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ダンサーたちも楽しみかつエネルギッシュに踊ったバレエXの3作品、ジョイス・シアター・バレエ・フェスティバル

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

Joyce Ballet Festival, BalletX / ジョイス・バレエ・フェスティバル、バレエX

"VIVIR" by Darrell Grand Moultrie "Increasing" by Matthew Neenan, "The Boogeyman" by Trey McIntyre.
『生きる』 ダレル・グランド・モールトリー:振付、『インクリーシング』 マッチュー・ニーナン:振付、『ザ・ブギーマン』 トレィ・マッキンタイヤー:振付

今回ジョイス・バレエ・フェスティバルに参加したバレエX(Ballet X)は、2005年にクリスティーン・コックス(Christine Cox)とマッチュー・ニーナン(Matthew Neenan)によって創立された、フィラデルフィアのコンテンポラリー・バレエ・カンパニーである。現在はコックスが芸術監督と取締役を兼任している。今回は3つの作品を出品した。

オープニングを飾った『生きる(VIVIR)』はダレル・グランド・モールトリー(Darrell Grand Moultrie)の振付。サーモンピンクの背景の前で、同じ色をあしらったレオタードの女性のソロで始まり、次々とダンサーたちがソロを踊る。まるで、カンパニーを一人一人紹介するかのようだ。ダンサーたちは皆、正しい身体の使い方で美しい。ラテン音楽やジャズを使ったコンテンポラリー・バレエだ。どのダンサーも素晴らしい。癖のある少々奇妙な振りも、良く解釈して踊っている。特にストーリーはないが、見ていてダンサーのセンスというものを感じる。
特に印象に残ったのが、ゲイリー・W・ジェター二世(Gary W Jeter II)が踊った"あなたの愛を信じて(Eu Sel Que Vou Te Amar)"の場面。英語ではないので歌詞は分からないが、踊りが語っている。ロマンチックな曲だが、痛みと困苦があった。「辛い人生だが、耐えていく。」「自分ではどうにもならないことがあるが、自分を信じ、神を信じて生きていく。」という言葉が聞こえてくるような、ある意味での諦観を感じる踊りだ。ジェターは非常に良いダンサーで、控えめだが自信のある踊り、優れた表現力でしっかりとメッセージを伝え、強いインパクトを残した。
最後の場面は明るい背景となり、女性たちが鮮やかなミニドレスになり群舞を踊った。スタイルのある振付で、ダンサーたち自身もが楽しんでいる。エネルギッシュでありながら優雅な作品だ。ダンサーの音楽性の良さも見せた。

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dancers Francesca Forcella and Gary W. Jeter II performing "Vivir" by Carrell Grand Moultrie. Photo © Bill Hebert

次に演じられたのは、振付家でこのカンパニーの創始者の一人でもある、マッチュー・ニーナン(Matthew Neenan)の作品、『インクリーシング(Increasing)』。ステージの上に配されたチェンバー・ミュージックのミュージシャンによって、シューベルトの「スプリング・カルテットハ長調163番」がライブ演奏された。一人の男性のダンサーが反対側に板付きになっており、彼のソロから女性が加わってデュエットとなり、さらにダンサーが加わって展開していく。彼らは渋い色調のコスチュームを着ている。男性たちはアスレチックだが優雅、女性たちは美しい。あらゆる意味で非常にレベルの高いカンパニーで、抽象的だがしっかり見せる物を持っている。

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dancers Gary W. Jeter II (foreground) with Francesca Forcella, Daniel Mayo, Caili Quan, Jenny Winton and Zachary Kapeluck (L to R) performing "Increasing" by Matthew Neenan. Photo © Bill Hebert

作品は男女に分けてユニゾンになったりカノンになったり、フォーメーションと動きの遊びが存分に入っていて、しかも整然として美しい。振付家、ダンサーともに情熱を感じるカンパニーだ。例えば、前の作品で強く印象付けたアフリカ系の男性、ジェター(Jeter)のソロは、自分を信じている踊り、そして踊りを知っている踊りだ。日系アメリカ人のアンドレア・ヨリタ(Andrea Yorita)は独特の雰囲気を持っており、自らの心を投げ出すような快活な踊りを見せた。アンナ・ピーボディ―(Anna Peabody)は素晴らしく長い線を活かして踊る。振付に具象的な意味が無くても、音楽というセリフを持っているのだ。
最後にヨリタが舞台の端にいる男性に走って行って、空中で2、3回転して男性にサポートされるという、あっと言わせる技術を見せて終わった。何がインクリース(増えて) しているかというと、まずはダンサーの数、そしてダンサーと観客の興奮度、そして舞台の上と下で共有する感動がどんどん増していったと言える。

