シティ・センター時代のバランシン作品をマリインスキー、ニューヨーク・シティ、英国ロイヤルが競演

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

Balanchine The City Center Years, Program II
シティ・センター時代のバランシン、プログラム2

"Apollo", "Concerto Barocco", "Tschaikovsky Pas de Deux", "Divertimento No. 15" by George Balanchine
『アポロ』『コンチェルト・バロッコ』『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』『デヴェルティメント15番』 ジョージ・バランシン:振付"

1948年、ジョージ・バランシン(George Balanchine)とリンカーン・カースティン(Lincoln Kirstein)は、ニューヨーク・シティ・バレエを設立した。その母体となったニューヨーク・シティ・センターは、さらにその5年前の1943年、当時のニューヨーク市長、フィオレロ・ラ・ガルディア(Fiorello La Guardia)によって開設された。劇場二つと複数のダンススタジオを内蔵するパフォーミング・アート・センターである。現在もシティ・センターはダンススクールやダンス・カンパニーが入居し、残りはシティ・センターのリハーサルスタジオとして使われ、年間を通して規模の大きい公演が行われている。そのシティ・センターが開設75周年を記念して、「シティ・センター時代のバランシン」と銘打ち、バランシン作品を世界とアメリカの著名なダンス・カンパニーを招待して、5日間6公演を上演した。世界の名だたるバレエ団がバランシン作品を踊るのを一挙に見られるという、贅沢な企画である。

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© Paul Kolnik

11月1日のプログラムは、マリインスキー・バレエ、ニューヨーク・シティ・バレエ、ロイヤル・バレエ、サンフランシスコ・バレエという組み合わせだった。本家本元のNYCBが出演しているためか、会場にはNYCBのファンが多く詰めかけたようだ。
まず、マリインスキー・バレエの『アポロ(Apollo)』でオープンした。カーテンが上がると同時に、豊かな美しい立ち姿のアポロのザンダー・パリッシュ(Xander Parish)に、思わず観客からどよめきが上がった。マリインスキーのこの作品の解釈は非常にドラマチックで、アポロが表情豊かで、考えていることが見えてくるようだ。竪琴の弾き方も単に腕を円を描くように回すのではなく、まさにハチャメチャにかき鳴らしている。一緒に踊る3人のミューズは、か弱いほど細い美しいラインの若い女性たちだ。詩のミューズを踊ったダリア・イオノワ(Daria Ionova)は、痛みも喜びも言葉で表現する芸術を踊る。その次に踊ったアナスタシア・ニュイキナ(Anastasia Nuikina)は、口の前に指を立てたまま踊るが最後に声を出してしまうマイムのミューズだ。ジャンプが美しい。音楽のミューズを踊ったマリア・コレワ(Maria Khoreva)は、非常に優雅な踊り方、すっきりとした美しいラインで、相手との間に常に会話がある。自らの才能に音楽を受け入れたアポロは音楽のミューズとデュエットを踊る。パリッシュは長いエレガントなラインに、男性の力強さを備えている。コレワは頭の上まで高く上がる足を含め、全てが長くて美しいラインでうっとりさせる。まるで恋人たちの踊りに見えた。

4人全員で踊る時は、明るく浮き浮きしたイメージで、楽し気だ。このドラマチックでロマンティックなマリインスキーの『アポロ』の解釈は、他のカンパニーでは気付かないことがたくさんあった。バランシンの脱古典主義がジャズっぽく見えたり、音楽がまるで映画音楽のように聞こえたりする。さりげない振りにも感情を加え、アポロと3人のミューズはいったいどんな関係なのだろう、バランシンがこの作品を振付けたとき、何を考えていたのだろう、という思いがよぎった。活き活きしたアポロとその後を歩く3人のミューズが作った有名な最後のポーズは、シンプルでありながら真に美しかった。意外にも3人のミューズを踊った女性たちは全員2018年にワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業して入団した新人ばかり。しかし、音楽のミューズを踊ったコレワは容姿とテクニックに恵まれ、将来を嘱望される実力派と見受けた。
尚、音楽の視覚化を目指したバランシンの作品は、物語性が全くないか、余分な表情を抑えるものが多く、バランシン本人がどう考えたかは別として、顔も動きも仏頂面の作品が多く、観客もそうした傾向に慣れている。したがって、NYCBのファンが多い観客層にはこのマリインスキーの解釈は必ずしも好ましく受け入れられなかったようであった。

