ポール・テイラーは自らの財団に芸術ポジションを増設。ダンサーのマイケル・ノヴァクを将来の芸術監督に指名

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里  Text by Eri Misaki

現在、アメリカのモダンダンスの最高峰カンパニーの一つ、ポール・テイラー・ダンスカンパニーの創設者で振付家のポール・テイラー(Paul Taylor/87歳)は、ポール・テイラー・ダンス財団に芸術部門のポジションを増設し、カンパニー・ダンサーのマイケル・ノヴァク(Michael Novak/35歳)をカンパニーの指定芸術監督に任命することを発表、7月1日付で実施した。テイラー自身は引き続き財団の芸術監督を務め、振付も行い、ノヴァクを将来のテイラー・オーガニゼーションの芸術監督にするための準備と訓練に入るとしている。

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Paul Taylor © Maxine Hicks

テイラーは、「この発表をすることは非常に喜ばしい。マイケルは将来私のカンパニーを引っ張っていくにふさわしい人材だ。過去10年以上、マイケルはわれわれのレパートリーをマスターして、ダンスの歴史の中で急浮上してきた。彼はモダンダンスの過去、現在、未来を育む必要性を理解している。私のヴィジョンを継続させるために、彼と一緒に仕事をして、将来のカンパニーのリーダーとして育てていくことを楽しみにしている。」と語った。

ノヴァクはダンス史を専攻したバックグラウンドを持ち、2008年にコロンビア大学のダンス部門を優秀な成績で卒業、クラシック・バレエ、ジャズダンス、タップダンス、コンテンポラリー・ダンスを専門的に学んだ。モダンダンスへの情熱はコロンビアで学ぶ時から抱くようになった。2010年にテイラー・カンパニーから招待されて入団、2011年にはクライヴ・バーン財団賞にノミネートされた。
同財団理事会のC.F. ストーン会長は、「理事会に代わって、私はノヴァク氏の就任を歓迎したい。彼のダンスの知識とカンパニーでの経験が、テイラー氏の遺産を引き継ぎ、引っ張っていくことを確信している。」と語った。

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Michael Novack © Bill Wadman

テイラー財団の取締役ジョン・トムリンソンは、「テイラー氏がノヴァクを芸術監督に指名したことは非常に喜ばしい。マイケルはテイラー作品とモダンダンス界への貢献にふさわしい、情熱と正確な知識を持っている。彼がこの情熱をてこに、才能とダンスの知識とエネルギーを駆使して、テイラー氏とともに素晴らしい伝統を築くために頑張るのは目に見えている。彼はカンパニーとモダンダンスの芸術性の将来を、確かなものにしてくれるだろう」と語っている。
現在、メリーランド大学のアートマネージメントを教えるデヴォス・インスティテュートのマイケル・カイザー会長は、かつてテイラー・オーガニゼーションの戦略計画事業に携わった人物。テイラーの決定について、「テイラー氏の創立芸術監督としての、この啓発的な決定にはわくわくした。彼自身の後のオーガニゼーションの将来を約束する、具体的な手段になるだろう。」と語っている。

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©LASPATA DECARO

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© LASPATA DECARO

ポール・テイラー・ダンスカンパニーは1954年、ポール・テイラーが創立。以来、テイラーは147作品を振付けた。その多くが現在のモダンダンスのアイコンと見なされている。カンパニーはこれまで64ヶ国、524都市で公演。2018年のリンカーンセンターの公演は、カンパニーの64年目の公演であった。

将来の芸術監督に指名されたノヴァクは、「言うまでもなく、テイラー氏が私を信頼して、遺産をゆだねてくださることは非常に光栄で、身が引き締まる思いです。私はテイラーという名の大砲の、力と幅の広さを深く信じています。私がこの新しい仕事を始めるにあたり、テイラー氏から導きを得るという栄光を受け、テイラー氏を助けて21世紀にカンパニーを引っ張っていくことは、まさに私の夢がかなうことです。」と語った。
ノヴァクは芸術監督指名者としてテイラーと新しい職務に就く傍ら、今後もポール・テイラー・ダンスカンパニーのメンバーとして引き続き踊っていく。

マイケル・ノヴァク(Michael Novak)プロフィール

イリノイ州ローリング・メドウズで育つ。10歳でダンスを学び始めたが、12歳の時に重度の言語障害を発症、集中治療を繰り返し受けなければならなくなった。このことにより、ダンスが自分自身を開放し、表現する強力な手段となる。
2001年、フィラデルフィアのユニバシティ・オフ・ジ・アーツに入学する際に、ジャズダンスとバレエのトレーニングを続けるために学長奨学金が与えられた。翌年、フィラデルフィア。アカデミー・オブ・バレエ・ソサエティの研修生となり、2004年まで在団。
ニューヨーク、コロンビア大学の一般教養学部に入学、奨学金を得る。同大学のコロンビア・バレエ・コラボレーティブのメンバーとなり、専属振付家にキューレーションをアドバイスしたり、カンパニーのブランド向上やプロモーションを監督する芸術委員に任命された。
コロンビアではダンスヒストリー(舞踊史)の勉強に打ち込み、それが後にモダンダンスへの貢献に火をつけることとなる。19世紀のフランスの運動理論家フランソワ・デルサルトの作品に強い興味を持ち、デルサルト・メソッドの繊細さをマスターするために何年ものトレーニングを受けた。
(注:デルサルトは感情とジェスチャーをリンクさせる方法を成文化し、アメリカモダンダンスの第一世代のダンサーたちを啓発した。)
ダンスヒストリーへの情熱はノヴァクをバレエ・リュスのダンサー、ワスラフ・ニジンスキーに傾倒させ、同じくニジンスキーに傾倒したポール・テイラーの作品の探求の始まりとなった。そしてコロンビア時代からテイラー・スクールで学ぶようになる。2008年、ノヴァクはコロンビア大学を優等生として卒業。ビル・T・ジョーンズ(Bill T Jones)やスティーヴン・ペトローニオ(Stephen Petronio)の作品を踊り、ジブニー・ダンス、ダニエル・グィッツマン・ダンスカンパニーなどで踊る。スプリングロール・ダンス・モントリオールでも学んだ。
2010年、ポール・テイラーはノヴァクをポール・テイラー・ダンスカンパニーに招聘、以来、カンパニーメンバーとして踊っている。

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