フィリップ・グラス作曲のマハトマ・ガンジーの人生を描く3幕のオペラとコンテンポラリー・サーカスが融合した舞台

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

Folkoperan フォルクオペラ、Cirkus Cirkor サーカス・シルクール

" Satyagraha " An Opera by Philip Glass、Directed by Tilde Bjorfors
『サティアグラハ』フィリップ・グラス:オペラ作曲、ティルダ・ビョルフォス:芸術監督

毎年行われているBAMのネクスト・ウェーブ・フェスティバルで、フィリップ・グラス作曲のオペラ『サティアグラハ』が、スウェーデンのコンテンポラリー・サーカスのサーカス・シルクールとフォルクオペラの共演作品として上演されました。公演は10月31日から11月4日まででした。私は10月31日に観に行きましたが、早々にソールドアウトでした。
当日、私の近くの客席には、ニューヨーク・ダンス界、音楽界のそうそうたる人たちが座っていました。ニューヨーク・シティ・バレエの元プリンシパルで現在はジュリアード音楽院長(プレジデント)のダミアン・エッツェルと、同じく元プリンシパルのヘザー・ワッツ夫妻、作曲家のフィリップ・グラスなどもいました。ダミアンは2008年にニューヨーク・シティー・バレエを退団しましたが、個性的で目立つダンサーでした。現役のプリンシパル時の公演は記憶によく残っています。それから10年経ちジュリアード音楽院長となりました。
コンテンポラリー・サーカスとオペラの融合作品なのでダンスそのものの振付は無いですが、肉体的に鍛錬を積んで表現するという共通点があります。ダンス関係者たちが観に来るほどの興味深い公演なのでしょう。

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© Stephanie Berger

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© Stephanie Berger

サーカス・シルクールは何度かBAMでも公演してきました。スウェーデンのストックホルムを拠点としていて、ジャンルにとらわれず、舞台美術や衣装、音楽にもこだわり完成度が高いです。彼らの美的センスは、北欧風の色使いで美しい舞台を作ります。ティルダ・ビョルフォスの構成と演出です。1995年に創立時は大きな成功を目指さず小さなサーカスをするということで結成され、最初はアングラで活動を始めましたが、世界中で評価が高まり、今ではスカンジナビアを代表するサーカスとなり世界的に成功しています。
この公演の音楽面でのオーケストラ演奏とオペラは、同じくスウェーデンのストックホルムにあるフォルクオペラから来ていました。今回出演したオペラのキャストは6名です。他にコーラスは8名、オーケストラは21名です。音楽面でも上質でこだわりがありました。
これはグラスが1980年に作曲したオペラ作品で、3部作のオペラの第2作目にあたります。非暴力を通じた社会の変容について、マハトマ・ガンジーの人生を表現しています。サティアグラハとは非暴力抵抗運動のことで、ガンジーが使い始めた言葉です。周知のように彼は後にインド独立の父となりました。
ガンジーはロンドンで弁護士資格を得た後、南アフリカに渡り、インド人の市民権獲得のために活動しました。
オペラのリブレットは、コンスタンス・デ・ヨングがバガヴァッド・ギーターより引用したサンスクリット語です。バガヴァッド・ギーターとは、ヒンズー教の聖典の1つで、700行の韻文詩です。
今回は、英語の字幕が舞台上のスクリーン上に出ていました。オーケストラが演奏している位置は舞台の下手奥で、その表面が細かい縦糸で出来た薄いスクリーンに覆われていました。そのスクリーンに、字幕や映像が映りました。

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第一幕「トルストイ」はガンジーの思想に影響を与えた人物。第二幕「タゴール」はインドの詩人(ノーベル賞受賞)。第三幕「キング」はガンジーの影響を受けたキング牧師のことです。
オペラが進行して歌手が歌っている合間に、パフォーマーたちが曲芸を繰り広げていきました。ガンジーの役は男性のオペラ歌手でした。グラスの音楽の演奏は、大人数のオーケストラの分厚い音でずっと同じリズムが続き、少しずつ音が変化し続けていき、だんだんと劇場全体が陶酔してくるような効果になっていました。このグラスの音楽とサーカスの曲芸は、リズムを合わせやすくて合っていました。組み合わせが斬新で良かったです。

曲芸は、高度なサーカスの技を使われていて、途中でハラハラするようなシーンが所々に入れられていて、オペラの劇的な進行と曲芸が合わさって、効果的でした。歌手が歌っている横で、パフォーマーが曲芸していて、舞台上で面白い調和が出来ていてより盛り上がって行く相乗効果がありました。

舞台上に、大きな長い木で出来たサイズの違う台が細長く組み合わされていて、シーンごとに、違う役目の小道具として使われていました。同じ台が、ガンジーが南アフリカへやってくる船に見立てられていたり、 陰陽の駆け引きのシーソーになっていました。 最後のシーンではそれが宙に吊り下げられて中心部分が固定されて3枚バラバラに均一に6方向へ広げられて、ガンジーが回していた糸車に見立てられて回転していました。 そこに長い白い糸が舞台端から伸びて引っ張ってこられて巻き付いていきました。
パフォーマー一人の肩の上にもう一人が乗って立つ2人のタワー、3人のタワーもありました。
大きなシーソーの両側に男性が1人ずつ立ち、ジャンプを高く繰り返して、上で宙返りをしてマットの上に飛び降りていました。
女性が宙吊りになって上で回転したり曲芸をして、別の女性は大きなフラフープのような輪の中に入り、両手両足でそれを固定してだんだんスピードを上げて床でぐるぐる回転していました。最後はこの輪を回転させたまま、輪の中で片足を外し、もう片方の足も両方外して両腕だけでぶら下がり、回転して見事にバランスをとっていました。
5~6本の細めのロープの上で、男性が綱渡りを長くくり返し、そのロープを3箇所に分けて両手両足で固定して、横向きや縦向きにぐるぐる回転するところもありました。綱渡りをしながらこの男性が上でヴァイオリンを弾いて、観客はとても驚いていました。このシーンは曲芸をやりながらヴァイオリン演奏していて、印象に残っています。
パフォーマーとコーラスが、客席の上のほうやバルコニー席からパフォーマンスをするシーンもありました。パフォーマーは数名で、客席の後ろの方から舞台上へ移動して上がっていました。これも、観客を盛り上げる効果がありました。
最後の方のシーンでは、ガンジーが、宙に吊り下げられた大きな糸車に見立てたものに、舞台端から糸をずっと巻きつけ続けながらパフォーマンスをしていました。後ろの壁には、キング牧師などガンジーの影響を受けた人々の肖像写真が次々に映されていきました。
糸車を回しながらのガンジー役の歌が終わり、最後には舞台両横から白い糸から手織りで織られた木綿の布に見立てた大きな網状のものがカーテンのように伸びてきて、舞台にかかってライトが消え、終わりました。

とても劇的で、感動的な内容と音楽のうえ、舞台セットも美術的に素晴らしく、音楽もとても良く、その上に鍛錬を積み上げたパフォーマーたちがサーカスを繰り広げる舞台なので、総合芸術として充実している公演でした。観客の満足度も高いです。彼らが世界的に成功し続けてきた理由が分かりました。
(2018年10月31日夜 BAM Harvey Theater)

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