ジョイス・シアターで行われたオーストラリア・バレエの優れたテクニックで描かれた3作品

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

The Australian Ballet オーストラリア・バレエ

"Chairman Dances" by Tim Harbour, "Unspoken Dialogues" by Stephen Baynes, "Aurum" by Alice Topp
『チェアマン・ダンス』 ティム・ハーバー:振付、『言葉にならない会話』 スティーブン・べインズ:振付、『オーラム』 アリス・トップ:振付

デーヴィッド・マカリスター(David McAllister)率いるオーストラリア・バレエはオーストラリアを代表するバレエ団で、古典からコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを持っているが、ニューヨークで公演するときは通常コンテンポラリー作品を上演している。今年も短編3作品をジョイス・シアターで上演した。

『チェアマン・ダンス』はジョン・アダムス(John Adams)作曲の同名の曲に、ティム・ハーバーが振付けたコンテンポラリー作品。ダンサーたちは全員真っ赤なシャツとズボンに蝶ネクタイという衣裳で、女性は赤いポアントを履いている。ダンサーたちは皆美しく、端正なテクニックを持つ。コンテンポラリー作品だが、奇をてらっていないバレエらしい振付で、安心して楽しめる。しかし、純粋に音楽のイメージを視覚化したもので、特に作家のメッセージを伝えるものでもない。ダンサーたち自身のアレンジだろうか、時おりダンスとダンスの間に思わせぶりな表情が入るが、それ以上発展するものではなかった。従って、良くリハーサルされているものの、印象に残る場面は比較的少ない作品であった。

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Justine Summers and Steven Heathcote in Stephen Baynes' Unspoken Dialogues. Photo by Paul Chapman

『言葉にならない会話』は、最も伝える物が多かった。振付家はスティーブン・べインズで、アルフレッド・シュニトケ(Alfred Schnittke)の「バイオリンとピアノのためのソナタ1番」に振付けている。一組の男女が後ろ向きに立っているところから始まり、二人はゆっくりと手を取り合って踊りだすが、あまり視線を合わせない。やがて、諍いのような踊りとなる。男がコントロールしようとし、女が反発する。しかし、二人は付かず離れずの距離を保っている。女がなだめるような様子になると、男も軟化する。やはり愛し合っているのだ。しかし、すぐに男は機嫌を損ねる。女が追いかけてなだめ、しがみつくと、男はうっとうしがる。諍いは激しくなり、それでもしがみつく女に絶望感が見える。しかし、やはり彼女を必要としているのか、女がくずおれると、今度は男がなだめるように抱き上げる。彼は、嘆きで表情を失ったような彼女をリフトする。彼女は、「この泥沼から抜けられないのか?」といった半ばあきらめた表情をしている。男に翻弄されるが、それでも付かず離れずの所にいる女。そして、立ち去ろうとする男の足を止める女。彼女を振り切れない男。女が男を立たせ、二人は抱き合う。やがて二人は楽し気に踊りだす。うまく行っている時は楽しいのだ。突然照明が変わり、横から激しく二人を照らす。二人の間に緊張感が走り、だんだん疲れた様子になる。女はそれでも気を取り直して、気合を入れて踊る。しかし、男はそれに対してうんざりした様子だ。それぞれ違う方を見る二人。照明が暗くなるなかで、男が女の手を取って終る。諍いはするが、相手がいて当たり前の二人の関係が浮かび上がる。男をケヴィン・ジャクソン(Kevin Jackson)、女をジル・オガイ(Jill Ogai)が踊った。非常に心理描写が明確で、テクニックはふんだんに入っているが、するする、ふわりと踊る、巧みな踊りだった。

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Callum Linnane (bottom) and Coco Mathieson in Alice Topp's Aurum Photo by Jeff Busby

最後はアリス・トップの作品、『オーラム』で締めくくった。この作品は日本の「金継ぎ(かねつぎ」」にインスピレーションを受けた作品である。金継ぎとは、壊れた器や壺などを金粉と漆でくっつけて修繕する方法で、割れた場所やひびが金色で繋がれて、独特の美しい出来上がりになる、日本の伝統工芸であり生活の知恵である。これを様々な関係に当てはめて考え、それを踊りに取り入れたというのが振付家の意図だったと思われる。

男女5組のユニゾンのデュエットで作品は始まった。女性は白いレオタードの上に白いふわりとしたトップを着、男性は白いズボンのみという衣裳だ。素足に白いソックスを履いたダンサーたちは、美しいラインで、滑らかでスムーズに踊る。巧みなテクニックを感じさせるふわりとしたリフトや、トリッキーな動きもするすると動く。非常に力のいる、バランスが取りにくい動きも、何事もないように行うダンサーたちの実力はさすがだ。ストーリーの無い踊りだが、ダンサーが独自に感情を入れて踊るのも素晴らしい。床のリノリウムを取って、敢えて滑りやすくしてある。滑ることを前提にして作ってあるようだ。背景にはグレー地に黒のひび割れの模様が施され、その前でダンサーたちが踊ると、肌色と白のコンビネーションが背景に溶け込む。二人のダンサーがシルエットになってのデュエットは特に美しかった。二人の影が後ろのセットに映ったかのように見えたが、実は別のダンサーたちが後ろの幕の向こうで踊っていた。愁いを込めた表情で踊る女性は非常に美しい。後ろのひび割れの模様に二人のラインが映え、美しい、大きなリフトで終わった。
(2019年5月9日夜 Joyce Theater)

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Kevin Jackson (botom) and Leanne Stojmenov in Alice Topp's Aurum Photo by Jeff Busby

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