元NYCBのダンサー、メリッサ・バラク設立のバラク・バレエが、鮮烈なイメージの舞台を見せた
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ワールドレポート/ニューヨーク
三崎 恵里 Text by Eri Misaki
Joyce Ballet Festival, Barak Ballet ジョイス・バレエ・フェスティバル、バラク・バレエ
"Cypher" by Melissa Barak, "Desert Transport" by Nicolas Blanc, "E/Space" by Melissa Barak.
『サイファー』 メリッサ・バラク:振付"、『デザート・トランスポート』 ニコラス・ブランク:振付、『E/スペース』 メリッサ・バラク:振付
バラク・バレエ(Barak Ballet)は、かつてニューヨーク・シティ・バレエのダンサーだったメリッサ・バラク(Melissa Barak)が創立し、2013年に初演した。ロサンゼルスを拠点として活動するコンテンポラリー・バレエ・カンパニーである。バラクはNYCB時代(1998〜2007)には、SAB(スクール・オブ・アメリカン・バレエ)やNYCBにも作品を振付けたことがある、若い振付家。
舞台は、バラクの振付け、『サイファー(Cypher)』でオープンした。女性は青いレオタード、男性は同色のユニタードで一塊になったダンサーたちの中から、一人の女性のソロで始まる。ダンサーたちは良く鍛えられていて、単調なフレーズが繰り返すかのようなスタティックな音楽をよく理解して踊る。しっかりリハーサルされており、ユニゾンになると美しく揃う。この作品をリードしたシャン・チェン(Xuan Cheng)は特に美しく、カリスマ性がある。安定した強いテクニックが印象的だ。しかし場面の流れは脈絡に欠け、ニューヨーク・シティ・バレエの作風の強い影響を感じる。全体に複雑で困難な振りで、そこここでNYCBを連想させた。チェンの踊りは印象に残ったが、作品はいささか長すぎると感じた。
Barak Ballet - Photo © David Friedman
次に踊られた『デザート・トランスポート(Desert Transport)』はニコラス・ブランク(Nicolas Blanc )の振付。舞台中央奥から後ろ向きに歩み出た一人の女性による、美しいラインとダイナミックな動きのソロで始まる。音楽はクラシックだが、アラビア風の歌声が入る。砂漠を行きかう人々の様子をテーマにした作品と思われる。群舞の4人の女性たちは赤銅色のミニドレスを着て、暗いオレンジ色の背景がいかにも灼熱の気候を連想させる。途中でドラマチックな音楽に変わり、背景がブルーになると、4組の男女の踊りとなる。女性は赤銅色の光るレオタードを着て、美しいラインだ。どんどん背景の色が変わるのは綺麗だが、何が砂漠を移動しているのかは分からない。その中の一場面で、男性の肩にリフトされた女性が上空を指さす様子が何かを示唆する。そして、女性の一人がソロを踊る後ろを、シルエットになった人々が舞台を横切る。再び、4人の女性の群舞から4組の男女の踊りになる同じ場面が繰り返され、また男性にリフトされた女性が空を指さす。日常がたゆまなく繰り返されることを示唆したものだろうか? 最後に一人の女性が空を仰ぐように大きく身体を反らせて終わった。
この日の最後を飾ったのは、バラクの振付の『E/スペース(E/Space)』だった。これは踊りと映像を組み合わせた作品で、斬新な発想で作られている。舞台全面を覆う紗幕に一つの長方形が映写されて作品は始まる。それが回転し始め、増えながらだんだん大きくなって、らせん階段のようになる。それが更に広がり、中央が目の形のようになる。映像がだんだん暗くなり、観客は不思議なスペースに入り込んだ感覚になる。すると映像の向こうに男性が浮かび上がって踊りだす。まるで映写されている箱の中で踊っているようだ。ポアントを履いた女性が加わってデュエットとなる。惑星が飛ぶような映像となって、その中で別のカップルが踊る。ダンサーたちが次々と現れ、常に紗幕の向こうで踊りが展開する。その次には縦に走るラインが映写され、円形の光が飛ぶ。宇宙空間の様な、はたまたコンピューターの中の様なイメージ。まさにE-スペースだ。
Barak Ballet - Photo © David Friedman
一人の男性が強いターンを交えたソロを踊る。紗幕に流れる曲線の向こうをダンサーたちが走る。スタティックな音楽にキビキビとした動きが展開する。映像は水の中の様になる。単純な振りだが、良く効果が出ていて、渦巻く水の中を踊る様だ。映像は煙と飛ぶ星の様になって、煙がだんだん増える。その後ろでデュエットを踊る女性の長いラインのイメージとよく合っている。やがて海の底のような映像が現れ、それはだんだん男女が抱き合っているような形になる。突然、頭から砕けて宇宙に散る様になったかと思うと、だんだん元に戻る。無数の星が落ちる様になり、やがて魚の群れのようになる。舞台の両側から煙のような映像が出てきて、その向こうに男女のダンサーが一人ずつ立つ。エネルギッシュなダンスになり、紗幕の上にはシンプルなラインや点が流れる。この映像もダンサーの動きと呼応している。そして全員による迫力のあるダンスシーンとなる。映像は邪魔しない程度に入って踊りを引き立て、映像とダンサーのラインが重なって終わる。そしてダンサーが消えると、映像が逆戻りして、最初の小さな長方形になって終わった。
これは非常に面白いアイデアで、少しの工夫で振付のイメージが格段に変わる例と言える。素晴らしい映像デザインはレフィック・アナドール(Refik Anadol)によるもの。バラクの振付は無難なバレエで、音楽に忠実に振付けられており、動きにはこれと言って冒険はない。ダンサーたちは良く踊っているが、正直なところ、踊りだけで見ると退屈この上ない作品になったと思われるが、映像を重ねることで非常にユニークな作品となった。
(2018年7月7日夜 Joyce Theater)