専属のクラシック音楽グループと踊ったマーク・モリス独特のコンテンポラリー・ダンス

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

Mark Morris Dance Group マーク・モリス・ダンス・グループ

プログラムA・B by Mark Morris

4月22日から26日まで、BAMにて、マーク・モリス・ダンス・グループの公演がありました。このグループは1980年創立のニューヨークのブルックリンを拠点とするダンスカンパニーで、ビルをまるごと1棟持っています。ビルの外壁には一面にきれいでカラフルな現代アートの壁画が描かれていて、その地域では一際目立っています。とても人気があり、ニューヨーク公演はいつも早々にチケットがソールドアウトしてしまうため、早めにチケットを手配しなければ観ることができません。世界中に招聘され、公演しています。

芸術監督と振付はマーク・モリス。地元のニューヨークのダンサーたちの間でも、マーク・モリスは「天才」と称されています。シアトル出身で、他で観たことがないような、どれにも似ていない、独自の振付で独特の世界を作り上げています。オリジナリティーがある振付作品ばかりですが、それでも基礎がよく出来ていてバレエ・ベースで作品を作ります。
そして、1996年からMMDGミュージック・アンサンブルという、このカンパニー専属のクラシック音楽家グループを抱えています。チェロ、ヴァイオリン、ピアノ、クラリネットの4人組。公演はいつも彼らの生演奏なので、音楽性も素晴らしいです。コンテンポラリー・ダンス・カンパニーで、専属の音楽家たちを抱えて公演の生演奏の質にこだわっているところは、他にはなかなか無いです。

"Pacific" Photo/Hiiary Schwab

"Pacific" Photo/Hiiary Schwab

マーク・モリスは若い時から頭角を現し、芸術監督、振付家として自分の作品作りだけにとどまらず、ビルを所有し、大所帯のダンサーたちと専属音楽家達を抱えて養っているとは、経営にも長けているすごいアーティストだと感心します。あらゆることの全体をよく見てトータルで考え、ものごとを運ぶことができる人なのでしょう。

22日と24日は「プログラムA」、23日、25日と26日は「プログラムB」が上演されました。
「プログラムA」では、4つの作品が上演されました。私は4月24日に観劇しました。
"Pacific"(パシフィック)は、今回がMMDGの演奏による初演です。音楽は、Lou Harrison(ルー・ハリソン)作曲で、9名のダンサーが踊りました。
クラシック・バレエが全体の振付のベースですが、一つ一つの動作のつなげ方と組み合わせ方が独創的です。バレエの基本のポーズがだいたいすべてに使われているのですが、そのポーズの連続性が通常のバレエでは見たことが無い組み合わせ方をしているため、そういう動作がずっと続くと、他で観たことがないような強烈な独創性が現れているのです。感情表現が、自然な動き、自由な動きによってより強く表現されていると思います。全体の印象は、自由で大胆な踊りでした。これは、マーク・モリスの作品の特色でもあります。

"Pacific" Photo/Hiiary Schwab

"Pacific" Photo/Hiiary Schwab

"Pacific" Photo/Hiiary Schwab

"Pacific" Photo/Hiiary Schwab

"Words"(ワーズ)は、2014年初演の作品で、音楽はメンデルスゾーンです。出演ダンサーは15名でした。
2名が畳よりも大きな布を客席の方へ広げて持って立っていて、その布の後ろに男女ペアのダンサーが立っていて、布を移動させて取り外すと男女ペアが客席から見えるように現れて踊りました。その一連の動作が面白い印象を与えるので、客席ではクスクスと笑い声が湧き起こっていました。この作品では、このように大きな布を2名が広げて持ち、そのまま移動したり去って行ったり、また出てきて通り過ぎたりして使うシーンが多かったです。大きな布を2名が広げて歩いてきて、ダンサーがその布に隠れて舞台から去ったり、また布に隠れて出てきたり、何度も繰り返していました。大勢が、ものすごい速さでスキップし続けるところもありました。春のように、明るく楽しそうな作品でした。
"Whelm"(ウェルム)は、今回が世界初演の作品です。音楽はドビュッシーで、出演ダンサーは4名。
幕が開いたら、男性が後ろを向いて立っていました。そして少しずつ動き、進んでいきました。その下に寝転んでいた男性が立ち上がり、動き始めました。そこに女性1人がさらに加わり、男性2人は女性1人をゆっくりリフトして動いていきました。照明はほとんどなく、暗闇に薄いスポットライトが当てられているだけで、不思議な雰囲気がありました。これは衣装が面白かったです。全員黒っぽい服で、頭に密着したかぶりものをして、全身タイツのようなものでした。

"Words" © Ani Collier.

"Words" © Ani Collier.

音楽はゆっくりで静かなピアノ曲で、リズムは一定ではなく、早くなったり遅くなったりランダムでした。
途中、3人が同じ方向を向いて重なって後ろの人のヒザの上に座り、3人つながった空気イスのようなことをしていました。全体を通して、物語風でなにかストーリーが続いていて、ダンスだけではなくパントマイムの要素も強い作品でした。

"Words" © Ani Collier.

