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ナタリア・オシポワがデヴィッド・ホールバーグとともに多彩な演目を踊って、バレエダンサーとしての実力を見せた

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

Natalia Osipova's Pure Dance with David Hallberg

「ナタリア・オシポワのピュア・ダンス」 ナタリア・オシポワ、デヴィッド・ホールバーグ他:出演

4月3日から6日まで、ニューヨーク・シティ・センターの75周年記念として、ナタリア・オシポワとデヴィッド・ホールバーグのピュア・ダンスの公演がありました。私は4月3日に観に行きました。
芸術監督はナタリア・オシポワです。
出演ダンサーは、ナタリア・オシポワとデヴィッド・ホールバーグのほか、ジョナサン・ゴッダード(Jonathan Gooddard)、ジェイソン・キッテルバーガー(Jason Kittelberger)です。演目は6つの小品集です。

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© Yohan Persson

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© Yohan Persson

ナタリア・オシポワは私が好きなバレエ・ダンサーで、ニューヨークでABTのプリンシパルとして踊っていた時によく観に行きました。オシポワは役に入り込んで感情表現がとても豊かで、没頭して演技し情熱的です。演技力に秀でた女優のようなダンサーです。
バレエではテクニックは基本として大切ですが、それ以上に役の理解力、表現力と演技力がテクニックと同じくらい大切なことだと思います。私がABTで初めてオシポワの踊りを観た時は、安定したテクニックはもちろん兼ね備えているうえに、それ以上に演技と感情表現が強い印象で伝わってきました。オシポワが踊るとエネルギーがドドドッとこちらへ押し寄せてくるようで、ぐいぐいと惹きこまれていくのです。ダンサーの踊りを見てこのように強く押し寄せてくるような衝撃を受けることは初めてだったので、その素晴らしい表現力に驚きました。以来、いつもオシポワのことが頭の片隅にあったため、時々ABTで観ていましたし、今回の公演も興味津々で、楽しみにしていました。
今年は、ニューヨーク・シティ・センターが75周年記念として、タップ・ダンサーのミシェル・ドーランスとバレエダンサーのナタリア・オシポワの2人が特別企画として選ばれました。この2人は、現代の卓越したダンスの才能の持ち主で、今の時代のダンスを象徴しています。

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ナタリア・オシポワは1986年モスクワ生まれです。現在は英国ロイヤル・バレエのプリンシパルです。18歳からボリショイ・バレエ、その後はABT、ミハイロフスキー・バレエに在籍していました。
受賞歴は、2003年ルクセンブルグ国際バレエ・コンクール(Luxembourg International Ballet Competition)グランプリ、2008年モスクワの国際ダンス連盟(International Dance Union)によるブノワ賞受賞、2007、2011、2014年英国舞踊批評家協会賞(uk national dance awards)最優秀女性ダンサー、2008、2009年ゴールデン・マスク(The Golden Mask) など、多数です。
ナタリア・オシポワとデヴィッド・ホールバーグは、ペアを組んで踊り始めて今年で10年目になります。
デヴィッド・ホールバーグは1982年アメリカのサウスダコタ州生まれ、2001年にABTに入団し、2004年にソリストに昇進し、2006年からABTのプリンシパルとして踊っています。また、現在もオーストラリアン・バレエのゲスト・アーティストでもあります。2011年に、アメリカ人として初めてロシアのボリショイ・バレエのプリンシパルになりました。そこでオシポワと共に踊る機会が増えました。その他、世界中の様々なバレエ団でゲスト・ダンサーとして踊っています。2017年からNIKEの"I, David"というキャンペーンに起用されました。
https://news.nike.com/news/objects-of-desire

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最初の演目は、「葉は色あせて」"The Leaves are Fading"、アントニー・チューダー(Antony Tudor)振付、音楽はドボルザーク(Antonin Dvorak)(from string quartet Cypresses and other chamber music for strings)です。ナタリア・オシポワとデヴィッド・ホールバーグのパ・ド・ドゥでした。
やはりオシポワは感情表現をとても豊かに踊り、顔の表情も大きかったです。その息遣いが客席にまで聞こえてくるくらい、感情表現を強くして没頭していました。音楽はストリングスのロマンティックな曲調です。最初は1人ずつソロで踊り、やがてパ・ド・ドゥを踊りました。リフトを多用していて、ホールバーグの太ももの上にオシポワの膝を乗せて踊るところもあり、バレエ・ベースですが個性的な振付でした。ホールバーグがオシポワをリフトしてグルグルと回すところもありました。

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2曲目の演目は、『フラッター』"Flutter"、イヴァン・ペレス(Ivan Perez)振付、音楽はニコ・マーリー(Nico Muhly)(Mothertongue:"Ⅰ.Archive" " II .Shower" " IV .Monster")です。出演ダンサーはナタリア・オシポワとジョナサン・ゴッダードです。
現代的なバレエ・ベースのコンテンポラリーで、かなり長い曲と踊りでした。2人で楽しく走り回ったり、スキップしたりしながら、舞台上を縦横無尽に大きく行ったり来たりしている動きが多かったです。リフトしてオシポワがゴッダードの上で回転しながら、前へ後ろへと行ったり来たりしていたところもありました。
床の上で動いたり、寝転がったり、型の無い自由な踊りで、リズムの取り方も特にしばりがなく、リズムに関係なくランダムで自由な動きをしていました。両腕の力を抜いてブラブラにして、リリースして上げ下げしたり、そのままグルグル回転していました。再び、舞台上を2人でグルグルと走り回って、しばらくそれが続いて突然音楽と照明が消えました。2人が走り回っている最中に終わりました。

