蜷川幸雄80周年記念作品、村上春樹の『海辺のカフカ』がニューヨークで上演された

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

Ninagawa Company 蜷川カンパニー

"Kafka on the Shore" by Yukio NInagawa 『海辺のカフカ』蜷川幸雄:演出

毎年ニューヨークで夏に開催されるリンカーンセンター・フェスティバルに、今年、日本からは、蜷川幸雄カンパニーが招聘されました。ダンス公演ではないですが、旬の話題なので観劇いたしました。簡単にレポートいたします。

ニューヨークでは、7月23日から26日まで上演されました。世界のニナガワさんの公演で、しかも村上春樹原作の題材作品なので、地元ニューヨークでも早くから注目されていました。2015年蜷川幸雄生誕80周年記念作品です。5月のロンドン公演を皮切りに、7月にニューヨーク、その後埼玉、シンガポール、韓国で公演予定です。蜷川はまだまだ現役で作品を作り続けていて、本当に日本が誇る演出家だと思いました。ニューヨーク公演の客席は満員でした。

村上春樹の「海辺のカフカ」は、ニューヨーク・タイムズ「年間ベストブック10冊」に選ばれた長編小説です。日本語で上演されたので、現地の方のために舞台上方に横長の細長いスクリーンが用意されていて、英語の字幕が流れました。

宮沢りえ(佐伯、少女の2役)も出演していました。宮沢はとても美しくてスラッとしたスタイルを今でも保っていて、演技も上手く輝いていました。歌も歌っていました。さすがです。
他の出演者の方々も、演技がとても上手でした。蜷川の演出が良いせいもあるのでしょう、全体を通じて、演技の動作、台詞、無言の表情の間合いが全てピタッとはまっていて、完璧な間合いで演技がつながって折りたたまれて進んでいったので、感心しました。
村上春樹の小説の世界を、どうやって演出するのだろうか。どのような舞台作品としてまとめるのかと、観る前は想像がつきませんでした。休憩をはさんで2部で構成されていて、3時間の大作でした。でも、あまりにも面白くて、照明や舞台セットも素晴らしく、物語の展開もシーンの移り変わりも美しくて、あっという間に3時間が終わってしまいました。3時間がまるで1時間くらいに感じました。

舞台では最初はバラバラに別の場所で進行していく物語を、同時に少しずつ場面を切り取って演じ、また別の物語の場面に変わって切り取って演じ、というのをつなげて重ねていっていました。
舞台セットは、大きなガラスのような透明の箱(部屋)が舞台上に大中いろいろ同時に並べられていて、黒子たちが大勢、その箱を動かしていて、その箱の中や外で俳優たちが演じていました。それぞれの箱は、別々のシーンの舞台セットとなっていました。舞台いっぱいに、全てのシーンを通してほとんど、林のように緑の葉っぱがたくさんついた木々が置かれていました。
また、日本らしい雨、霧雨など、欧米とは違った天気模様の様子、湿度の高い状態を、舞台セットや照明などで完璧に表現していて見事でした。あの日本独特の湿度の高い天候を舞台で表現するのは、難しそうだと感じました。湿った雨が降っている中でのシーンは、舞台上(天井)全体から細かいスモークのような、霧雨のようなものを降らし続けていて、全体が薄い霧で覆われているような湿気が表現されていて、その中で俳優たちが演じていると、顔や体がぼやっとしたりんかくで見えて、ニューヨークにいながらにしてリアルに日本の湿度を感じました。それがまた、村上の物語の幻想的な雰囲気にピッタリで、まるで幻か幽霊かのようにも見えました。

カフカ役の古畑新之は、家出する15歳の少年を演じていましたが、衣装として密かに"ニューヨーク・ヤンキース"(NYのマーク)のキャップをかぶっていたので、これはきっとニューヨークの観客へのサービスだなと気がつき、微笑ましかったです。このヤンキースのキャップをかぶっている、地元ニューヨーカーの男性たちをとても多く見かけます。
猫が2匹でてきますが、これは俳優たちが着ぐるみを着て演じていました。リアルな猫の動き、状態をよく表現していました。猫の生態を良く観察していて、練り上げた猫の動きをしていました。この部分はダンスの振付といっても良いと思いました。
幕が閉じ、観客は総立ちになり、大拍手に包まれました。大成功した公演でした。
9月にはさいたま芸術劇場でも上演されます。
(2015年7月26日午後 NY・David H.Koch Theater)

Photo Credit: Takahiro Watanabe

Photo Credit: Takahiro Watanabe

演 出:蜷川幸雄
原 作:村上春樹
脚 本:フランク・ギャラティ
出 演:宮沢りえ 藤木直人 古畑新之 鈴木杏 柿澤勇人 木場勝己 他
7/23~26 NY・David H.Kochシアター

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