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アメリカの伝統的なタップダンスと現代のリズムタップが対話して、ステップの歴史を表した

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

DORRANCE DANCE ドランス・ダンス

PROGRAM A Michelle Dorrance, Bill Irwin, Brenda Buffalino
プログラム A ミッシェル・ドランス、ビル・アーウィン、ブレンダ・バッファリーノ:振付

3月28日から30日まで、ニューヨーク・シティ・センターの75周年記念としてドランス・ダンスの公演がありました。プログラムのA、B、Cが上演されました。私は28日夜の公演、プログラムAを見ました。新作と私のお気に入りの作品が上演されました。
ドランス・ダンスは2011年に、タップ・ダンサーで芸術監督のミッチェル・ドランス(Michelle Dorrance)によって創立されたカンパニーです。
ミッチェル・ドランスは2015年のマッカーサー・フェロー(天才助成金。賞金額は625,000ドル)受賞者です。タップ・ダンサーとしては前代未聞の受賞でした。
ドランスは他にも、2016-17年度のシティ・センター・コレオグラフィ・フェロー、2017年のフォード財団アート・オブ・チェンジ・フェロー、2018年ドリス・デューク・アーティスト賞など受賞多数です。昨年秋にはABT(アメリカン・バレエ・シアター)にも振付を提供しました。現在、世界で最も注目されているタップ・ダンサーだといえます。ドランスは今が旬で乗りに乗っているので、今後はタップ・ダンス界でさらに大ものへと成長していくことでしょう。

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© Stephanie Berger

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© Stephanie Berger

今回の公演では、3つのプログラムを通じてビル・アーウィンがゲストアーティストとして振付し、特別出演しました。ビル・アーウィンは1950年生まれで、俳優、芸術監督、ライターです。ブロードウェイでは、『バージニア・ウルフなんかこわくない』(2005年)でトニー賞男優賞を受賞しました。当初はサーカスで活動した経験があり、ボードビル(歌・ダンス・パントマイムなどが間に入るショービジネス)でも活躍してきました。ミュージカルだけではなく、俳優としてハリウッド映画やTV(セサミストリートなど)にも多数出演しています。
ドランスは10代の頃にNCYTE(ノースカロライナ・ユース・タップ・アンサンブル)で学びながらパフォーマンスしていた時にアーウィンと出会いました。
その後2016年にベール・ダンス・フェスティバルで2人は共演しました。その時の『レッスンズ・イン・トラディション」"Lessons in Tradition"が、ニューヨーク初演として最初に上演されました。出演ダンサーはドランスとアーウィンの2人です。振付はミッチェル・ドランスとビル・アーウィン、音楽はヴィンセント・ユーマンスです。
舞台上でベーシストのケイト・デイヴィスが生演奏し歌い、ダンサーの踊りに音楽を合わせたり、間にはさんだりしていました。タップ・ダンサーのふなきなおみが、時々、黒子のような感じのちょい役で舞台上を少しだけ行き来しました(ふなきはタップは披露しませんでした)。
アーウィンが演ずるアメリカの伝統的なタップ・ダンスとそのイメージの衣装(タキシード風)と、ドランスが演ずる現代的なアメリカのリズム・タップとそのイメージの衣装(膝上の黒レギンスとオーバーサイズのタンクトップ)が登場。それが舞台上で対話して、アメリカのタップ・ダンスの歴史と今日のステップの発展、比較を同時に目で見て楽しめる洒落た趣向の作品でした。短時間のうちにタップ・ダンスの歴史と移り変わり、時代と共に衣装もステップも開発されていき変化していく様を表現していて、とても興味深かったです。タップ・ダンスのステップは、年々、複雑化して難易度が高くなってきています。ダンスの振付は時代を反映しているものなので、常に時代と共に変化していき、今を生きているダンサーと振付家の作品を観ることも大切です。ドランスが現代のリズム・タップの難しい速打ちをやって見せると、昔ながらの伝統的なタップ・ダンサーを演じるアーウィンは驚いて足がもつれた演技をして、客席の笑いを誘っていました。
次の作品との合間には、幕前にドランスとケイトが出てきて、2人でウクレレを弾きながら歌いました。その間に舞台セットを変える観客を飽きさせない演出です。ドランスの低音で魅力的な歌声の披露があり、楽しませるサービス精神も旺盛です。タップダンスにはリズム感と音楽性が深く関連しているため、ダンサーだけでなく同時に何らかの楽器のミュージシャンや歌手というアーティストもいます。

