オペラ座のセ・ウン・パクとマルシャンが踊った『アゴン』パ・ド・ドゥ他、バランシン作品の華やかな競演

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

Balanchine The City Center Years Program V
シティ・センター時代のバランシン、プログラム5

"Apollo", "Tarrantella", "Pas de Deux from Agon", "Symphonie Concertante" by George Balanchine
『アポロ』、『タランテーラ』、『アゴン』からパ・ド・ドゥ、『シンフォニー・コンチェルタンテ』 ジョージ・バランシン:振付"

「シティ・センター時代のバランシン」の公演は、様々なカンパニーと演目の組み合わせで6つのプログラムが上演された。各バレエ団とも2演目ずつ踊った「バランシン」だが、世界の大手バレエ団が同じ舞台で踊るという非常に稀な企画であるため、残念ながらすべてのプログラムをカバーすることは叶わなかった。今回はプログラム5をご紹介する。このプログラムでは、マリインスキー・バレエ、パリ・オペラ座バレエ、ロイヤル・バレエ、そしてアメリカン・バレエ・シアターがそれぞれバランシンの作品を踊った。

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© Paul Kolnik

この日のオープニングとなったのは、前回のプログラム2と同じマリインスキー・バレエ(Mariinsky Ballet)の『アポロ(Apollo)』であった。因みに今回マリインスキーが踊ったもう一つの演目は、ヴィクトリア・テリョーシキナ(Victoria Tereshkina)とキミン・キム(Kimin Kim)が踊る『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ(Tschaikovsky Pas de Deux)』で、ぜひ、見たかったが残念ながらカバーすることができなかった。
『アポロ』はプログラム2と同じキャストで踊られたが、さらに深く見ることができた。テクニックに関してはプログラム2と変わりなく、非常に完成度の高い力量で踊られた。詩のミューズのダリア・イオノワ(Daria Ionova)は表情豊かに表現、艶やかですらあった。マイムのミューズのアナスタシア・ニュイキナ(Anastasia Nuikina)は快活な踊りで、素晴らしい真一文字のグランジュテが印象的。最後に声を出してしまい、「いけない!」という表情が可愛かった。音楽のミューズのマリア・コレワ(Maria Khoreva)はたおやかな体がリフトされ、空中に描くラインが美しい。愁いを込めた顔立ちがセクシーだ。アポロのザンダー・パリッシュ(Xander Parish)はカリスマ性があり、素晴らしい音楽性で踊った。今回、さらに見えてきたのは、アポロと3人のミューズの関係で、アポロに才能を与える立場というよりは、アポロに憧れ、選ばれることを望む若い女神たちというニュアンスだった。アポロと踊る時は3人とも幸せそうで、まるで経験豊かなプリンシパルに憧れる3人の若い女性ダンサーたちという、現在のカンパニーでの彼女たちそのもののようにも見えた。パリッシュとコレワのデュエットは、超人的なコレワの美しさもあってか、だんだんとロマンチックになり、うっとりするデュエットとなった。しかし、これもまた超人的な完璧さから、人間の恋人ではなく、芸術的な強い傾倒を感じさせる。彼らのデュエットが終わると割れんばかりの拍手で、しばしバレエが止まったほどで、まさにショーストッパーであった。最後のアポロを囲んではしゃぐように踊るミューズたちの様子は、3人のじゃじゃ馬に振り回される若い青年を連想させ、微笑ましい。ああ、こういう話でもあったのかなあと思わせた。最後の有名なアポロと3人のミューズのポーズは非常に美しく、輝くばかりの神の姿を象徴するようだった。この日はABTが出演したせいか、古典を好む観客が多かったらしく、大変な声援であった

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© Paul Kolnik

次の作品は英国ロイヤル・バレエによる『タランテラ(Tarantella)』で、アンナ・ローズ・オサリヴァン(Anna Rose O'sullivan)とマルセリーノ・サンベー(Marcelino Sambe)が踊った。タンバリンを持って踊る、陽気なカップルによるスペイン風パ・ド・ドゥだ。この二人はテクニックもルックスも申し分ないのだが、むしろキャラクターに重きを置いたダンサーと見受けられた。特にオサリヴァンの踊りはうまく、複雑な振りを落ち着いてこなす。サンベーは活気にあふれたダンサーで、素晴らしいジャンプをした後、茶目っ気たっぷりに「やった!」という表情で観客を笑わせた。常に二人の間に会話があり、可愛いダンスだ。サンベーがオサリヴァンの手を取ろうとするが、彼女は取らせない。スペイン人らしい茶目っ気に富んだ恋の駆け引きが含まれている。そして、ついに彼が彼女を捕まえてキスして、めでたし、めでたし。可愛いパ・ド・ドゥである。

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© Paul Kolnik

パリ・オペラ座バレエ(Paris Opera Ballet)は、『アゴン(Agon)』のパ・ド・ドゥを踊った。黒のレオタードとタイツだけのセ・ウン・パク(Sae-Eun Park)と白いTシャツと黒のタイツのみのユーゴ・マルシャン(Hugo Marchand)のシンプルな衣装のカップルが踊った。非常に美しいダンサーたちだ。バランシンの作品独特の全く表情がない踊り方に徹し、無機質な美しさで会場が引き締まるようだった。このダンスは元々、バランシンが1957年に黒人のアーサー・ミッチェル(Arthur Mitchell)と白人のダイアナ・アダムス(Diana Adams)に振付け、大変な物議を醸しだした作品である。当時の財政難からバランシンの作品は白と黒のみのシンプルな衣裳に限られたという。パクはポアントで困難な振りを踊った。強い筋肉と柔軟な体を持つ、素晴らしいダンサーだ。マルシャンは豊かな体格に優れたルックス、クリーンなテクニックと押し出しがある。全くストーリー性はなく、ダンサーの集中力と音楽性とラインだけで見事に見せた。

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© Paul Kolnik

最後を締めくくったのは、アメリカン・バレエ・シアター(American Ballet Theatre)が踊る、『シンフォニー:コンチェルタンテ(Symphonie Concertante) 』であった。ブルーの背景に真っ白いチュチュを着た大勢のコール・ド・バレエが美しいラインで踊って始まる。シンプルなステップをしているようで見事にフォーメーションを変えていく。プリンシパルのクリスティーン・シェヴチェンコ(Christine Shevchenko)とデヴォン・トュッシュラー(Devon Teuscher)が現れると拍手が上がり、ABTのファンが多く来ていることが明らかになった。艶やかなシェヴチェンコに対し、トゥシュラーも華やかだ。プリンシパル同士で笑みを交わしながら踊る。
この作品は音楽のフレーズを一人一人のダンサーに忠実に美しく振付けられたもの。NYCBとはまた違った雰囲気がある。プリンシパル同士でサポートしてのプロムナードは強い安定が求められ、観客もはらはらする瞬間だ。この二人の女性プリンシパルに唯一の男性、トーマス・フォースター(Thomas Forster)が加わって踊った。この作品では男性はむしろサポート役に徹する。フォスターを挟んで左右対称に美しく揃う二人の女性プリンシパルの踊りは、表情はあるが、マリンスキーやロイヤルに比べると控えめだ。むしろ、音の一つ一つをよくとらえ、音楽の雰囲気をよく表現していた。最後は大勢のコール・ドが加わり、華やかな踊り上げとなった。
(2018年11月3日夜 New York City Center)

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