マリアネラ・ヌニェズがゲスト出演して見事なポワントワークを見せたABT『シンデレラ』

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実
text by MAMI HARIYAMA

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

"Cinderella" by Fredrick Ashton
『シンデレラ』 フレデリック・アシュトン:振付

7月4日、アメリカは独立記念日で家族や友人たちが集い盛大にお祝いをする日。そのためブロードウェイのミュージカルなどもクローズしますが、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)は春のメットシーズンの最終日でした。
これまでに様々なヴァージョンの『シンデレラ』を上演してきたABTですが、昨年よりフレデリック・アシュトン版をレパートリーとして上演しています。

幕開けはシンデレラの家の中。
義理の姉たち二人が裁縫をしていて布の取り合いとなり、やられたらやり返すを繰り返しているうちに喧嘩になります。アシュトン版では継母は登場せず、父親と二人の姉たちは男性によって演じられます。
この姉二人のコミカルな演技が常に大袈裟で面白ろ可笑しく、まるで叫び声や笑い声が聞こえてくるようで会場も大笑いでした。あまり意地悪な姉という印象ではありませんでした。
シンデレラ役は英国ロイヤル・バレエよりゲストとして客演したマリアネラ・ヌニェズです。
シンデレラが母親の写真を見ながら踊るシーンは、母を想う寂し気な心が踊りに現れていました。そしてステップは正確で、動きはしなやかで滑らか、テクニックは安定していて素晴らしいものでした。ポアントに立つ前に出す足も一つ一つが丁寧でとてもアンデオールされていて、ポアントから降りる時も足先から踵までがロールダウンされ素晴らしいコントロール。その動きは回転の時でさえも貫かれておりポワントへ立つ時から降り方まで、相当のコアマッスルの強さがあるからこそ、ここまで軸が強くしなやかさと安定感を見せられるのだと思います。

『シンデレラ』マリアネラ・ヌニェズ、ジェームス・ホワイトサイド Photo: MIRA.

ヌニェズ、ホワイトサイド Photo: MIRA.

特に踊りに何度も出てきたアティテュード・デリエールのターンの伸び、そしてポアントからゆっくりと降りてくる時の余韻が、とても美しくて瞼にに焼き着きました。
仙女はバレエ団プリンシパル・ダンサーのベロニカ・パート。ワガノワ・バレエ出身のダンサーらしく上半身の使い方が大きかったです。長身で立ち姿は美しいのですが、以前の舞台よりも少々硬さと躊躇が見られました。
四季の精で印象に残ったのが春の精を踊ったソリストのサラ・レーン。動きが速い上にたくさんのジャンプやポアントで突き刺す動きが多い難しいヴァリエーションを、見事な強さで俊敏に踊って見せていました。

『シンデレラ』マリアネラ・ヌニェズ、ジェームス・ホワイトサイド Photo: MIRA.

『シンデレラ』Photo: MIRA.

王子はプリンシパル・ダンサーのジェームス・ホワイトサイド。細身のスラリとしたダンサーで音楽性がよく、切れ味の良い踊りでした。そしてスピードのある回転と柔軟性のあるジャンプも披露してくれました。
第2幕の王子とシンデレラのパ・ド・ドゥは、やはりマリアネラに魅せられました。立っている時も、そしてリフトされている時も両足が本当に良くターンアウトされ、爪先まで美しく伸び、上半身、アームスはやわらかく優雅で、そしてやはりコントロールが最後までとても素晴らしかったです。もっと長くこの二人の踊りを見ていたと思いました。
コール・ド・バレエには日本人バレリーナの相原舞と小川華歩も出演していました。昨年は怪我で出演できなかった小川華歩の姿が見られたのは嬉しかったです。
今シーズンのABTでは、ポリーナ・セミオノワやナタリヤ・オシポワが怪我で降板したり、ディアナ・ヴィシニョーワも病気を理由に降板してしまった日があったために、多くのバレエ・ファンが残念がっていました。それだけに、最後のパフォーマンスにはとても満足したという声が聞かれま、少しホッとしました。
(2015年7月4日 メトロポリタン歌劇場)

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