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新しい芸術監督を迎えて連日満席、素晴らしい3曲が華々しく踊られたニューヨーク・シティ・バレエ

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

"Judah" by Gianna Reisen, "Dances at a Gathering" by Jerome Robbins, "Stars and Stripes" by George Balanchine.
『ユダ』 ジアナ・ライズン:振付、『ダンサーズ・アット・ア・ギャザリング(集会でのダンス)』 ジェローム・ロビンズ:振付、『スターズ・アンド・ストライプス』 ジョージ・バランシン:振付"

今年のニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の春のシーズンは、2018年1月に前芸術監督ピーター・マーティンス辞任後、空席となっていた芸術監督が正式に決定したことを受けてか、例年にも増して華やかさを感じさせるものがあった。劇場は連日満席で、以前の様に空席を埋めるために役員らしき人物が座っているような様子は認められず、団員、観客ともにNYCBの新しい門出を祝っているかのように感じられた。5月11日の舞台では、一人の新人振付家と二人の著名振付家の作品が上演された。

幕を開けたのはジアナ・ライズンの作品、『ユダ』であった。音楽はジョン・アダムス(John Adams)による「弦楽4重奏曲」。音楽が始まると同時に3人の赤い衣裳を着た女性と、白い衣裳を着た女性一人が緞帳の前に出てきて、カーテンの中央に向かって立った。カーテンが開くと舞台の上に置かれた二つの階段のセットが現れ、白い衣裳を着た4人の男性が座っている。ブルーの衣裳を着た女性たちが現れ、男女の群舞となった。女性たちは赤、青、黄土色の衣裳に別れて、それぞれのグループが何らかの意味を表現していると思われるが、それが何かは明確にされない。最初の白い衣裳を着た女性がこの作品の主役であるらしく、同じく白い衣裳の男性とデュエットを踊る。また、この作品の特徴的な動きとして、手話のような動きを白の女性がリードして行い、他の女性たちがそれに倣う。最初は赤い衣裳を着た女性がリードするかのように見えるが、だんだんと白の衣裳を着た女性が取って代わり、最後には男性プリンシパルが彼女を中央に高くリフトして象徴的に終わる。階段のセットも、高い地位を表現するかのように使われている。この作品のタイトルからして、宗教的あるいは哲学的なテーマを持つものと思われたが、具体的なメッセージは伝わらずに終わった。敢えて物語バレエにせず、コンテンポラリー・バレエとして上演するのであれば、観客の文化的背景も考慮して、もう少し説明が欲しいと思われた。

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Lauren Lovette and Tyler Angle in Jerome Robbins' Dances at a Gathering © Erin Baiano

二番目に踊られたのは、ジェローム・ロビンズの『ダンサーズ・アット・ア・ギャザリング(「集会でのダンス)」であった。ロビンスの振付は分かりやすく美しく、そして親しまれたショパンの曲に振付けられていることからも、この作品は愛されている。ちなみにタイトルを『集会でのダンス』と翻訳しているが、英語のニュアンスから、人々が集まった時に起こる人間模様と解釈するのが一番作品の内容に近いと言える。
カーテンが開くと男性が一人、右手前から左奥に向かって歩み出る。ショパンの美しいピアノ曲が流れ、彼はそれに合わせて踊りだす。オーソドックスなバレエテクニックに、ロシア舞踊の様な振りが混じっている。物憂げな曲に物憂げな踊りだが、男性テクニックをしっかりと入れている。そこにサラ・メアーンズ(Sara Mearns)が加わって、互いを思いやるような、しっとりとした大人のデュエットとなる落ち着いた素敵なカップルのうっとりする踊りだ。最近のメアーンズは大きく変化を見せ、非常に美しく、語り掛けるものが出てきた。成熟した踊りというのは、こういうものだろうか。

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Maria Kowroski in Jerome Robbins' Dances at a Gathering © Paul Kolnik

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Sara Mearns in Jerome Robbins' Dances at a Gathering © Paul Kolnik

