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シェルカウイの少林寺拳法に想を得た、超絶技巧とユーモアがあり、変化に富んだ迫力ある舞台

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

Lincoln Center White Light Festival リンカーンセンター、ホワイト・ライト・フェスティバル

"Sutra" by Sidi Larbi Cherkaoui『経典』 シディ・ラルビ・シェルカウイ:振付

ニューヨークのリンカーンセンターは、今年から夏のリンカーン・センター・フェスティバルを廃止し、プレゼンテーションを秋のホワイト・ライト・フェスティバルに合同させた。シーズン的にはNYCB、ABT、ニューヨーク・シティ・センターなどが大規模な公演を行う時期であり、これでニューヨークの秋のパフォーミングアーツがさらに盛り上がった観だが、観客には忙しい時期となったといえる。

今年もユニークな作品を世界から集めた企画の最初は、コンテンポラリー・ダンスの振付家シディ・ラルビ・シェルカウイ(Sidi Larbi Cherkaoui)の作品、『経典(Sutra)』だった。これは中国の少林拳法に構想を得て、それ導入したもので、この作品をダンスと呼ぶか、ムーブメントと呼ぶか、あるいはマーシャル・アーツと呼ぶかは見る人によって異なるだろう。しかし、動きと音楽と、この作品の顕著な特徴である多数の大きな木の箱とを組み合わせた見事な芸術であることに異論を唱える者はいないだろう。

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

舞台左手前に置かれた大きな木の箱の上に、男性と男の子が向かい合って、碁でも打っているかのように座っている。男性はシェルカウイで、男の子は少林拳を修行する少年僧だ。舞台の上には彼らが座っているのと同じ大きさの、棺の様な箱が多数並べられている。シェルカウイが箱の上を見つめたまま指を動かすと、胴衣姿の僧が出てきて中央の箱から大きな剣を抜き取り、振り回す。すると、舞台の上の大きな箱がどんどん前に転がる。少年とシェルカウイが僧の剣を取って消えると、僧は長い棒を箱の陰から取り出し、箱の列の中に突っ込んだかと思うと、波の中から人を引き上げるように、もう一人の僧がその棒につかまって出てきた。舞台の後ろの黒い紗幕の向こうでは、ミュージシャンがライブで音楽を演奏している。(音楽: Szymon Brzoska)
出てきた僧が棒をビュンビュン音を立てて振り回した後、もう一人の僧を箱の間から引っ張り出す。すると僧がどんどん現れて、大きな箱をそれぞれが動かし始める。まるでステージの上を大きな箱が自在に動いているようだ。シェルカウイが自分が座っていた箱の上で、ミニアチュアの箱を置き換えると、その通りに僧たちが舞台の上で箱を移動する。少年僧が体操競技の様な見事な空中前転や横転などをして、舞台中央に立つ箱の中に入って、その壁を足や体で踏ん張って、宙に浮いた形で止まる。それをシェルカウイが箱ごと動かしたり回転させたりするが、少年僧は動きに沿って体を宙で支えて決して下に落ちない。

そして、僧たちは全ての箱を一列に並べ、その上に立つと、一番前の僧から掛け声とともに床に飛び降り、格闘の型を見せる。一連の動きを一人ずつタイミングをずらせながら行うので、まるで一つの動きをストロボライトで見ているかのようなビジョンとなった。これが再度別の形で繰り返され、僧たちは空中で一瞬止まるかのような見事な技術を見せ美しい一連の型が舞台の上に次々と出来上がる。

二人の僧が箱を立て、シェルカウイに入れという仕草をする。中に入ったシェルカウイはその限られたスペースの中で驚くような柔軟さで動き出す。例えば、片足を前から真横に上げて箱の天井に着けるなど、コントーション並みの柔軟性で動くと、少年僧も一緒に入って、同じ様な動きをして静止すると合掌する。大変な筋力を要求する動きだ。少年はそのまま箱の上によじ登ると、軽々と箱から箱へと駆け回る。

