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大いに盛り上がった、笑顔あふれる優雅なダンサー、ホアキン・デ・ルズさよなら公演、NYCB

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

New York City Ballet "Joaquin De Luz Farewell Performance"
ニューヨーク・シティ・バレエ「ホアキン・デ・ルズさよなら公演」

"Theme and Variations" by George Balanchine, "Concerto Barocco" by George Balanchine, "A Suite of Dances" by Jerome Robbins, "Todo Buenos Aires" by Peter Martins
『テーマとヴァリエーション』 ジョージ・バランシン振付、『コンチェルト・バロッコ』 ジョージ・バランシン振付、『ダンス組曲』 ジェローム・ロビンス振付、『永遠のブエノスアイレス』 ピーター・マーティンス」振付

15年間ニューヨーク・シティ・バレエで踊ったプリンシパル、ホアキン・デ・ルズ(Joaquin De Luz)が引退するにあたり、最後の公演を行った。デ・ルズはスペイン、マドリッドの出身。ヴィクター・ウラテのスクールに学び、バレエ・ウラテの団員として踊った。1996年にヌレエフ国際バレエコンクールでゴールドメダルを獲得、その賞金で憧れのミハイル・バリシニコフが居るアメリカに渡る。しかし、最初のオファー先はペンシルバニア・バレエだった。当時18歳のデ・ルズは英語が話せず、アメリカに来たところで右も左もわからなかった結果だという。一年後、デ・ルズはNYCBのオーディションを受け、当時の芸術監督のピーター・マーティンスに、再度スクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)に来て男性クラスを取るように言われる。そのクラスを教えていたのはバリシニコフで、マーティンスの他にマイアミ・シティ・バレエの芸術監督のエドワード・ヴィレラとジェローム・ロビンズがクラスを見ていた。マーティンスはデ・ルズをNYCBでの受け入れを希望したが、結局NYCBよりはABTの方が合っているだろうという所見から、デ・ルズは1997年にコール・ド・バレエでアメリカン・バレエ・シアターに入団する。当時、ABTではホセ・マニュエル・カレーニョ、フリオ・ボッカ、イーサン・スティーフィル、そして同じくバレエ・ウラテ出身のアンヘル・コレーラが踊っていた。しかし、古典よりはコンテンポラリーを踊りたいという希望から、デ・ルズは2003年にABTからNYCBにソリストとして移籍、2年後の2005年にプリンシパルに昇格された。以来13年間、NYCBを引っ張ってきた。最後の公演に踊られたレパートリーは、いずれもデ・ルズが踊って高く評価された作品ばかりだった。

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De Luz Theme and Variations Photo by Paul Kolnik

最初に踊られたジョージ・バランシン(George Balanchine)の代表作の一つ『テーマとヴァリエーション(Theme and Variations)』は、コンテンポラリー・バレエでありながら古典の豪華さと優雅さを備えた作品。幕が開いた途端、チュチュを着た大勢の女性コール・ド・バレエを従えて中央に立つデ・ルズと相手役のタイラー・ペック(Tiler Peck)の姿が際立って、豪奢な雰囲気で華やいだ。ペックの早い、複雑な動きのソロで始まり、デ・ルズのソロとなる。貫禄のある落ち着いた演技で、トゥールの間にピルエットを挟むなど強い回転は彼の十八番だ。デ・ルズは男性としては小柄なダンサーで、ペックがポアントで立つと彼女の方が背が高くなる。しかし、しっとりとしたデュエットでの大きなリフトも、デ・ルズはゆったりと行い、サポートにも思いやりに満ちた表情で素敵なパートナリングとなった。非常に安定した技術のペックだが、一瞬バランスがずれる場面があったものの、デ・ルズがしっかりとサポートした。素晴らしいサポート役があってこそのバレリーナである。

デ・ルズは踊っていることが本当に幸せそうで、温かい笑顔に満ちた素晴らしい存在感で全体を引っ張った。最後に自分より大きいペックを肩の上にリフトして終わった。

『コンチェルト・バロッコ(Concerto Barocco)』もバランシンの代表作で、ヨハン・セバスチャン・バッハの曲に振付けられている。この演目はデ・ルズの休憩のために挿入されたもので、やはりヴェテラン・プリンシパルのマリア・コウロスキー(Maria Kowroski)がリードした。真っ白いミニドレスの女性コールドの群舞で始まり、途中からプリンシパルの女性二人(コウロスキー、アビ・スタッフォード/Abi Stafford)が加わる。コールドと同じ衣装だが、コウロスキーの存在が抜きん出た。ベテランの貫禄は当然ながら、とにかく美しい。細く、長いラインと、動きのコントロールは熟練の技という言葉がぴったり当てはまる、まさに目を惹きつける美しさだ。一緒に踊る若いダンサーたちとは違う、枯れて洗練されたラインとでも言おうか。ラッセル・ジャンゼン(Russell Janzen)が加わり、コウロスキーとのデュエットになる。リフトによる空中でのラインも非常に美しく、別世界に連れて行ってくれた。一方、スタッフォードのソロは若々しくエネルギッシュだ。よく構成された作品だが、難しい振りの連続で、リズムと動きの遊びも含まれ、テンポが速い振付が整然と踊られた。

