キレの良いサパティアードを響かせたサラ・バラスの圧巻の踊り、シティ・センターのフラメンコ・フェスティバル

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

BALLET FLAMENCO SARA BARAS
バレエ・フラメンコ・サラ・バラス

" SHADOWS "(Sombras) SARA BARAS
シャドウズ』サラ・バラス:振付

3月7日から10日まで、ニューヨーク・シティ・センターでスペイン人フラメンコ・ダンサー(バイラオーラ)のサラ・バラスの公演がありました。8日夜の公演を観ました。
毎年行われているフラメンコ・フェスティバルの一環で、スペインからフラメンコ・アーティストたちが世界ツアーに周ります。
今年のフラメンコ・フェスティバルのメインステージは、サラ・バラスの公演だけでした。バラス自身が率いるカンパニーであるバレエ・フラメンコ・サラ・バラスで、芸術監督はサラ・バラスで本人も出演しています。
演目は『シャドウズ』(ソンブラス)、チケットはソールドアウトでした。
過去にもフラメンコ・フェスティバルでサラ・バラスが招聘されて出演したことは何回かあり、何度かレポートしましたが、スペインのフラメンコ界きっての実力派で、現在の女性のバイラオーラでは名実ともにナンバー1といえる踊りの実力だと思います。

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© Sofia Wittert

ニューヨークへも巡回するフラメンコ・フェスティバルは、スペインの政府やアンダルシアの自治体もスポンサーとして関わっている公の企画です。目的はスペインの文化を海外に紹介するということ、そのプロデューサーや運営側が選ぶフラメンコのアーティストは、その時期のホットな実力派となっています。
そのようなスペイン政府の大掛かりなフラメンコ・フェスティバルで、サラ・バラスが単独公演で世界巡業へ選ばれたことは度々ありました。スペイン政府からも、「スペインの顔」として大きな信頼と期待を受けています。サラ・バラスは世界でも最高峰の「フラメンコの女王」とみなされていることがよく分かりました。数年に一度は必ずサラ・バラスが選ばれてニューヨークで公演し、「またサラ・バラス!」「またまたサラ・バラス!」という感じです。

今回観て、50歳近くに年齢を重ねてダンサーとしての肉体のピークは過ぎているかもしれないという心配は、見事に吹き飛びました。サラ・バラスのダンサーとしての肉体は今も見事に維持されていましたので、大変驚きとても嬉しかったです。バラスはとても明るく気さくで、ファンへのサービス精神が旺盛で、幕が開いて舞台上からコミュニケーションを観客へ投げかけたり、幕が閉じてからもアンコールに応えたりしてくれます。観客を喜ばせるというプロ精神が強く感じられるバイラオーラなので共感しています。
フラメンコは歴史が長いので蓄積が多く難易度が高い分野ですから、その分厳しいのでごまかしがきかない世界のため、世界水準の激しいバイレに耐えられる肉体を維持するには、毎日の鍛錬の積み重ねと自己の節制が必要不可欠となります。数年ぶりのバラスのバイレを見て、鍛え抜かれたひきしまった肉体は維持されているし、筋力体力など身体能力は全盛期から失われていないし、迫力とサパテアードの音も大きく出るし、身体のキレが保たれていたので感心しました。
通常、バイラオーラたちは年齢を重ねて肉体のピークが過ぎてくると、全盛期のような激しいバイレは出来なくなってきて、中年期を過ぎたバイラオーラは、往年の年輪として味を生かしたバイレに変化していくもので、体力の衰えとともに舞台上で静かにたたずむ時間が増えたり、激しい動きを少なくしたり、身体はじっと止まっていて両手の動きだけで表現するシーンを増やしたり、それなりの工夫が感じられるものです。

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© Santana de Yepes

今回の公演『シャドウズ』(ソンブラス)は、全米初演です。振付はサラ・バラス、音楽監督と作曲はケコ・バルドメロです。録音で流れる詩の朗読はアラ・マリキアン、録音のヴォーカルはサラ・バラス自身です。舞台セットの絵画はアンドレス・メリダです。
ダンサーは7名で、主演のサラ・バラスの他、男性バイラオール2名、女性バイラオーラ4名です。ミュージシャンは7名で、ギター2名、男性のカンタオール2名、パーカッション2名、サックス&ハーモニカ&フルート1名です。生演奏は人数が多いので音が分厚くて迫力があり、音楽のレベルも高かったです。
パーカッションでは、ウドゥドラム(陶器のパーカッション)も使っていて、フルート、サックス、ハーモニカも音に加えているので、他のジャンルの音楽も混ぜた仕上がりとなっていました。フラメンコで使われてきた楽器だけではなかったので、伝統的フラメンコの基礎は押さえたうえで、ジャズやフュージョンのような要素を加えた現代的なフラメンコ音楽でした。やはりフラメンコも旬のものは時代を反映していて、少しずつ進化して変化し続けているのだなと思いました。
プログラムは14の曲と踊り、歌などが披露されていき、休憩無しのノンストップでしたが、圧倒的な迫力で引き込まれていき、あっという間に終わってしまいました。
サラ・バラスがソロとセンターで踊るところは全体の半分以上で、出番が多かったです。伝統的フラメンコのバトル、インプロビゼーションももちろん登場しました。強弱、静と動、光と影など、音楽と踊りの構成はメリハリがとてもあって強調されていて、盛り上がりがあり効果的でした。

バラスはサパテアードの音の切れが良く、リズムが正確に刻まれているし、踊る時の姿勢は身体の軸がビシッと安定して動かず、さすが圧巻でした。横向きになりスカートをヒザ上までまくり上げて、サパテアードを激しく長く披露するところもありました。また、スカートのスソを両手で持って広げて、ぐるぐると身体を10回転くらい連続して見せたシーンが何回か出てきて、そのたびに、観客たちの歓声が起こりました。
バラスとミュージシャンたちが、踊りと演奏とで息を合わせて盛り上げていくシーンも迫力があり、テンションが高く、盛り上がりました。
今回のバラスのニューヨーク公演も大成功ですごい拍手につつまれました。
(2019年3月8日夜 ニューヨーク・シティ・センター)

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