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2016年に創立したばかりの若いカンパニー、ディメンションズ・ダンスシアター・オブ・マイアミが踊った先鋭な4作品

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

Joyce Ballet Festival, Dimensions Dance Theatre of Miami / ジョイス・バレエ・フェスティバル、ディメンションズ・ダンスシアター・オブ・マイアミ

"Light Rain" by Gerald Arpino, "Stepping Into Blue" by Tara Lee, "Esferas" by Ariel Rose, "Juanita Y Alicia" by Septime Webre.
『ライト・レイン』 ジェラルド・アルピーノ:振付、『ステッピング・イントゥ・ブルー』 タラ・リー:振付、『エスフェラス』 エアリアル・ローズ:振付、『ファニタとアリシア』 セプティム・ウィーバー:振付

ニューヨークのジョイス・シアターが毎年主催する、ジョイス・バレエ・フェスティバルを今年は見た。このフェスティバルは、アメリカの若いコンテンポラリー・バレエ団がそれぞれ2〜3日間ずつ作品を見せる、ショーケース・スタイルのバレエの祭典である。その最初を飾ったのは、フロリダ州マイアミを拠点とする、ディメンションズ・ダンスシアター・オブ・マイアミ(Dimensions Dance Theatre of Miami)であった。マイアミ・シティ・バレエの元プリンシパルのカップル、カルロス・グエラ(Carlos Guerra)とジェニファー・クロネンバーグ(Jennifer Kronenberg)が創立、2016年にデビューした若いカンパニーである。

オープニングに踊られたのは、ジョフリー・バレエの元芸術監督、故ジェラルド・アルピーノ(Gerald Arpino)の官能的な作品、『ライト・レイン(Light Rain)』。(音楽:ダグ・アダムズ/Doug Adamz、ラス・ゴーティエ/Russ Gauthier)。プリンシパルのガブリエラ・メサ(Gabriela Mesa)とファビアン・モラレス(Fabian Morales)がリードした。

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Dimensions Dance Theatre of Miami's Gabriela Mesa and Fabian Morales in Gerald Arpino's "Light Rain". Image by Simon Soong.

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Dimensions Dance Theatre of Miami's Gabriela Mesa and Fabian Morales in Gerald Arpino's "Light Rain". Image by Simon Soong.

最初にダンサーたちが舞台の上にひとかたまりになって、その中から二人の男性にサポートされたメサが現れて踊る。女性はヌード色のユニタード、男性は上半身裸の白タイツ姿。全員非常に良くトレーニングされ、洗練された美しさを持っている。その中でもメサは抜きんでて美しい。完全に180°にターンアウトした脚は、セカンドにエクステンドするとまさに耳に脚が付き、頭上高くまで上がってキープされる。細い美しい容姿、ストレッチの効いた体、観客の目をくぎ付けにした。特にモラレスとのデュエットでは、怪しく腰をくねらせながら、この身体能力もテクニックも要求する作品を、官能的に踊った。モラレスがメサを頭上高く上げる大きなリフトもあるが、軽々として見えた。メサの演技、表情ともに素晴らしく、このデュエットが終わると、まだ作品の最中であるにもかかわらず、観客から大歓声と拍手が起こり、しばらく会場はざわめいた。まさにショー・ストッパーだ。
最後は群舞で、次々とフォーメーションを変えながらダンサーたちが踊る。ここでもメサは非常に目立ち、正しい体の使い方、セカンド・バットマンもアティチュードも素晴らしく高く美しい。彼女を見ていれば、もう満足!と言った感じだ。最後にダンサー達は舞台の上で一塊になって、手ををきらきらと閃かせるようにして終わった。アルピーノの独特な音楽の解釈を、ダンサー達が楽しんで視覚化したこの作品で、最初からカンパニーを強く印象付けた賢いプログラミングだ。

その次に踊られた『ステッピング・イントゥ・ブルー(青の中に入り込んで/Stepping Into Blue)』は、タラ・リー(Tara Lee)の振付けで、このカンパニーの創立者のジェニファー・クロネンバーグとカルロス・グエラが踊った。物憂げな音楽(エリック・サティ―/Erik Satie, Gnossienners No.1)の中、ペンキのローラーを持ってクロネンバーグが床に座っている。やはりローラーを持ったグエラが上手から歩み出る。スモークをわずかに焚き、照明が線になって見える。二人とも深刻な顔をして踊り、ロマンティックな雰囲気が高まる。
部屋を青く塗っているうちに、恋に陥った男女という設定だろうか? しかし、二人の深刻な表情とペンキのローラーが似合わず、何らかのユーモラスな落ちが付くのかな? と、それとなく期待するが、ドラマチックな表情の二人はやがて床に横たわって引きあって、チュッとキスを交わして踊り続ける。青い色のついたローラーを手放さない。次に何が起こるのか見守る観客。しかし、結局それだけで終わった。流石にダンサーたちは美しいが、振付にもう一つ工夫が欲しい作品だった。

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Dimensions Dance Theatre of Miami's Gabriela Mesa, Fabian Morales, and Josue Justiz Brito in Ariel Rose's "Esferas." Image by Simon Soong.

