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シムキンとサラ・レーンが華やかに踊り、マーク・ライデンの美術が効果的だった『ホイップクリーム』

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

"Whipped Cream" by Alexei Ratmansky『ホイップクリーム』 アレクセイ・ラトマンスキー:振付"

7月2日の「ホイップ・クリーム」の公演を観に行きました。
この『ホイップ・クリーム』は、元々は" Schlagobers " というタイトルで、ハインリッヒ・クルーラー( Henrich Kroller )振付、ウィーン国立歌劇場( the Vienna State Opera ) で1924年に初演された作品です。ABTでは、ラトマンスキー振付で、カリフォルニア州コスタメサにあるセゲルストロム芸術センター( Segerstrom Center for the Arts )で、2017年3月15日に初演されました。
プリンシパルは、ザ・ボーイ役がダニール・シムキン、プリンセス・プラリネはサラ・レーン、プリンセス・ティー・フラワーはステラ・アブレラでした。

舞台セットと衣装デザインが独得で素晴らしく、舞台の隅々まで緻密に作り込まれていて、美術的に完成度が非常に高くて見事なので、とても驚き感心しました。今まで観たABTの作品とは違う雰囲気でした。
ところどころダンサー以外の登場人物(

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Sarah Lane and Daniil Simkin in Whipped Cream. 「ホイップクリーム」Photo: Gene Schiavone.

医者、運転手、神父、動物、妖精など)は、身体の割に頭部が巨大で目も大きくデフォルメされている着ぐるみ(頭部を包むお面のかぶりもの)をつけています。写実的なのに非現実的な世界観の美術で全体が統一されているので、客席から観ていると可愛らしい不思議な絵本の世界に飛び込んだような感覚になり、非日常を味わえて楽しかったです。


この舞台セットと衣装デザインしたのは、アメリカのポップ・シュールレアリスム(ロウブロウ・アート)で有名な画家マーク・ライデンでした。マイケル・ジャクソンのアルバム「DANGGEROUS」のジャケットの絵もライデンが描いたものなので、彼の絵画作品は誰でもどこかで目にしたことがあると思います。
以下は、マーク・ライデンの『ホイップ・クリーム』の作品のページです。ABTの舞台にこの作品の絵画の世界がそのまま、衣装と舞台セットとして再現されていました。
https://www.markryden.com/paintings/whipped-cream/drawings.html
https://www.markryden.com/paintings/whipped-cream/paintings.html

この演目は休憩をはさんで2幕で構成されています。日曜日に教会で少年がお友だちと初聖体(キリスト教。年齢は8〜9歳。)を受けた帰りのシーンから始まりました。帰りに、みんなでお菓子店に連れていってもらいました。その時、少年が隙を見て、大好きなホイップ・クリームのボールを抱えてなめまくり、食べ過ぎてお腹を壊して、病院へ連れていかれてしまいました。
シムキンは8歳くらいの少年役でしたが、小柄な体格が生かされていて、金髪で元気いっぱい、無邪気なキャラクターがピッタリ合っていてはまり役でした。
子どもたちがみんな帰った後、お菓子店が生きて動き出しました。マジパンの射手、槍を振り回すキャンディー(赤白のキャンディーケーン)、剣士のジンジャー・ブレッドが、軍隊の合同訓練をし始めました。それらに扮したダンサーたちはそれぞれ4人ずつで、戦いながら踊っていました。そして踊りが終わると、また1人ずつ、全員が元いた棚の中へと帰って行きました。

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Stella Abrera in Whipped Cream. 「ホイップクリーム」Photo: Gene Schiavone.

ティーフラワーのプリンセスが現れて、コーヒーのプリンスが惹き付けられます。ティーフラワーは淡いピンクとグリーンのチュチュと大きめの光る帽子をかぶり、5名出てきて踊りました。そのセンターにアブレラがいました。鳥のように羽ばたくような、軽快な動きで踊りました。コーヒーたちは3名の男性と共に、センターとしてトーマス・フォスターが踊りました。戦いのように、男らしいところを見せるような踊りでした。

ココアのプリンス、ドン・シュガーも惹き付けられて、彼らは彼女の好意を勝ち得るために頑張ります。彼らもセンターのダンサーは、ソロで踊りました。
そしてまたティーフラワーたちも出てきてみんなで踊り終わると、それぞれ1人ずつ、戸棚の缶の中へと帰っていきました。缶には、ティー、コーヒー、砂糖など、ラベルに文字が書いてありました。
お菓子店のシェフが戻りホイップ・クリームを混ぜると、少年の夢と合わさっていきました。白いホイップ・クリームたちの群舞が現れました。全身白の衣装です。白いタイツ、レオタードと、白い薄いシフォン地のマント、頭の上がとがっている白いかぶり物をした人々が大勢出てきて踊りました。背景は巨大なホイップ・クリームの絵でした。そして第1幕が終わりました。

第2幕は、少年が病院の中のベッドで寝ているところから始まりました。少年は目を覚ますと、医者と看護婦がやってきて、少年に注射をしました。背景には大きな片目が現れて、ギョロッ、ギョロッと眼球が動いて様子を見ていました。
そして少年がぐっすり眠ると、プリンセス・プラリネが現れて、少年を連れ出すのを手伝いました。シムキンとレーンがパ・ド・ドゥで踊り、盛り上がりました。楽しそうな朗らかな踊りで、少年らしさが踊りで表現されていました。ヴァリエーションも踊り、シムキンが得意なジャンプの大技がたくさん披露されていて大拍手でした。他のダンサーが出来ないような技、大ジャンプして開脚している最中に前後の足を入れ替えてまた開脚して着地したりと、軽々と難易度の高い踊りを見せました。
レーンは、とても速いリズムで、細部まで神経が行き届いた丁寧な踊りをしました。
音楽はクライマックスへと盛り上がり、2人は楽しく喜びあって、ハグをしました。そして白い巨大な動物(スノウ・ヤック。ライデンが作ったクリーチャー)が出てきて、彼はそれに乗って去っていきました。

また病室と医者のシーンに戻りました。医者は頭痛がひどく、アルコールを飲んで酔っ払って気を紛らわせていました。やがてアルコールのビンたちが踊り始めました。ウォッカのビンの踊り、チェリーの絵が描いてあるお酒の踊りなどでした。お酒は、男性2人と女性1人のパ・ド・トロワでは、女性をリフトしたりして、このアルコールたちの踊りも盛り上がりました。
そして医者は酔っ払い、少年はプリンセス・プラリネによって助けられて、医者と看護婦から逃れて、彼女のお菓子の国へと行きました。

プリンセス・プラリネの国では、様々なすべてのクリーチャーが少年を祝ってくれました。第1幕で出てきたもの(コーヒー、ティーフラワー、ホイップ・クリームなど)も次々に踊りました。プリンセス・プラリネと少年はパ・ド・ドゥで踊りました。シムキンは、ピルエットなどもたくさん回転して、この第2幕では大技をたくさん見せて踊るシーンが多く、大拍手が続きました。
少年はセレモニーのマスターであるニコロに会い、このファンタジーな世界へ歓迎され、この世界はその時、少年にとって現実のこととなりました。少年の衣装は上下、金色の半ズボンのスーツになっていました。少年とプリンセス・プラリネは、2人で台の上に上って、皆に祝福されて終わりました。
シムキンの圧倒的なジャンプ力の踊り、ラトマンスキーの振付、ライデンの絵画の世界が相乗効果で生かされていて、素晴らしい作品でした。
(2018年7月2日夜 Metropolitan Opera House)

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