アメリカ最大のタップ・ダンス・フェスティバル、フィリペ・ガルガンニ、カレブ・タイシャなどが鮮やかに踊った

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

Tap City - American Tap Dance Foundation
「タップ・シティ」アメリカン・タップ・ダンス・ファウンディション

"RHYTHM IN MOTION"  Artistic Director: Tony Waag
「リズム・イン・モーション」トニー・ワーグ:芸術監督

7月7日から13日まで、毎年恒例の、アメリカ最大のタップ・ダンス・フェスティバルの、タップ・シティが開催されました。主催は、ニューヨーク拠点のアメリカン・タップ・ダンス・ファンデーションです。タップ・ダンスはニューヨークで発達していったアートの形なので、ニューヨークが世界で1番タップ・ダンスが盛んです。
タップ・シティは2001年に第1回目が始まったタップ・ダンスの祭典で、今年18年目となりました。年々、回を重ねるごとに規模が大きくなってきています。Dance Cubeでは、タップ・シティの初期の頃からレポートしてきました。
今年のタップ・シティは7日間に渡り、世界中から生徒が参加する夏季クラス4デイ。そしてコレオグラフィー・レジデンシーズ、ボート・ライド、リーダーズ&レジェンズ・アワーズ、リズム・イン・モーション、タップ・フューチャー、タップ・イット・アウト、タップ・ヘヴンなどがありました。

劇場で上演される公演のうち、私は7月11日の「リズム・イン・モーション」を観に行きました。これは、元々は数年前からタップ・シティとは別の時期に行われていた公演ですが、今回はタップ・シティのプログラムの中に組み込まれていました。プロのタップ・ダンサーや教師たちが振付けて出演する、見ごたえのある公演です。

今回も、世界トップで活躍する旬のタップ・ダンサーたちが続々と出演しました。その中で特に印象に残ったダンサーの作品についてレポートします。舞台セットの後ろの壁に流れる映像は、芸術監督のトニー・ワーグが撮影、製作しました。途中、ワーグが出てきて挨拶もありました。

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フリペ・ガルガンニ「ジェット機のサンバ」FELIPE GALGANNI - -SAMBA DO AVIAO & PIANO DA MANGUEIRA © Amanda Gentile

以前にもレポートしましたが、ニューヨークで成功を収めている、フェリペ・ガルガンニ(Felipe Galganni)振付の「タップ&トム(TAP & TOM )」の作品の中から、『ジェット機のサンバ(Samba Do Aviao)』『ピアノ・ダ・マンゲイラ(Piano Da Mangueira)』(アントニオ・カルロス・ジョビン作曲)が上演されました。ギター、女性ヴォーカルに、ダンサーはガルガンニ本人も含めて6名(男性2名、女性4名)でした。ガルガンニの「タップ&トム」の公演は成長し続けています。

ガルガンニが独自に開発して創り上げたブラジリアン音楽のタップのステップで、楽しそうな踊りでした。特にタップの音をものすごく大きく鳴らすところも入れて、小さな音から大きな音まで幅広く、強弱を強くつけて劇的になっていました。音楽に乗ってリズム感も良く、明るく楽しい振付です。ステップにはリズムタップ、ファンクタップの難しいものも入れていました。選曲はゆったりした速さの曲と速いリズムの曲の2曲でした。短い時間で、バラエティに富んだ構成で、工夫が感じられました。

