コリー・スターンのロミオとヒー・セオのジュリエットが素晴らしかったABTの75周年記念公演

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

"Romeo and Juliet" by Kenneth MacMillan
『ロミオとジュエリエット』ケネス・マクミラン:振付

5月29日から7月4日まで、ABTが75周年記念のニューヨーク公演を開催しています。そして6月20日は、伝説的プリンシパルダンサーのジュリー・ケントがお別れ公演の『ロミオとジュリエット』を踊って、ABTを退団しました。ケントはABTで30年近くダンサーとして活躍を続けてきました。ABTでもっとも長く踊りつづけたダンサーとして知られています。
私は6月15日の『ロミオとジュリエット』を見ました。2回の休憩をはさんだ3幕構成で、音楽はセルゲイ・プロコフィエフ、振付はサー・ケネス・マクミランです。
舞台は14世紀イタリアの都市ヴェローナ。ロミオ役はコリー・スターン、ジュリエット役はヒー・セオ、ロミオの友人マキューシオ役はダニール・シムキンでした。

前奏曲が流れて幕が上がると街のマーケットの朝。広場にいろいろな人々が現れ、仲の良い友人3人組のスターン(ロミオ)、シムキン(マキューシオ)、ブライン・ホヴェン(ヴェンヴォーリオ)も登場します。シムキンはチリチリのアフロヘアーのような女性と楽しそうに踊りました。
やがて、男性たちが敵味方の勢力に分かれて剣を持ち戦い始め、結果、たくさんの死体が舞台中央にまとめて重ねて積み上げられました。その死体の山の前で、太守エスカラスが彼らを仲裁し、やっと騒動が収まりました。
ヒー・セオのジュリエットは乳母に抱きついたり、人形遊びをしていて、まだまだほんの少女であることを表わしています。太守エスカラスの親戚である求婚者のパリスが彼女の両親とともに現れました。しかし、ジュリエットは恥ずかしがり、乳母に抱きつくなど戯れて満足な応対ができず、パリスは帰っていきました。

『ロミオとジュエリエット』ヒー・セオ、コニー・スターン Photo by John Grigaitis.

ヒー・セオ、コニー・スターン
Photo by John Grigaitis.

ジュリエットの実家、キャピュレット家で開かれる舞踏会に、仲良しの3人組が、招待客の中に紛れ込んで忍び込むお馴染みのシーンでは、この3人の踊りは、コミカルで軽妙です。プリンシパルのスターンとシムキンが同時に踊るシーンで盛り上がりました。
舞踏会でジュリエットは、ロミオと目が合ってお互いにときめき、一瞬のうちに二人は恋に陥ちました。マンドリンをジュリエットが弾いて、彼女の女友だち6名が踊り、その後、ロミオはその音色に乗ってソロを踊り、恋のときめきを表わしました。ジュリエットも続いてソロで踊り、初めての恋の嬉しさを初々しく表現しました。
マキューシオのソロの踊りは、周り人たちを茶化してからかっているような軽快な踊りです。シムキンは小柄で身体能力が飛びぬけているので、すばしっこい軽妙な様子、わざと大げさな大技を入れて踊り、マキューシオ役がピッタリはまっていました。
ロミオとジュリエットのパ・ド・ドゥがあり、2人はとても幸せそうに、楽しさ、喜びを表現しました。ヒー・セオは、恋する気持ちと切なさなど、感情表現がなかなか上手く、スターンはハンサムで長身なので、動きの大きな表現になり、感情表現も豊かでした。
ジュリエットの従兄のティボルト(ローマン・ズルビン)がロミオを見つけ、敵対しているモンタギュー家の子息だと見破られました。

バルコニーのシーンではスターンとヒー・セオは、すごく感情豊かに表現力があって、切ない感じがよく出ていました。月光に照らされたバルコニーと二人のダンサーが浮かび上がり、ロマンティックな雰囲気に溢れていました。二人は幸せそうに踊り、感情の高ぶりを劇的に表現していました。シーンの終盤に、ヒー・セオは名残惜しそうにバルコニーを上っていきました。下に残ったロミオとバルコニーの上のジュリエットは、両側からお互いに手を伸ばしたまま、音楽のクライマックスとともに情感が盛り上がり幕が下りて、とても感動的な幕切れでした。

第二幕は街のマーケットの広場のシーンで、3人組のロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの踊りがありました。シムキンのマキューシオは他のダンサーができないような超絶技巧を披露して、大喝采を受けていました。ロミオとジュリエットを修道士ローレンスが祝福し、二人は抱き合い、キスして密かに結婚しました。
そして、街のマーケットの広場でマキューシオが決闘によってティボルトに刺され、亡くなるシーンです。
二人は派手に剣で戦いを続け、決闘の最中にマキューシオがロミオと少し言葉を交わした隙に、ティボルトが後ろからマキューシオを刺しました。シムキン(マキューシオ)はよろめきながら踊り、立ち上がり、おどけてみたりしましたが、やが、力尽きて倒れて絶命しました。
親友のマキューシオを殺されたロミオは怒り逆上して、ティボルトを刺し殺してしまいます。このシーンは、緊迫した重い事態を、ダーンというティンバルの重たい音をゆっくり等間隔で鳴らし続けて表わし、劇的な効果が現れていました。ティボルトの母親の亡骸を抱きしめて嘆く悲しみも衝撃的でした。

『ロミオとジュエリエット』ヒー・セオ、コニー・スターン Photo by John Grigaitis.

『ロミオとジュエリエット』ヒー・セオ、コニー・スターン
Photo by John Grigaitis.

第三幕は寝室でヴェローナを追放されたロミオとジュリエットの別れのシーンから始まり、二人は情熱的なパ・ド・ドゥを踊りました。急速に成長して大人の女性になったジュリエットを、ヒー・セオはよく表現していました。抱き合って名残を惜しんで、別れて、ロミオは窓から去って行きます。
その後、喪に服しているジュリエットの両親がパリスを連れて寝室に来ましたが、ジュリエットは上の空で、激しく拒絶し続けました。パリスとのパ・ド・ドゥは、とても嫌そうな感じで、ジュリエットの気持ちが雰囲気がよく伝わってきます。父親は怒り、みんな去っていき、ジュリエットは一人残され、絶望的になりました。
気を取り直したジュリエットは、教会のローレンス修道士に会い、一瓶の薬をもらいました。そして薬を寝室で飲んだジュリエットは、仮死状態に陥りました。
ジュリエットはパリスとの結婚を強要されて絶望し、自殺したと思われて、墓地の遺体安置所に置かれました。追放されていたロミオもジュリエットのもとにやってきて、仮死状態のジュリエットとパ・ド・ドゥで踊りますが。引きずっていたり、ぶらぶらになっているだけでジュリエットとの踊りは、最も優れたダンスの悲劇的な表現のひとつではないでしょうか。
ジュリエットは死んだと信じているロミオは絶望して、用意してきた毒薬を飲んで自殺してしまいました。すると仮死状態からジュリエットが目を覚ましました。ジュリエットは、ロミオが死んでいるのを見つけ、悲観して自分も短剣で胸を刺してしまいました。短剣を刺してからヨロヨロと台の上によじ登り、その上からロミオのほうへ手を伸ばして、台の上からあおむけの状態で背を反らし腰から垂れ下がり、ロメオの手に少しだけ触れるようにして息絶えました。
幕が下りて、メトロポリタン歌劇場は大きな喝采にに包まれました。劇的な音楽と素晴らしいダンスと照明の相乗効果で、とても感動しました。
(2015年6月15日夜 メトロポリタン歌劇場)

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