オーストラリア・ダンス・シアターが見事なテクニックで描いた『自然の始まり』
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ワールドレポート/ニューヨーク
三崎 恵里 Text by Eri Misaki
Australian Dance Theatre オーストラリア・ダンス・シアター
"The Beginning of Nature" by Garry Stewart and the dancers of Australian Dance Theatre.
『自然の始まり』ギャリー・スチュアート及びオーストラリア・ダンス・シアターのダンサーたちによる振付
オーストラリア・ダンス・シアターがニューヨーク公演で、『自然の始まり』という作品を発表した。これは芸術監督ギャリー・スチュアートが過去数年間をかけて、カンパニーメンバーと一緒に振付け、製作した作品で、地球の創始を描いている。
ゴーという風の音がして、舞台に射し込む円状の光の中に深緑色の衣裳を着た男女が腰をかがめて歩み出る。一瞬、原住民を想像させるが、やがて人間を表現しているのではないことが分かる。照明は円から輪になり、重々しい音楽とともににダンサーたちは力強く踊りだす。ダンサーたちは横に並んで肘を連ね、蛇のような動きをする。それは地殻だろうか、水だろうか、それとも動物だろうか? 一人の女性がソロを踊る後ろで、この連結した動きが続く。美しく、ユニークだ。ダンサーたちは右手を黄緑色に塗っている。動きはアスレチックでコンテンポラリー、ダンサーたちの物凄い集中力が観る側を引き込んでいく。動きは形を超越した表現で、男女ともに同じ衣裳を着ている。生命力を感じさせる力強い踊りだ。
(L to R) Matte Roffe, Kimball Wong, Zoe Dunwoodie, Thomas Fonua, Chris Mills, Harrison Elliott Photo by Chris Herzfeld Camlight Productions
(L to R)Thomas Fonua, Jana Castillo, Chris Mills, Rowan Rossi, Gabrielle Nankivell, Harrison Elliott Photo by Chris Herzfeld
次々とエピソードが動きで語られる。一人の女性を襲う雌雄の動物が、倒れた女性を食べようとする。弱肉強食の世界だ。ある場面では、長い棒を付けたハリネズミのような男性が出てくる。彼の背中に他のダンサーたちが棒を突き立てるようにして持って表現した。その次は、一組の男女がキスをしたまま現れる。二人ともトップレスで、口で繋がったまま踊る。これは、明らかに人間の表現ではないが、繁殖をイメージさせる。男性も髪を長くして踊るため、舞台の上では性別不明だ。どっしりと安定感のあるユニークな動きで、土や植物の営みのイメージだ。ある場面では、丸い照明の中でダンサーたちが沓型になって座り、四肢を使って単純な動きを繰り返す。やがて、外側の円の中に散っていく。これは細胞分裂を意味しているのだろうか? 感情のない、しかし有機的な踊りがどんどん展開する。
Artists of Australian Dance Theatre Photo by Chris Herzfeld
Matte Roffe Photo by Chris Herzfeld Camlight Productions
非常に良くトレーニングされたダンサーたちで、ユニークで魅力的な動きが多い。ダンスは次々と場面を変えながら、棒を使ったり、根が付いた木を持ち出すなど、だんだんと植物を表現する内容になる。地層、虫、植物などにインスピレーションを得てつくられたと思われる場面がリズミカルに進む。早い動きとゆっくりした動きが溶け合うように重なる。そして全体に緑色が多い設定となっている。特に暗い緑色の照明の中のシルエットのデュエットは美しく、踊りとしての高い芸術性を感じさせた。
Photo by Chris Herzfeld Camlight Productions
一人の男性が両手に植物を持って踊る。がっしりしているが、柔軟な体だ。これは植物の生命力を描いているのだろうか? ふんだんに床を使った動きで、柔軟で強い筋肉力が印象的だった。それに続く男女の群舞も美しく、動きとフォーメーションを通して、植物に見える。美しい土臭さ、土臭いようで洗練されていて、セックスを超えた踊り、つまり自然の営みだ。
ある場面で、男が両手に砂を持って出てきて、舞台の上にこぼす。砂は照明のトリックで金色に見えた。そこに現れた女性のソロは非常に力強く、ターンを多く取り入れた振付を強い安定で踊った。優れたダンサーである。すると、レオタードだけになった男女ダンサーたちが現れる。ユニセックスで、みんな美しい身体をしている。両手に石を持ち、ステージを移動しながら、全員同時に石を床に落とす。ドンッと激しい音がする。落ちた石を拾い、また移動しては同時に落とす、という動きが繰り返される。激しい落下音がかすかな痛みを伴って観客の胸に響く。やがてダンサーたちは石を床に置いたまま、女性の一人をリフトして彼女を頂点に一つの塊になる。そして一人の男性が床に円をかたどって置かれた石の中央に頭をつけ、倒立のままプロムナードをする。それに続くサポーターだけの男性によるソロは、発達した筋肉の美しさが印象的だった。ダンサーたちが衣裳を来て現れると、わざと衣裳を揺らせて吹き飛ばされるように動く。強い風に立ち向かうようだ。その中でサポーターの男性の動きは動物の交尾のようで、セクシーな踊りに見えた。彼が自然の力に翻弄されるようなソロを踊って最後に床に仰向けに倒れると、女性が大きな貝殻に水を入れて持ってきて、彼の口に水を注ぐ。男性は生き返るような動きをして、雨の音が流れる。恵みの雨だ。跳ね回るダンサー達は蛙か虫のように、片手または両手を床に着いたままで走り回る。
Photo by Chris Herzfeld
その後無機質に身を投げるように動いていたダンサーたちは、やがて円の中に入り、全員が手をつなぎ合って塊になって動く。ここでも自然の営みを感じさせる。全員が頭を波型に振り、空中に何かを飛ばせるように、並んで激しく腕を回す。一連の動きを呼吸を合わせて行っている。男性の一人が髪を振り乱し、床を使って激しく動く。木が持ち出され、先の口づけのカップルがまた現れる。やがて、カップルの男が倒れて女は歩み去る。木の下に倒れた男の体は突然、空中に跳ね上がり、悶える。何度も空中に跳ね上がる。凄いテクニックだ。そして、ぴくぴくと体の全ての筋肉を使うと、仰向けに寝た姿勢から立ち上がる。凄い筋力である。地に生きる生命の強さを表現するようだ。横になったまま動いて回転する彼の後ろで、ダンサーたちが植物を両手に持って、いろいろに組み合わせて様々な形を表現する。海のような音がして、ダンサーたちが横たわった男の体の後ろに植物を置くと、音が非常に大きくなって終わった。
インターミッションなしだが全く飽きさせない、力強い素晴らしい作品であった。
(2019年5月6日夜 Joyce Theater)
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