"Words" © Ani Collier.

"Words" © Ani Collier.

"Words" © Ani Collier.

"Whelm" © Stephanie Berger.

"Whelm" © Stephanie Berger.

"Whelm" © Stephanie Berger.

"Whelm" © Stephanie Berger.

"Whelm" © Stephanie Berger.

"Grand Duo"(グランド・デュオ)は、1993年初演の作品です。音楽はルー・ハリソン作曲、出演ダンサーは14名です。
暗闇で薄明りのスポットライトの中、2〜3列で横に並んで立っていました。音楽のリズムはバラバラで一定ではなく、全員がそれぞれバラバラの速さで動いていました。パントマイムのような動きが多かったです。
途中、照明が強めに当たり明るくなり、全員が両手の人差し指を上にピンと張って伸ばして踊りました。みんな去って、女性1人が暗闇の中でひざまづいて、片手だけを挙げて、頭を床につけていました。また大勢出てきて、全員がそろって足を時々ふみ鳴らし続けていました。自由な振付で、楽しそうでした。すごい拍手でした。

"Grand Duo" © Erin Baiano.

"Grand Duo" © Erin Baiano.

"Grand Duo" © Erin Baiano.

"Grand Duo" © Erin Baiano.

"Grand Duo" © Erin Baiano.

"Grand Duo" © Erin Baiano.

「プログラムB」は、3つの作品が上演されました。
"Crosswalk"(クロスウォーク)は2013年初演の作品です。音楽は、カール・マリア・ヴォン・ウェーバー作曲。出演ダンサーは11名です。
音楽はゆったりした曲で、軽やかで明るく、楽しい雰囲気の踊りで、モリスらしい作品でした。3名ずつなどの小さなグループでの踊りが次々に重なって、つながっていきました。
"Jenn and Spencer"(ジェン・アンド・スペンサー)は2013年初演の作品です。音楽はヘンリー・コーウェル作曲です。男女のパ・ド・ドゥでした。

"Crosswalk" Photo: Elaine Mayson London

"Crosswalk" Photo: Elaine Mayson London

女性はロング丈のイヴニングドレスを着ていました。中央で2人は向かい合ってそのままぐるぐると周り、円を描いて回り続けて、だんだん速度が速くなり、それでも見つめあったまま周っていました。向いあって周る時に、最初は2人とも身体は進行方向の前を向けたままで動いていました。でも、しばらくして2人の身体はお互いに後ろ向きに変わり、顔だけが進行方向の前を向いたままで、すごい勢いでぐるぐる周り続けていました。見ているだけでも、今にもひっくり返りそうな不安定な動きでハラハラし、見たことがないような面白い振付でした。この動きを、何度か繰り返していました。
音楽は全体的に、ゆったりして静かな曲でした。個性的な踊りで、モリスらしい独創性、オリジナリティーがあふれる作品でした。
"Spring Spring Spring"(スプリング・スプリング・スプリング)は2013年の作品ですが、今回がニューヨーク初演です。。音楽はストラヴィンスキー作曲です。この生演奏はThe Bad Plusというトリオ(ピアノー、ベース、パーカッション)です。最初は、この音楽がフィーチャーされている様子で、幕が上がってからかなり長い間、音楽の演奏だけが鳴り続けていました。
やがてダンサーたちが出てきました。ダンサーは15名です。最初は暗闇の中、幻想的な雰囲気で、大勢のダンサーたちが踊り始めました。だんだん照明が明るくなってきて、数名ずつのグループごとに踊りました。上半身裸の男性達4人が出てきて、輪になって飛び跳ねて周って踊りました。音楽にピタッと合った動きをしていました。
男性3人、女性3人のペア3組で同時に踊ったところもありました。音楽は、リズムが速くなったり遅くなったり、ランダムで、詩的でした。ダンサー達は飛び上がってグルグル回り、水に溺れているかのような動きをしていました。男女2名が踊り、男性の上に、上を向いて四つん這いの格好になっている女性が背中向きに乗って、去っていきました。
途中、男女数名で横に並び、1歩ずつ前進しながら片手で宙をつかみ続けるところも迫力があり、印象に残っています。全員、片足のヒザをまげて、片足を伸ばして、前屈になり、両手を床に着けて1歩前へ全員で動き、また1歩動き、3歩目を動き、4歩目くらいで終わりました。幕が閉じました。不思議な感じ雰囲気でした。
(2015年4月23日、24日夜BAM Howard Gilman Opera House)

"Crosswalk" Photo: Elaine Mayson London

"Crosswalk" Photo: Elaine Mayson London

"Spring Spring Spring" Photo: Ken Friedman

"Spring Spring Spring" Photo: Ken Friedman

"Spring Spring Spring" Photo: Ken Friedman

"Spring Spring Spring" Photo: Ken Friedman

"Spring Spring Spring" Photo: Ken Friedman

"Spring Spring Spring" Photo: Ken Friedman

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