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3曲目は『イン・アブセンティオ』 "In Absentio"、キム・ブランズトラップ(Kim Brandstrup)振付、音楽はバッハ(Johann Bach)("Chaconne in D-minor, Part 1")です。デヴィッド・ホールバーグのソロです。
最初、舞台下手に置いてあるイスにホールバーグが座っていて、暗い中にスポットライトが横からあたり、舞台後方の壁に彼の影が映っていました。ストリングスのゆったりした音楽でした。舞台下手の前方にテレビが置かれていて、ホールバーグはリモコンでテレビをつけ、踊り始めました。バレエ・ベースのコンテンポラリーです。リリース・テクニークが多く使われていました。激しく速く動くところが多く、舞台を大きく走り回っていて、迫力とスピード感がありました。最後は、音楽が消えて、正座して終わりました。
4曲目の演目は、『シックス・イヤーズ・レーター』"Six Years Later"、ロイ・アッサーフ(Roy Assaf)振付、音楽は、ディーフライ(Deefly)、ベートーヴェン(Ludwig Van Beethoven)("Moonlight Sonate")、マーマレード(Marmalade)("Reflections of My Life")です。出演ダンサーはナタリア・オシポワとジェイソン・キッテルバーガー。パ・ド・ドゥです。
最初、リズムの無いゆっくりの音楽でスローモーションのような動きをしていて、オシポワは1番ポジションでゆっくりグランプリエをしていました。照明はだんだんと明るくついていきました。2人で身体を付けたり理めたりし、手で相手の顔や体を押さえたりしました。単調な音楽に合わせて、ゆったりと一定に、スローで動き続けました。2人とも舞台から去り、ライトが消えました。
また2人で舞台へ出てきて、3拍子の音楽で、振付は速いリズムになり、メリハリのある動きでした。2番ポジションでグランプリエをして、2人で向かい合ってくっつき合いながら下へ沈んでしゃがんでいったりしていました。そして2人でほとんど身体をくっつけて向かい合って、お互いの右肩、左肩を交互にぶつけ合い続けました。それがだんだん、オシポワが怒っている演技をしてぶつけ合うのが激しく早くなっていきました。さらに激怒している様子にエスカレートしていき、相手の肩から胸板へすごく早い速度で激しく、肩や胸板部分を強くぶつけ続けました。
その後は、ギターとヴォーカル曲に乗って、2人は喧嘩したり、仲直りし合ったり、笑ったりしていました。取っ組み合いの喧嘩のシーンもありました。また手をつないで、最初のようにゆったり2人でくっついて踊り、かなり長く仲直りのような踊りを続けていました。2人仲良く踊っているところで幕が閉じました。
全体を通じて、喜怒哀楽を全て表現していて、特にオシポワの演技力の良さが生かされた振付でした。
5曲目は、『アヴェ・マリア』"Ave Maria"、大石裕香(Yuka Oishi)振付、音楽はシューベルト(Frantz Schubert)("Ave Maria, Ellens Gesang Ⅲ, D.839 Barbara Bonney & Geoffrey Parsons")です。ナタリア・オシポワのソロです。
両手の動きをよく使い、静止しているところと動いているところのメリハリが強くあり、強と弱、静と動が印象的な振付でした。静止部分のタメが効果的に利いていました。立ったり座ったり、空間の上下の動きも幅広く加えていて、立体的な踊りでした。両手だけを激しく動かしているシーンもありました。最後は、祈りのように、両腕を2本重ねて顔の近くを覆っているところで終わりました。
バレエベースですが、そこに個性的な動きも加えて、全体を見てよく考え抜かれている振付だと思いました。オシポワの演技力が際立っていて、祈りの様子、感情表現が豊かに出ていました。美しい祈りのような踊りでした。
6曲目の演目は、『悲しいワルツ』"Valse Triste"、アレクセイ・ラトマンスキー(Alexei Ratmansky)振付、音楽はジャン・シベリウス(Jean Sibelius)("Valse Triste")です。ナタリア・オシポワとデヴィッド・ホールバーグのパ・ド・ドゥでしした。
ラトマンスキーは、2014年からABTの常任振付家です。ABTでは2008年から、ファースト・アーティスト・イン・レジデンスとして振付を行ってきました。2004年から2008年までボリショイ・バレエの芸術監督を務めました。ボリショイ時代にオシポワと共に過ごし、当時まだコール・ド・バレエだったオシポワの才能を早くから評価していて、抜擢したり助けたそうです。
振付はバレエ・ベースで速いテンポで素速い動きの踊りです。動きのメリハリが激しく、きびきびとした動きを機敏に踊りました。リフトもありホールバーグがオシポワの身体を上に持ち上げているところで、上でポーズをとったまま終わりました。すごい拍手に包まれまた大成功の公演でした。

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オシポワはほとんど出演しっぱなしでしたが、ソロやデュエットだけでも少ないダンサーでも十分に見ごたえがありました。振付の選択についても、クラシック・バレエからコンテンポラリー、演技の要素が強いもの、ロマンティックなもの、喜怒哀楽もすべて網羅している幅広い演目でした。オシポワのダンサーとしての表現力の幅広さが、存分に披露されていました。普段のバレエ団の一員のプリンシパルとして踊っている姿以外に、別の側面も表現されていて新鮮でした。今回このような幅広い踊りをオシポワが長時間に渡って披露する公演を見る機会に恵まれてよかったです。
(2019年4月3日夜 ニューヨーク・シティ・センター)

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