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

再び僧たちが箱を押して舞台の上を素早く移動する。見事に計算され、デザインされた動きだ。少年はその間にも箱の上に乗ってのびのびとした演技をする。少年が乗った箱に、他の箱を斜めに立てかけるように置くと、子供は山の頂上で瞑想しているように見える。再び大きな箱が静かに動くと放射状に広がって横たわって置かれた。これは蓮の花が蕾から開花する様だという。箱が動くパターンも整然としていてスピーディーで美しい。そして箱のほとんどが舞台から取り去られると、残った一つの箱に僧たちが入って、まるで船に乗っているように見える。これは蓮池を船で行く菩薩たちだろうか?

突然大きな剣を持った3人の僧が出てきて、剣の舞になったかと思うと、大勢の僧たちが長い棒を持って現れ、舞台の上に戦いが展開する。その間を縫うように現れては舞台の上を巡り歩くシェルカウイ。パントマイムの様なユーモラスな動きがところどころに取り入れられてあり、意味が分かるような、分からないような、柔軟な発想と動きで飽きさせない。少年僧が床にしゃがんだ姿勢のままでするすると歩いて見せるなど、すごい技を見せる。

一人の僧が出てきて、棒の技を見せる。そして再び自在に動き出した箱を動かしている僧たちは、いつの間にか胴衣からダークスーツに着替えている。その衣裳のまま、空中でカンフーの型を披露する。様々な形で僧たちの姿が空中で止まる。そして全員が一気に箱の上に登って立つ。全く無駄のない、スピーディーな動きだ。シェルカウイが一番前で彼らに向かって床の上に座ると、僧たちも箱の上に座って、いっせいにユニゾンで動き出す。合図のようにも、手話のようにも見える。シェルカウイが立ち上がると、僧たちも箱の上に立ったと思うと、一人ずつ直立したまま箱ごと前に倒れる。2メートル近い高さから倒れるのは、見ていても怖いが、僧たちは上手にウエイトをコントロールして、そのまま舞台に降り立つ。箱が倒れる凄まじい音が音楽のように聞こえるが、非常に統制が取れているので、うるさく聞こえない。

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

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"SUTRA" Photo by Richard Termine

また箱を動かして一列にきれいに並べると、僧たちは中に入る。一人が飛び出して拳法の型を見せると、次々と僧侶たちが飛び出して型を見せる。空中にも跳ぶ。すごい身体能力だ。箱がどんどん置き換えられ、長方形に積み上げ、中に一人ずつ入る。少年がまるで猿のようにするするとその長方形の升を登ったり移動したりする。僧たちが同様にして箱の中に入って横たわる。まるで棺のアパートのようだ。箱の中で全員が同時に動いて転がり出る。全てが計算されていて美しい。全員がいっしょにユニゾンで動くと迫力がある。再び箱が整然と動く。後ろから僧たちがコントロールしながら、大きな箱がドミノのように倒れる。それを見ていたシェルカウイが、舞台から押し出されるように降りて、観客席の一つに座って見る。思わず観客から笑い声が漏れる。ユーモアをそこここに交えてある作品だ。

ステージの上で箱のフォーメーションがどんどん変わり、次々と面白い試みが展開する中で、僧たちの衣裳がまた胴衣に変わっている。抽象的な音楽も良い。僧たちが呪文を唱える。静かだが迫力がある。そして、また踊りにも見えるような動きをしながら、掛け声とともに箱を押し倒す。立てては倒し、倒しては立てる。シェルカウイと僧の一人が向かい合い、同じ動きをする。僧たちが出てきて全員が勇ましく動くと、勇壮な群舞のようになる。音楽も勇ましくなり、大きな盛り上がりで終わった。

宗教的な要素も十分含んだ作品と思われるが、宗教的観点を乗り越えて純粋にアートとして楽しめる作品である。シンプルで素晴らしいセット(箱)はアントニー・ゴームレイ(Antony Gormley)の製作だった。
(2018年10月16日夜 Rose Theater)

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