メガン・フェアチャイルド(Megan Fairchild)とローレン・ラヴェット(Lauren Lovette)、ピーター・ウォーカー(Peter Walker)のトリオでは、ウォーカーがさりげなく二人の女性のどちらかに取り入ろうとするかのような踊りが微笑ましい。そこに男性二人が加わり、女性二人に3人の男性の踊りとなる。みんな相手を探す様子だが、女性が一人足りない。そこへメアーンズが加わって、3組のカップルに落ち着く。メアーンズは凄い存在感で、彼女が出てきただけで、舞台がどっしりと落ち着く。しっとりとした3組のデュエットとなる。
フェアチャイルドとゴンザロ・ガルシア(Gonzalo Garcia)のとても可愛いカップルは、快活なデュエットを元気でシャープなラインで踊った。ガルシアは昨年NYCBを引退したホアキン・デ・ルズを連想させるダンサーで、力強いピルエットを交えながら軽くスルスルと踊り、颯爽かつ溌溂としている。フェアチャイルドもとても可愛いく、二人の会話が聞こえてきそうだ。最後に袖に飛び込む彼女をガルシアがリフトして消えた。観客は大喜びだ。
この作品で抜群のカリスマ性を発揮したのが、ヴェテランのマリア・コウロスキー(Maria Kowroski)だ。細く美しいラインで、出てきた時の貫禄が他のダンサーとは全く違う。舞台を制しているとはこのことだろう。様々な人間模様を描くこの作品だが、この日はコウロスキーが特にユーモラスな場面を踊った。一人で歩く男性に話しかけるように彼女は饒舌に踊る。彼は彼女の話を聞くような聞かないような様子で、斜めに舞台を横切ると、別の男性が出て来て入れ替わる。彼はコウロスキーに少し注意を払う様子を示すが、結局これも適当にあしらって消え、別の男性が出てくる。気合を入れて話し続けるコウロスキー。何としても気を引きたい様子だ。しかし、彼女がお辞儀をした隙に男は逃げてしまう。彼女は腐る様子もなく、ポアント・アティチュードで立つと、観客に「まあ、こんなもんだわね」という風に、両手をくるくるっと回して見せて消える。観客爆笑。
この他にも女性3人がそれぞれ自分の考えを述べて、他の二人が「そうかもしれない」という風に踊る場面や、仲のいい二人の若者の踊り、怒りや激情を表現する人々や、二人で苦難を乗り越えようとするカップルなど、テクニックでも表現でも優れた場面がたくさんあった。
最後は穏やかな曲の中、ダンサーたちが舞台に歩み出る。ある者は座り、ある者は立ち止まり、ある者は歩き続ける。全員が空中の一点を見、ゆっくりと視線の先を同じ方向に移動させ、何かを求めるように空中を見つめる。やがて男女に別れて互いにあいさつし、それぞれカップルになって終わった。これまで何度もこの作品を見たが、この舞台ほど伝えてくることはなかった。

この日の舞台を締めたのは、ジョージ・バランシン振付の『スターズ・アンド・ストライプス』であった。 スターズ・アンド・ストライプスとは星条旗、つまりアメリカの国旗を意味している。音楽は軍隊マーチに使われるものばかりで、ジョン・フィリップス・スーザ(John Philip Sousa)作曲の原曲を、ハーシー・ケイ(Hershy Kay)が編曲したもの。NYCBの代表的なレパートリーの一つである。
まずピンクのスカートのミリタリールックのチュチュに身を包んだ12名の女性が、バトンをくるくる回しながら踊るエリカ・ペレイラ(Erica Pereira)のリードで勇ましくも華やかに踊り、それにブルーのスカートのミリタリー・チュチュを着けたやはり12名の女性のグループが続く。このグループはトランペットを持った、エミリー・キクタ(Emily Kikta)がリードした。そして出現するのが、キリッとした制服に身を包んだダニエル・ウルブライト(Daniel Ulbright)率いる 12名の男性たち。華やかな女性群舞の後に、ピシッとした軍服での勢ぞろいは圧巻だ。プリンシパルのウルブライトは実は非常に小柄なダンサーだが、素晴らしいテクニックの持ち主で踊り上手だ。
男性群は安定したターンとツールで綺麗にコンビネーションを決め、観客を大喜びさせた。その次は男女のデュエットで、アシュリー・ボウダー(Ashley Bouder)とハリソン・ボール (Harrison Ball) が強く美しいアメリカを表現するかのように踊った。ボールのソロには両足を揃えてのピボットターンが多く取り入れてあり、いかにも兵士らしい。一方、ボウダーの方は可愛くコケティッシュで、敬礼を多く取り入れてある。軍隊風の動きをふんだんに取り入れた振りだが、クラシック・バレエのパ・ド・ドゥのスタイルそのままの構成で作ってあり、バレエファンには嬉しい場面だ。
最後は全員の出演で盛り上げた。特に小柄なウルブライトと、背の高いキクタを敢えて組み合わせる演出で、小さいが強いテクニックのウルブライトの見せ場が楽しかった。踊りの最後に群舞の後ろに舞台の壁全面を覆う星条旗が上がり、観客から大きな拍手が上がって興奮の中に終わった。バランシンはロシア人だが、第二の故郷に敬意を表する作品なのであろう。
(2019年5月11日夜 David H Koch Theater)

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Ashley Bouder and Harrison Ball in George Balanchine's Stars and Stripes © Erin Baiano

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