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© Paul Kolnik

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次に踊ったのは本家本元のニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)で、演目は『コンチェルト・バロッコ(Concerto Barocco)』、マリア・コウロスキー(Maria Kowroski)とアビ・スタッフォード(Abi Stafford)、そしてラッセル・ジャンゼン(Russell Janzen)がリードした。
真っ白いミニドレスの8人のコール・ド・バレエの踊りで始まり、コウロスキーとスタッフォードが加わる。スタッフォードは元気な力強い踊りで、コウロスキーはエレガントな踊りだ。プリンシパルたちもコールドと全く同じシンプルな衣裳を着ているが、踊り方に自分自身を主張するものがある。若いエネルギーを感じさせるスタッフォードに対し、ヴェテランのコウロスキーは美しく粋で伸びやかだ。ラッセルとコウロスキーのデュエットでは、コウロスキーの美しさが際立った。この踊りでは、ダンサーたちが子供の遊びのように手を組んだまま、プリンシパルのカップルが手をつないで作ったゲートの下を潜り抜けるフォーメーションがあるが、これは最上階の席から見ると白いバラの花のように見えることだろう。バランシンはこうした遊びを持つ振付をした人だ。ラッセルとコウロスキーのパートナリングには連続リフトが含まれていて、かなり難度が高いものだ。しかし、コウロスキーはふわりとしたファンキックを見せながらピルエットを行うなど、余裕の演技を見せた。彼女だけ違う次元に居るかのようなエレガントな踊りだ。トリックのあるリズムの使い方や、非常に音を早く取るなど、難しい振付だが、優雅に見せた『コンチェルト・バロッコ』であった。

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次は英国ロイヤル・バレエ(The Royal Ballet )で、ソリストのアンナ・ローズ・オサリヴァン(Anna Rose O'sullivan)とマルセリーノ・サンベー(Marcelino Sambe)が、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ(Tschaikovsky Pas de Deux)』を踊った。二人とも小柄で庶民的、親しみやすいイメージだが、二人の間に通うケミストリーが素晴らしく、ぴったりのカップルだ。サンベーは筋肉質でパワーがあり、力強いリフトや大きなふわりとしたジャンプ、そしてツールにピルエットを混ぜるという技もゆったりと見せた。オサリヴァンも強いテクニックで、メリハリをつけた余裕のある踊りで複雑な振りも自然に見せた。うまさを感じる踊りだ。双方とも素晴らしい安定感で、困難な踊りがゆったりと見える。オサリヴァンがサンベーの腕の中に飛び込むようにして決まるダイブフィッシュは、彼女の体が真っ逆さまになって、観客から歓声が上がった。シャキシャキッと見せた『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』であった。

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この日の最後はサンフランシスコ・バレエ(San Francisco Ballet)が踊った『ディヴェルティメント15番(Divertimento No. 15)であった。バランシンの作品にしては色が入った華やかなチュチュ(オリジナル作品と同様のもの)が印象的だ。一番最初のアレグロと一番最後のフィナーレを全員で踊り、テーマを二人の男性が、それに続く6つのヴァリエーションを女性のプリンシパルとソリストが一人ずつソロで、ミニュエットをコール・ドの女性全員、そしてアンダンテをプリンシパルとソリスト全員が踊るという構成だ。全体によく揃っており、ダンサーたちも美しい。そして、NYCBとはまた違う雰囲気で踊られた。コーチはSFBの芸術監督、ヘルギ・トマッソン(Helgi Tomasson)であった。第2バヴァリエーションのアンナ・ソフィア・シェラー(Anna Sophia Sheller)は早い振りを楽しそうに踊り、長いラインが印象に残った。第3ヴァリエーションを踊ったのは日本人の石原古都(Koto Ishihara)で、細く美しいラインで複雑な振りを見事に踊った。第6バリエーションを踊ったフランシス・チャン(Frances Chung)は最初のアレグロから抜きんでいて、その上手さが印象に残った。速い振りを余裕を持って、遊びすら見せながら踊った。難しいターンコンビネーションも見事にさばいて、観客席から「ブラボー!」が飛んだ。全体によくまとまって揃っており、美しく踊りあげられた。
(2018年11月1日夜 New York City Center)

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© Paul Kolnik

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