第一幕最後の作品はエアリアル・ローズ(Ariel Rose)振付の『エスフェラス(Esferas)』。ガブリエラ・メサと二人の男性ダンサー、ジョシュー・ジャスティス(Josue Justiz)とファビアン・モラレスのトリオで踊られた。

紫の背景にシルエットで立つメサのソロで始まった。ユニタード姿だが、見ただけでメサと分かる。実に素晴らしいダンサーだ。最初はデュエット、男性がもう一人加わって、二人の男性がメサをサポートする形となる。美しいラインと形象がどんどん展開される。
後半は時計の針を連想させる。足が頭に付くアティチュードなど、伸び伸びとした余裕のある演技でメサは観客を惹きつける。難しいリフトの多い作品で、男性たちも美しいラインで踊っているのだが、いつの間にかメサだけを見ている。素晴らしい音楽性と高い芸術性が舞台の上に展開した。エスフェラスとはスペイン語で球面という意味で、スペイン語がわからない私には、テーマが何か分からなかったが、素晴らしく強靭で柔軟なメサの踊りを見ているだけで、作品の真意を告げて観客を満足させるものがあった。

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Dimensions Dance Theatre of Miami dancers performing Septime Webre's "Juanita y Alicia." Photo © Simon Soong

公演の後半は『ファニタとアリシア(Juanita Y Alicia)』が上演された。この作品を振付けたセプティム・ウエバー(Septim Webre)の子供時代の家族の記憶と母親から聞いた1920年から30年代の話を基にした作品という。

ファニタは精神的でロマンチックなウエバー自身の母親、そしてアリシアはパーティー・ガールという設定だ。ウエバーの出身地、キューバの民族音楽が、観客席前方に陣取ったバンドによってライブ演奏された。作品はキューバの庶民の衣裳らしきものを着た男性のソロで始まった。美しいラインで力強く踊った後、一瞬照明が消えると、彼の姿はかき消すように消えていて、多くのダンサーが白い衣裳で板付きになっている。これはウエバーの家族で、毎週末に集まって音楽をかけ、何時間も踊って楽しんだ様子を描いている。
最初に踊った男性が出てきて踊ると、逆の方向から4人の女性たちが出てきて、それとなく彼を見ている。やがて男女の群舞になる。ダンサーたちは、バレエにラテンダンスを混ぜたような、不思議なスタイルが織り込まれている振りを見事に踊る。
3曲目は男女のデュエットだった。ラテンのリズムにバレエの振付を配し、最初はドラム演奏だけで踊った。最後に女性を袖に放り上げこんで終わるが、恐らく、この女性がアリシアではないかと思われる。
4曲目は男性の陽気なトリオで、これはウエバーの叔父さんたちだという。元気なジャンプや男性同士のリフトが含まれた踊りが続き、やがて女性が加わって、戯れる男女のダンスとなる。遊び心に満ちた場面で、なんとなくへらへらした、陽気な男たちが楽しい。
5曲目では、袖から出てきた女性がスカートを脱ぐ。反対側から最初のソロを踊った民族衣装の男性が出てきて、二人の官能的なデュエットとなる。恐らく、これがファニタであろう。男性の存在感が女性を際立たせる美しい踊りだ。女性が空中で男性の手に腰掛ける様に見える大きなリフトを軽々として見せた。女性は長い髪を降ろし、髪の毛をなびかせながら踊る姿がセクシーだ。女性が思いを寄せる男性と夢の中でセックスするかのような美しい場面だ。あるいは、男性は神のような存在で、信仰にわが身を捧げるファニタの姿と心を描いたものかもしれない。
6曲目は男女のデュエットから始まって、もう一人男性が加わってトリオに、そして群舞となる。ラテン音楽に乗ったにぎやかな振付だが、整然としている。家族が楽しく踊り狂う様子を描いたものだろうか。一人の男性が強いターンのコンビネーションを披露し、ファニタと思われる女性が出てきて、思いを遠くに馳せるような表情をして消える。陽気なラテン音楽に楽し気に踊るダンサーたちを隔てて、両側からファニタと男性が出てきて、互いに思いを馳せるかのように、手を差し伸べて合って終わる。ストーリー・バレエとしては構築が未熟で、もう一つ作品の真意が観客に届かなかったが、ダンサーたちの美しく力強い踊りがそれを支えた。
まだ若い、小さなカンパニーだが、この次また公演があると聞いたら、ぜひ、足を運びたいと思わせる舞台であった。
(2018年6月27日夜 Joyce Theater)

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