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© Stephanie Berger

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© Stephanie Berger

2曲目の『ハーレクイン・アンド・パンタローネ』"Harlequin and Pantalone"は、世界初演でニューヨーク・シティ・センターの委嘱作品です。出演者はワーレン・クラフトとビル・アーウィンです。振付、脚本、ナレーションはビル・アーウィンです。ソロのインプロビゼーションはワーレン・クラフトによるものです。音楽はドノヴァン・ドランス(ピアノ)とグレゴリー・リチャードソン(ベース)の生演奏です。
これは演劇風のコメディ風の作品で、劇場は何度も笑いに包まれました。ハーレクイン役のアーウィンは高い身長を生かして、舞台上に置かれた大きな箱の中やその後ろに置かれた壁の裏に入ったり出たりしながら、入る前と出てきた後に衣装を変えて、長身の道化になったり、スソの長い大きなスモックを着て中で膝をかがめている様子で短身の道化になったり、早代わりでグルグルと何度も出たり入ったり演じました。クラフトが合いの手のようにストーリーテリングを入れていて、その内容とアーウィンの演技を合わせていました。そのやりとりのテンポ、間合いと表情の演技が抜群で、ピタッとはまっていました。
アーウィンはそのうち、一人二役をやっているのがだんだんと疲れてきますが、早変わりの頻度とスピードがエスカレートしていって、間に合わなくなってきて、演技でもだんだんとヨロけていきました。ゼイゼイと息を切ったり、ヨロヨロしたり、倒れてまた起き上がったり、ひっくり返ったりしながら、必死で一人二役をやり続けている設定でした。その演技も上手で、本当にヨロヨロとひっくり返りながらおどけていて、観客に受けていました。タップ・ダンスも少し入れていました。だんだん進んでくると、次にまたどういう展開になるのか予測がつく内容なのですが、それでも演技と間合いが上手なので、分かっていても笑ってしまいました。今までにあるタップ・ダンスの作品とは全く違う演出で、新たな試みの工夫が感じられました。
2曲目と3曲目の間の幕が閉じられている中で、ブレンダ・バッファリーノ(Brenda Buffalino)の録音のベース演奏に合わせた、自身のストーリーテリングが流れていました。次に続く演目の前フリのような効果で、"My mind on Mingus"を語っていました。

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© Stephanie Berger

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3曲目の『ジャンプ・モンク』"Jump Monk"はカンパニー初演です。振付はブレンダ・バッファリーノ(Brenda Buffalino)です。音楽はチャールズ・ミンガス(Charles Mingus)です。出演ダンサーは10名プラス、アンダースタディーズ2名の大人数で圧巻でした。4名のミュージシャンが生演奏で参加しました。
これはNCYTEで1997年に初演した作品です。当時、ドランスはNYUに入学のためニューヨークに引っ越しており、その後にNCYTEにバッファリーノが招聘されてこの作品が演出されたため、とても残念な思いをしていました。その苦い思い出のある、このお気に入りの作品を、今回選んで上演したということです。
舞台の四隅からダンサーたちが現れて踊り始めます。音楽は速いリズムの伝統的なジャズのビバップで、振付のステップもその音楽に合っている伝統的なタップ・ダンスでした。でもリズムが速いので、ステップは複雑で難易度が高いです。衣装も正装のような伝統的なタップ・ダンスのものでした。全員が揃って同じ速いリズムのタップ・ダンスを繰り広げるところは、迫力があり、きれいに揃っていました。大きな拍手を受けていました。バッファリーノのこのミンガスの音楽とリズムの解釈、音に合っているタップの振付が素敵でした。

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最後の4曲目は『サウンド・スペース』("SOUNDspace")です。振付はミッチェル・ドランスです。ソロのインプロビゼーションは各ダンサー独自の振付によります。初演は2013年です。
この振付は現代的なリズム・タップです。前傾姿勢になり高速で複雑なリズムを打楽器のように強く刻んでいくものです。ドランスといえばこのリズム・タップの名手なので、ドランスらしい得意技を観客も待ち望んでいます。ですから彼女のリズム・タップを、最後の演目に入れていて良かったと思いました。ダンサーたちは大勢出てきますが、メインはドランスで、ソロでアスリートのような見事なリズム・タップの複雑な速打ちをたくさん踊り、大きな拍手に包まれました。とても見ごたえがありました。ドランスは今年40歳を迎える女性ダンサーなのに、こんな激しい踊りを舞台上で踊り続けていても、まったく息切れ一つしていませんでした。余裕で激しい踊りをこなして、足腰の筋骨も隆々で、すごい体力を維持しているのだと驚きました。鍛え抜かれた肉体とその息切れもしない体力から、かなりハードに鍛錬を日々続けていることがうかがい知れました。白人の女性ダンサーで、ここまですごい体力を維持することは至難の業だと思います。
他にも、ダンサーたちのソロのインプロビゼーションが次々に繰り広げられていきました。
ソロや、4人くらいで踊るところ、8人くらいで踊るところなど、バラエティに富んだ演出の長時間の演目でした。

今回の公演はビル・アーウィンの出演、バッファリーノの振付、ドランスの振付など、伝統的なタップ・ダンスから現代のリズム・タップまで、一つの舞台でアメリカのタップ・ダンスの歴史とステップを同時に観ることが出来る画期的なものでした。同じダンサーが全く違うステップと音楽で踊るのを見て比較することが出来ました。良く考えて練られた構成で、リズム・タップの速打ちのドランスというイメージがくつがえされて、新しい試みがあり、素晴らしかったと思います。
(2019年3月28日夜 ニューヨーク・シティ・センター)

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