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dancers Skyler Lubin, Caili Quan, Francesca Forcella and Daniel Mayo performing "Increasing" by Matthew Neenan. Photo © Bill Hebert

最初の二作品の後、インターミッションを挟んで、この日最後に踊られたのが、トレイ・マッキンタイヤー(Trey McIntyre)振付の『ブギーマン(The Boogeyman)』だった。ブギーとは陽気なダンスという意味だ。その言葉通り、アメリカで大ヒットした数々のポップス曲に振付けられている。

まずはマーヴィン・ゲイが歌う「Got to give it up」が流れると、頭にヘッドセットを被ったDJのようなブギーマン(ロドリック・ファイファー/Roderick Phifer)が舞台に浮かび上がる。彼は音楽を聴きながら、ファンキーに踊りだす。観客から、「All right!(いいぞ!)」と掛け声がかかる。そのうちにベッドカバーに覆われたベッドの下の部分が、クラブのようにいろんな色が光り出す。びっくりしてカバーをめくってみるブギーマンのファイファー。ヘッドセットの中の音楽に溶け込んでいる彼には、何が真実なのかだんだんわからなくなったのか、カバーの中に潜り込む。
するとスティーヴィー・ワンダーが歌う「Don't You Worry 'Bout a Thing」が流れ、男性三人と女性一人が出てきて、楽しい男女の戯れのようなダンスを踊る。ジャズダンスではなく、バレエテクニックを駆使したショーダンスに近い。彼らがベッドを動かすとファイファーが出てくる。

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dancers Andrea Yorita and Roderick Phifer performing "The Boogeyman" by Trey McIntyre. Photo © Bill Hebert

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dancer Roderick Phifer performing "The Boogeyman" by Trey McIntyre. Photo © Bill Hebert

踊った後、彼らがベッドを回転させると、アンドレア・ヨリタ(Andrea Yorita)がベッドに横たわって現れる。彼女はジョニー・ナッシュが歌う「I Can See Clearly Now」に乗って、若い女性の夢や将来の希望を奔放に描くように、伸び伸びと踊る。しかし、その後に続いたのはフラストレーションを表現する踊りだった。ギルバート・オサリヴァンの歌う「Alone Again」にコンテンポラリー・バレエの振付で、枕を持って踊る。ファイファーが加わり、デュエットとなる。うまく行かない恋人たちの葛藤を描いている。

男性たちが出てきてベッドを立てると、その裏側は電話ボックスになっている。アース・ウィンド&ファイヤーの「September」が流れて、男女のファンキーなダンス場面になる。これはジャズ・バレエと呼ぶべきだろう。ダンサーたちはクラシックの枠を超えて楽しんで踊っている。電話ボックスではヨリタとファイファーが真剣な顔をして電話をかけている。ファンキーなジャズ・バレエがどんどん展開する後ろではヨリタが受話器を持って落ち込んでいる。そして次の曲、スティーヴィー・ワンダーの「Never Dreamed You'd Leave in Summer」ではファイファーとヨリタの、エネルギッシュなモダンダンスのデュエットだ。しっとりとした失恋の場となった。
スティーヴィー・ワンダーの「I wish」が流れて、再びファンキーな曲となる。エネルギッシュに女性トリオが踊り、男性が加わってジャズ・バレエが繰り広げられる。踊りまくるダンサーたちの間でお互いに見かわすヨリタとファイファー。ベッドを挟んで踊り狂ったダンサーたちは、ヨリタが浮遊するかのようにリフトして終わる。
純粋に楽しませる作品で、誰もが知っている昔懐かしいポップス曲に、ちょっぴり切ない恋物語を描いて、観客を最高潮に盛り上げてこの夜を閉じた。

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dancers Zachary Kapeluck, Daniel Mayo, Gary W. Jeter II, Caili Quan, Skyler Lubin and Francesca Forcella perfomring "The Boogeyman" by Trey McIntyre. Photo © Bill Hebert

舞台を観ているうちに、これまでになく私はこのカンパニーのメンバーが羨ましくなった。これほどにも活き活きとしたカンパニーは珍しい。ダンサーそれぞれが表情を持ち、活かされている。つまり、ダンサーが大切にされていると、観ていて感じるのだ。優れたダンサーを集めているのは事実だろうが、それ以上にダンサーを育てるカンパニーで、その結果、実に素晴らしい踊り上手の集まりになったのではないかと思われる。また舞台を見たいカンパニーである。

(2018年7月1日昼 Joyce Theater)

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