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De Luz A suite of Dances Photo by Paul Kolnik

ジェローム・ロビンズ(Jerome Robbins)振付の『ダンス組曲(A Suite of Dances)』は、チェリストと男性ダンサーのソロの組み合わせ。バッハの「チェロのための六つの組曲」を使ったこの作品は、ミハイル・バリシニコフに振付けられ、1994年にバリシニコフのホワイト・オーク・プロジェクトの演目として初演された。今回はデ・ルズと女性チェリストのアン・キム(Ann Kim)が演じた。互いの呼吸を見ながらキムがチェロを弾き始め、デ・ルズが踊りだす。やわらかい体の使い方で、何気なく一人で遊んでいる感じから、だんだんと観客を意識する踊りとなる。少しおどけたり、連続回転の後で目が回ったのを解くような動きもして、観客を笑わせながら、するりとマルチ回転を入れる。ロビンズの作品らしく、そこここにユーモアを含んだ振りが入っており、デ・ルズは余裕のある踊り方で表現して観客を笑わせる。うつろな曲になると、キムは音楽に酔うように弾き、それを味わうように聴くデ・ルズはゆったりと曲に乗るように踊りだして、優雅に続ける。物語を語るような踊り方だ。音楽と共にふわりとした空気を作り出した。全体にバレエというよりは日常の動きを多く取り入れた、モダンダンスの様な作品だ。民族舞踊の要素も取り入れてあり、必ずしも美しいラインを要求していない。むしろ、踊り手の人柄を語るような、あるいはダンサーから自然に出る味にフォーカスを置いた作品と言えるだろうか。曲が終わりかけてそろそろ踊り納めかなという時、曲はまだ続き、デ・ルズは「え、まだ終わらないの?」というような表情を見せて観客を笑わせる。「ええい、分かったよ!」と半ばやけっぱちになって、最初の姿勢に戻って終わる。素晴らしい表現力と美しい笑顔を絶やさない、みんなに愛されているダンサーだ。

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De Luz Todo Buenos Aires Photo by Paul Kolnik

最後はデ・ルズが敬愛したピーター・マーティンス(Peter Martins)の作品、『永遠のブエノスアイレス(Todo Buenos Aires)』で幕を閉めた。音楽はアストール・ピアソラ(Astor Piazzolla)の同名の曲である。巨大な布をカーテンのように舞台の天井に大きくあしらった大胆なセットの奥に、こぢんまりとしたバンドが位置し、ミュージシャンたちと一緒に座っていたデ・ルズが歩み出て、バンドの演奏に踊りだす。彼が消えると、黒いセクシーなミニドレスに黒いストッキング、黒いポアントのサラ・メアーンズ(Sara Mearns)が二人の男性と踊る。デ・ルズが走り出てきて強い回転を見せる。タンゴの振りも入っている。メアーンズのグループが消えると、今度はマリア・コウロスキーが同様の衣裳で別の男性二人と現れて踊る。息をのむような美しさだ。デ・ルズがクリスプで速いソロを踊った後、メアーンズとコウロスキーと、それぞれデュエットを踊る。哀愁を帯びたタンゴ曲に、ヴェテラン同士の匠の踊りが繰り広げられる。コウロスキーは特にセクシーだ。二人の女性に惹かれながらも、結ばれないイメージが浮かぶ。
後半では若い男性4名を引っ張って、デ・ルズの熱い踊りとなる。あふれる笑顔が何とも言えない余裕を感じさせる。粋でセクシーな作品だ。彼の見せ場でもある強いターンをすると、会場に大歓声があふれた。フラメンコの振りも入って熱い雰囲気となり、エネルギーを盛り上げた。この作品でもコウロスキーの美しさが栄えた。デ・ルズの回転はシャープで軽々としており、ジャンプは誰よりも速い。古典のパ・ド・ドゥの男性ソロでよく見られる、舞台を円に跳んで回る場面が含まれており、強い回転とジャンプを見せて大きく盛り上げた。デ・ルズの持ち味を存分に見せ、観客を大喜びさせて、さよなら公演の幕を閉じた。

最後に引退公演の常で、カンパニーメンバーからの山のような花束の贈呈と花吹雪で、デ・ルズの実績と将来を祝福して終わった。輝く笑顔にあふれるデ・ルズは実に優雅なダンサーで、技術もまだまだ強く、引退するのは惜しいくらいだ。もちろん、踊りそのものから引退するわけではなく、今後はフラメンコのプロジェクトなどに関わったり、教えやコーチも積極的にしていくという。まずは、お疲れ様でした。
(2018年10月14日夜 David H. Koch Theater)

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Joaquin De Luz Farewell Photo by Erin Baiano

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