J.ラングとM.ドーランスの新作、そしてT.サープの傑作『イン・ジ・アッパー・ルーム』が踊られた

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

"Garden Blue" by Jessica Lang, "Dream within a Dream (differed)" by Michelle Dorrance, "In the Upper Room" by Twyla Tharp
『ガーデン・ブルー』 ジェシカ・ラング:振付、『夢の中の夢』 ミッシェル・ドーランス:振付、『イン・ジ・アッパー・ルーム』 トワイラ・サープ:振付

昨年秋のABTの公演から、二つの新作とレパートリー作品の組み合わせのプログラムをご紹介する。

『ガーデン・ブルー(Garden Blue)』はジェシカ・ラング(Jessica Lang)がアントニン・ドヴォルザーク( Antonín Dvořák )の曲に振付けた作品。舞台の上には、絵具で描いたような背景の前に抽象的な大きなセットが置かれている。
鮮やかな赤と黄色のユニタードの男性たちが走りこんできて踊り始める。セットに溶け込むように、赤、黄、紫のユニタードを着た女性たちが板付きで座っており、緑と白のユニタードを着たクリスティーン・シェヴチェンコ(Christine Shevchenko)がやはりセットの一部であるかのように立っている。シェヴチェンコは美しい体の使い方で、鳥の様に腕を使って踊りだす。ピボットターンや、踵や膝をヒクッとさせたりするユニークな動きが入って、快活な海辺を想像させる作品だ。
ラングはセットにこだわる振付家で、この作品でも大きな蝶番(ちょうつがい)のような、面白いセットを使っている。美しい曲に沿って、それぞれの色のカップルがデュエットを次々と踊る。ユニタード姿の女性ダンサーたちはいずれも美しい。シェヴチェンコのソロは華やかだ。踊りの合間にダンサーたちが自分でセットを動かして場面を変えていく。セットも衣裳も色の使い方が美しく、そして動きと色の絡みが美しい。色彩の遊びとも言えそうな、美しいバレエだ。ラングの動きはところどころに冒険は入るが、突拍子もない動きがなく、安心してみていられる。シェヴチェンコが3人の男性に大きくリフトされる場面は、空を舞う鳥を連想させた。まるで色の遊びのような作品だが、『青い庭』というタイトルに反して、まったく衣裳にもセットにも青は無かった。観客の脳裏に浮かぶ大空や爽やかな海辺の風景こそが、作家が意図したものだったろうか?

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Scene from Garden Blue. Photo: Rosalie O'Connor.

次に踊られたのは、タップダンサーで振付家のミッシェル・ドーランス(Michelle Dorrance)の作品『夢の中の夢/Dream within a Dream (differed)』だった。音楽はジャズの巨匠、デューク・エリントン(Duke Ellington)の曲だ。ジャズピアノが流れ、スモーキーなナイトクラブをイメージさせるステージに、スポットライトがいくつも差し込む中で、5組の男女が踊る。オーソドックスなジャズオーケストラに、女性たちはポアントを履き、男性はカジュアルなズボンとシャツ姿だ。
ダンサーたちはジャズバレエの振りに、マルチターンと美しいラインを入れる。一人の男性がソロを踊る間、後ろにスティックを持ったダンサーたちが踊っている。けだるい場末の酒場といったところか。後ろの女性たちはいつの間にかレオタード姿になっていて、スティックで床を突いてリズムを作り出す。この時点では、タップダンスのようでタップダンスではない。3人の女性が床に置いた板の上でポアントでタップのステップを踏んだり、6人のダンサーがラインダンスの様なものを踊る。タップフレーバーのバレエというところだ。
男性の振りにも、ジャンプやツールが入る。女性がポアントでスライドするなど、遊びがたくさん入っている。ラメの背景幕の前でリンディー・ホップが入ったり、タンゴが流れたりと、ショーダンスの要素も入れてある。やがて、ダンサーたちはポアントやバレエシューズをタップシューズに履き替えて現れ、パワフルなタップシーンとなった。だんだんリズムが複雑になり、最後には手拍子とタップで大きく盛り上げた。この場をリードしたダンカン・ライル(Duncan Lyle)は非常にレベルの高いタップ技術で踊り、観客を大喜びさせた。

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Duncan Lyle in Dream within a Dream (deferred). Photo: Marty Sohl.

この日の夜を締めくくったのは、トワイラ・サープ(Twyla Tharp)の『イン・ジ・アッパー・ルーム(In the Upper Room)』だった。舞台には終始、大量のスモークが流れ、舞台がかすんで見えるほどで、タイトルのアッパー・ルーム(上の部屋)とは、雲を意味していると思われた。フィリップ・グラスの音楽に、デヴォン・トゥッシャー(Devon Teuscher)とスカイラー・ブラント(Skylar Brandt)が、サープ独特のリラックスしたルースな動きで踊って始まる。この作品が発表された1986年当時は、このスタイルが新鮮で評判を呼んだものだ。
彼女たちに続いて、ハーマン・コルネホ(Herman Cornejo)を交える3人の男性が踊る。女性たちは赤と白のストライプの衣裳に、赤いポアントを履いている。やがて男女二組のデュエットになり、その後ろで踊る女性たちはスニーカーを履いて踊っている。イザベラ・ボイルストン(Isabella Boylston)とジョセフ・ゴラック(Joseph Gorak)のデュエットとなる頃には、どんどんスモークを焚いてダンサーが霞んで見え、観客席にもスモークが流れるほど。スモークの中からダンサーたちが飛び出し、スモークとダンスが絡んで、面白い効果となった。
美しい、スケールの大きな作品で、整然としていて、音を良く捉えている。そしてテクニックから見ても非常に難しい振付でもある。次々とダンサーが煙の中から出てきて、エキサイティングな踊りが編み出され、見ていて興奮を覚える作品だ。ダンサーが楽しんでいるのが分かる。決して奇をてらう振付ではないが、今も斬新に感じるものだ。早い振りに大きなリフトが入るハイレベルな振付を、するりするりと踊るダンサーたち。衣裳はいくつかのヴァージョンに変わり、色彩的にも楽しませ、スモークとも良く合っていた。バレエあり、モダンダンスありの、「これぞ、サープ!」といった、凄い作品である。なお、この作品ではボイルストンが非常に良く、美しくかつワイルドで、多くのダンサーの中で終始抜きん出て見えた。
(2018年10月27日夜 David H Koch Theater)

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Scene from In the Upper Room. Photo: Marty Sohl.

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