アレクセイ・ラトマンスキーのABTへの振付10周年記念を祝うガラ公演が行われた
- ワールドレポート
- ニューヨーク
掲載
ワールドレポート/ニューヨーク
ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA
American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
Spring GALA "Serenade after Plato's Symposium" "The Seasons" by Alexey Ratmansky
スプリング・ガラ『セレナード(プラトンの「饗宴」による)』『ザ・シーズンズ』アレクセイ・ラトマンスキー:振付
5月13日から7月6日まで、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ・ハウスでは、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のスプリング・シーズン公演期間です。ダンサーたちは年月とともにどんどん、新しい世代の方に入れ替わっています。負傷のため長期間の活動休止を経て、また再びABTの舞台へ復帰したダンサーもいます。
今シーズンは全ての演目を鑑賞しました。バレエは型と振付が決まっていても、ダンサーそれぞれの特徴により表現が異なるのでおもしろかったです。
5月20日に、「スプリング・ガラ」を観に行きました。いつもの公演よりも早めで18時30分開演でした。ガラ公演でしたから、正装して着飾っている人々が多かったです。著名人もたくさん来場していて、エントランスでは報道陣がカメラを構えていました。
今回は、ラトマンスキー振付の2つの演目と、ショートフィルムの上映がありました。
ABTの常任振付家であるアレクセイ・ラトマンスキーが、2009年からこのカンパニーに振付を始めてから、今年は10周年にあたります。そのため、それを祝う催しとなり、" Alexey Ratmansky's 10th anniversary" というショートフィルムが、2つの演目の合間に、舞台上に設置された大きなスクリーンで上映されました。
ラトマンスキーは元々バレエ・ダンサー出身の振付家で、2004年から2008年まで、ボリショイ・バレエの芸術監督を務めました。受賞歴も多く、2005年『アンナ・カレーニナ』の振付でブノワ賞、2007年『カルタ遊び』でゴールデン・マスク賞の最優秀振付家賞、2013年マッカーサー・フェロー(天才賞)などです。
最初の演目は『セレナーデ・アフター・プラト'ス・シンポジウム』(レナード・バーンスタイン音楽)でした。出演ダンサーは男女8名で、プリンシパルはダニール・シムキン(Daniil Simkin)、ソリストはトーマス・フォースター(Thomas Forster)、ジョセフ・ゴラック(Joseph Gorak)、アレシャンドレ・ハムーディ(Alexandre Hammoudi) 、カルヴィン・ロイヤルⅢ(Calvin Royal Ⅲ)です。女性は1人で、プリンシパルのデヴォン・トイスチャー(Devon Teuscher)です。
エルマン・コルネホ(Herman Cornejo)は踊る予定でしたが負傷のため降板し、タイラー・マロニー(Tyler Maloney)が代役として踊りました。
衣装は古代ギリシャ風のものでした。最初、7名の男性ダンサーが出てきて力強く踊りました。シムキンの踊りが一番目立っていました。
シムキン、ロイヤル、マロニーなどのソロの踊りも多かったのですが、今回は、ロイヤルが目立つ振付で抜擢されていました。
ラトマンスキーの振付は、ダンサーたちは集合したり、舞台上を広く散らばったり、グルグルと大きく周ったり、縦横無尽に素早く走りながら動くものでした。そして最後は、全員で集まってポーズをとり静止しました。
続いてショートフィルムの上映です。芸術監督のケヴィン・マッケンジー、カルヴィン・ロイヤル III、ステラ・アブレラもインタビューを受けてラトマンスキーについて語っていました。特にこの映像でも、この日の2演目ともソリストを務めたロイヤルがフィーチャーされていました。プリンシパルに昇格する日は近いのかもしれません。
ラトマンスキーがダンサーに直接、振付をしている映像やインタビューも流れました。
次の演目は『ザ・シーズンズ』(アレクサンドル・グラズノフ音楽)の世界初演です。冬、春、夏、秋の踊りで構成されていました。ダンサーは群舞も含めて多数出演したので、迫力のある踊りで見ごたえがありました。
"冬"は、プリンシパルはヒー・セオ(Hee Seo)、ソリストはキャサリン・ウィリアムズ(Katherine Williams)、キャサリン・ハーリン(Catherine Hurlin)、ルチアナ・パリス(Luciana Paris)です。男性1人、女性4名がセンターで踊り、コール・ドは14名で踊りました。
"春"のプリンシパルは、ジェームス・ホワイトサイド(James Whiteside)、サラ・レーン(Sarah Lane)、ソリストはスカイラー・ブラント(Skylar Brandt)です。コール・ドは8名で踊りました。
"夏"は、プリンシパルはイサベラ・ボイルストン(Isabella Boylston)、ソリストはブレイン・ホーフェン(Blaine Hoven)、アロン・スコット(Arron Scott)です。その他、コール・ド・バレエは18名です。
"秋"は、ソリストは、カサンドラ・トレナリー(Cassandra Trenary)、カルヴィン・ロイヤルⅢ(Calvin Royal Ⅲ)です。コール・ドは16名です。
全体に、ソロで踊るところ、男女のパ・ド・ドゥ、3〜4名や6名くらいで踊るところ、その後ろにも多くのコール・ドが踊っているところも多く、大人数で速く大きい幅で移動しながら踊っていき、迫力とスピード感がありました。
"The Seasons" Photo: Marty Sohl.
ラトマンスキーの振付と演出の特徴は、大人数の素早い大きな移動が多く、ダンサーたちを縦横無尽に動かします。今回の作品もそうですが、多くのクラシック・バレエの振付と違うところは、一つ一つの動きを丁寧に踊ることよりも、舞台中央にダンサーを集めたり、広く散らばせたり、大きく周らせたり、広い範囲と長い距離を大きく速く動かしていくことです。そのため、舞台空間全体で波のうねりのような全体の動きの中にダンサーそれぞれの踊りが加えられているようになり、流れるような振付が次々に生まれ去っていく感じです。そして、舞台セットの動かし方、使い方、場面の変え方が上手で、ダンサーの動きとの相乗効果が生まれ、場面全体がドラマチックに見えるので、客席は盛り上がります。
アメリカの国立バレエ団であるABTが、常任振付家としてアメリカ人ではなくロシア人を選んだことにも最初は驚きましたが、現在、ABTは過渡期なのだろうと思います。伝統的なクラシック・バレエの殻を破った斬新なバレエの演出と振付をするラトマンスキーは、独自なものを評価するアメリカらしい選択とも言えるかもしれません。
(2019年5月20日夜 メトロポリタン・オペラ・ハウス)
"The Seasons" Photo: Marty Sohl.
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。