カレブ・タイシャ(Caleb Teicher)の「グレート・ハイツ(Great Heights)」も興味深かったです。タイシャは近年、めきめきと頭角を現していて、タップ・ダンス界の中で実力派ダンサーとして高い評価を受けています。現在、実力的に世界のベスト・タップ・ダンサーのうちの1人です。
タイシャ自身の振付でソロで踊りました。最初、女装してスカートをはいて出てきてうごめいていて、少し踊る振付も入れていて、タップ以外の要素も取り入れていました。
そしてスカートを脱いで、短パン姿となり、踊り始めました。女性用のヒールのついたタップシューズで踊りました。短パンから出ている両足は鍛え上げられていて、鍛錬をかなり積んでいることが分かります。見ているこちらが圧倒されるような、自信と強さが出ていました。
バレエの鍛錬も積んでいる様子で、グランバットマンも柔軟性があり素晴らしく訓練されていました。普通は、タップ・ダンサーでそこまでバレエの基礎訓練を取り入れる方は少ないものです。
スツールの椅子の上に乗り、面積の小さい部分に立ったままでタップ・ダンスをしたところもあり、体のバランスの取り方が上手で、重心がよく取れていて体幹が鍛えられている証でもありました。
踊りはとてもキレが良く、敏捷性があり、本場ニューヨークに集まる多くのプロのタップ・ダンサーたちの中で抜きん出た感がありました。元々、全身の敏捷性か筋肉の柔らかさか才能のせいなのか、タップ・ダンスは幼少時から長年練習を積んでいるプロたちでも、多くはキレの良さには限界があります。ニューヨークは特にタップ・ダンス人口が多いので目にする機会が多く、タップのキレの良し悪しは一目瞭然です。タップは、それぞれにキレだけではなく他の個性も加えて独自の踊りを作っていくものです。
でもタイシャの踊りのキレの良さは他と抜きん出て素晴らしくて、いくら練習を積んでも難しいレベルなので、元々持っている身体能力と才能が大きいと思いました。

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「グレート・ハイツ」Careb Teicher "Great Heights"© Amanda Gentile

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「グレート・ハイツ」Careb Teicher "Great Heights"© Amanda Gentile

ニューヨーク拠点に活躍している日本人タップ・ダンサーの桜井タミイも自身の振付で、ソロで長く踊りました。他にダンサーも入れて、4名で踊りました。『ビン・トリビュート(Bin Tribute)です。音楽は、日野賢二と日野元彦の曲です。

舞台背景には桜井が用意した写真と自身のナレーションが流れました。祖父と桜井の幼少時の写真が大きく写されました。桜井は高校からアメリカに住んでこちらの教育を受けていて、英語はネイティブ並みです。そのナレーションにより知りましたが、この日はタップ・ダンサーでトランペット奏者だった桜井の祖父、日野敏の生誕100年で、日野皓正と日野元彦は桜井の伯父、日野賢二は桜井の従兄弟にあたるそうです。祖父の日野敏にタップ・ダンスの手ほどきを受けて、桜井は幼少時から練習を積んできました。その祖父のお陰様で現在のタップ・ダンサーとしての桜井があるということを、感謝しているというトリビュートの作品でした。
桜井はアメリカ人のように表情豊かで、表現力が大きく、のびのびとした踊りをします。明るく楽しそうな踊りです。基礎もしっかりしています。桜井はタップ・ダンス教師としても教えるのが上手で、ニューヨークで定評があります。

この日の目玉は、世界的タップ・ダンサーで現在世界一の実力といえるミッシェル・ドランスMichelle Dorrance
です。ドランスについては、以前、何度かレポートしたことがあります。"Until the Real Thing Comes Along"は、ドランスも含めてダンサーは4名で、振付とインプロビゼーションはそれぞれのダンサーによるものです。ドランスの肉体はアスリートのように鍛え上げられていて強靭で、すごい迫力で圧倒的実力のタップ・ダンスをします。いつ見てもすごい! の一言です。
この振付は、ダンスだけではなくて実験的な演技の要素もあり、自由でのびのびした作品でした。ですから、殺気立つほど爆発するいつものドランスのタップを見せ付ける作品ではありませんでしたが、普段と違った新しい面を表現しているようで新鮮でもありました。あの手に汗握るようなドランスならではのすさまじいタップを期待していましたが、今回の作品はそのようなシーンは少しだけでした。今回は、全体に、普段よりもっと穏やかでニコニコ微笑み、楽しそうで踊りに余裕がありました。
ドランスの速うちのインプロビゼーションのタップも少しあり、さすがでした。

他に登場した様々な黒人ダンサーたちも実力が高かったです。現在の、世界水準のレベルのタップ・ダンスを一度に観ることが出来て、満足度が高い良い機会でした。
(2018年7月11日夜 nシンフォニー・スペース)

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ミッシェル・ドランス"Until the Real Thing Comes Along" © Amanda Gentile

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ミッシェル・ドランス"Until the Real Thing Comes Along" © Amanda Gentile

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