい。白人のダンサーたちのデュエットになると、黒人のダンサーとは違う味があった。一世を風靡したフランクリンのヒット曲でパワフルに踊るダンサーたちの速い動きとエネルギーの流れに、うっとりするものを覚えた。みんなダイナミックかつ陽気に舞台を走り回って、凄いエネルギーだ。良く知られた曲「あなたは私を女らしくする(You make me feel like a woman)」では、男女が互いにリフトを交えながら溌溂と踊った。特に女性のゾーイ・アンダーソン(Zoey Anderson)は力強くもセクシーで柔軟さが表現できる素晴らしいダンサーだ。最後にダンサー一人一人が中央の光の中で踊った。楽しくて仕方がないようなダンサーたちと音楽に、アメリカの文化を感じた。

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(L to R) Deidre Rogan and Katie Garcia in Eight Women Photo by Yi Chun Wu

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(L to R) Zoey Anderson and Katie Garcia in Eight Women Photo by Yi Chun Wu

『月』は昨年9月に亡くなったポール・テイラーの作品。パーソンズ自身がカンパニーメンバーとして踊り、思い出も思い込みもある作品と思われる。ステージの片隅に満月のような照明が当たり、その前に一人の男が横たわり、女性たちが出てきて男に魔術をかけるようにしては消えていく。その動きはマーサ・グラハムを彷彿とさせる。パーソンズが師匠のテイラーの動きの影響を受けている様に、テイラーは師匠のグラハムの動きを受け継いでいるのだ。そして当然ながら、アメリカの少し古いモダンダンスのスタイルだ。作品は全部で7つのセクションに別れていて、それぞれにテイラーの主張があったと思えるが、具体的なメッセージは見えてこなかった。面白いと思われたのは、女性をリフトした男性たちが舞台を横切る度に、メインのダンサーがいつの間にか入れ替わっているトリック。この場面のつなぎのうまさをパーソンズは自分の作風にも取り入れたと思われる。
また、グラハムの作風の強い影響を感じる一方で、抽象音楽(ジェラルド・バズビー/Gerald Busby作)を起用して、テイラーの作家としての試行錯誤が見えた。ある場面はグラハムとエイリーの間を行くように見えた。そしてポール・テイラーのクロスフロアのテクニックやグラハムのフロアワークなど、モダンダンスのオリジナル・テクニックの動きが多く含まれている。この作品そのものがアメリカのモダンダンスの歴史を描いている様に見える。確かにこういうダンスが大勢を占めたことがあった、懐かしいなあと思いながら見ているうちに、これは月夜にうごめく動物たちを描いた作品だろうかと思った。次々と変わる場面をしなやかに踊り、あらゆるモダンダンスのテクニックを駆使し、しかも分かり難い音楽を見事にこなしたダンサーたちは大変な技術の持ち主だ。ただ、テクニックの素晴らしさは感じても、作品の主張が見えてこなかったのは、やはりテイラー自身のダンサーたちではなかったせいかもしれない。

次は、パーソンズを振付家として一躍有名にし、観客は常にこの作品を見ることを期待して劇場に来て、この作品なしではパーソンズの公演は成り立たないとすら思われる作品、『コウト(Caught)』。私はこれをひそかに宇宙遊泳ダンスと呼んでいる。この日この作品を踊ったのは女性のゾーイ・アンダーソン(Zoey Anderson)だった。このダンスは大変な体力を必要とする振付で、私が知る限り女性が踊るのを見たことはなかった。宇宙音のような音で幕が開くと、アンダーソンがサスの中に立っている。彼女は次々と位置が変わるサスの中へ移動して踊る。凄い筋肉で、非常に美しいダンサーだ。照明がストロボになると、舞台の上を移動するアンダーソンの体が滑っているように見え、やがて空中に浮いている様に見え始めた。踊るダンサーによって振りが違うようで、アンダーソンは強いバレエのテクニックを導入して、一瞬の光の中に一直線のグラン・ジュッテなど、素晴らしいジャンプが連続して浮き上がる。相当大変な踊りの筈だが、上手に呼吸を保ち、不思議なほど安定したテクニックで踊った。かつては、ミハイル・バリシニコフもこの作品をこの劇場で踊ったことがあった。それほどに強い回転力とジャンプ力を要求する作品である。アンダーソンの演技は、これまでで最高の出来の一つであったと思われる。

この舞台を閉めたのは、『ナシメント』であった。音楽はミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)で、作品名はこの作曲家の名前から来ていると思われる。曲はナシメントがこの作品のために特に作曲したオリジナル曲ばかりで、様々なスタイルの曲で構成されていたが、ボサノバやジャズやラテン音楽のスタイルを含む耳障りの良い音楽である。
若い恋人たちや若者の軽やかな交流、しっとりとしたカップル、コミュニティー(地域社会)の姿などを描いているようだ。特に物語性を強調せず、動きやダンサーのラインやテクニックに主眼を置いているが、全体に見ていてやはり人々が助け合って生きる様子を描いていると思われる。ダンサーたちはいずれも強いカリスマ性を持っており、特にアンダーソンは怖さ知らずのダンサーで、ある場面で他のダンサー達に放り上げられて、空中高く彼女の体が舞い上がった。すっかり引き込まれている観客を前に、美しいダンサーたちは力強く踊り上げた。
しばらくこのカンパニーを見なかったが、ダンサーの一人一人が顔を持っている、素晴らしいカンパニーに育っていた。
(2019年5月14日夜 Joyce Theater)

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Sasha Alvarez, Henry Steele, Shawn Lesniak, Zoey Anderson, Deidre Rogan, and Katie Garcia in Eight Women Photo by Roberto Ricci

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