フラメンコの伝統を創った巨匠たちに捧げられたサラ・バラスの素晴らしい踊り

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

BALLET FLAMENCO SARA BARAS バレエ・フラメンコ・サラ・バラス

"VOCES, SUITE FLAMENCA" "ボセス、スイート・フラメンカ"

今年のフラメンコ・フェスティバルのニューヨーク公演は、サラ・バラスの単独公演で3月4日から7日まで上演されました。"ボセス、スイート・フラメンカ"で、初演は2014年12月、すべてサラ・バラスとホセ・セラーノ振付の作品です。私は、3月4日夜の公演を観劇しました。
フラメンコ・フェスティバルは今年16年目で、ニューヨークで最も重要なダンスフェスティバルのうちの一つとされています。スペイン政府、アンダルシア政府などがスポンサーで、スペイン本土から本格的な一流フラメンコ・アーティストたちがやってきます。本物のフラメンコをニューヨークで観劇できる良い機会です。

サラ・バラスは現代のフラメンコを代表する大御所バイラオーラです。受賞歴はおびただしく多数で、もちろんPremio Nacional de Danza 2003(スペイン舞踏家賞)も受賞しています。名実共にスペインの顔で、世界に知られるバイラオーラです。私がスペインに住んでいた頃の1998年には、TVE2(国営放送)のフラメンコ番組「アルゴ・マス・ケ・フラメンコ」"Algo más que flamenco"の司会をサラ・バラスが担当していて、毎週見ていました。バラスは切れ長の目でスペインでは特に美人とされていて、当時からとても美しいバイラオーラで性格も明るくて可愛らしい方です。今では多数の企業やブランドのイメージとしてCMの女王となっています。カルティエ、エル・コルテ・イングレス(デパート)、MANGO(ファッションブランド)、イメージ・オブ・アンダルシーア、マドリッド2016などです。

photo/Santana de Yepes

photo/Santana de Yepes

バラスはフラメンコ界に新しい風を吹き込んだパイオニアとされています。伝統的なフラメンコの衣装とメイクではなく、独自のセンスで自身に似合う、着心地と踊り心地の良いシンプルなデザイン、男性的なパンツスーツなど、現代に合わせた斬新なデザインの衣装を着てきました。バラスがまとう衣装は、シンプルでセンスの良い現代的なものが中心です。しかも、シンプルなデザイン中心なので、例えばフラメンコ独特のフリルも少なくて、身体の線や動きが観客にとても観えやすいです。踊る時もよく、客席に対して真横を向けて、足の付け根のあたりまでドレスのスソを手でまくり上げて、足の動きが観えやすいように動いていました。

photo/Jullete Valtinedas

photo/Jullete Valtinedas

この作品の舞台セットはシアター風で、いろいろなものが舞台上に置かれていました。舞台後方に、フラメンコ界の巨匠たちの影絵のような白黒の大きな絵が数枚ありました。バラスが影響を受けたアーティストの絵で、パコ・デ・ルシア、アントニオ・ガデス、カマロン・デ・ラ・イスラ、エンリケ・モレンテ、モライート、カルメン・アマヤに捧ぐというのが本作品のテーマです。作品全体を通して、一つのテーマで、洗練されたフラメンコを使ったダンス作品という感じで、演劇風でもありました。土着的なフラメンコではありませんでした。
ライトはブラックライトのようなものも使われていました。

その前にはイスが無造作にいくつか置かれていました。そこに、黒の上下のパンツと白ジャケットを着たバラスが、ゆっくり歩いて動き出して音楽が始まりました。全体のバランスがピッタリ合っていました。音楽は録音のものでした。この最初は『ラ・リャマ』(La Llama)で、音楽はパコ・デ・ルシアのカンシオン・デ・アモール(Cancion de Amor)です。パコ・デ・ルシアの絵にライトが当てられ、生前の彼自身の語りの録音がナレーションのように流れました。バラスは後方へ歩いていきま、人々がイスなどを持ってきて配置し、大勢のミュージシャンたちが出てきました。2曲目の音楽は『ブレリア・デ・チャボ』(Buleria de Chabo)、J.ヒメネス・チャボリ(J.Jimenes Chaboli)によるものです。サラ・バラスとカンパニー全員で踊りました。そこにバイラオールたちが5名出てきて、そこにさらに2名加わり、男性4名、女性3名の合計7名で踊り始めました。全員、黒いパンツスーツとシャツです。

3曲目は『セギリーリャ』(Seguirilla)で、生演奏のギタリストと作曲はケコ・バルドメロ(Keko Baldomero)です。この日の公演の音楽のほぼ全曲は、ケコ・バルドメロ作曲と演奏のものです。振付はサラ・バラスとホセ・セラーノで、2人が踊りました。キレのある踊りで、とても迫力があります。黒っぽい生地に白い水玉模様のシンプルなドレスを着たバラスは、スタイルが良くて足の形がきれいで絵になっています。2人で踊った後、セラーノのソロ、バラスのソロが続きました。バラスは、静止して手だけ動かして表現し、それから激しい動きで速いリズムで踊り、重心がしっかりしてビクともせず、すばらしかったです。激しい動きを軽々とやってのけます。
カマロンの絵にスポットライトが当てられて、録音の語りがナレーションのように流れました。生演奏で、男性が歌いました。4曲目の『タランタ』(Taranta)です。サラ・バラスがソロで踊りました。白っぽい、現代的でシンプルなドレスを着ていました。ロングのベビードール型で、ギャザーが多くたっぷりと布地が使われていて、バラスはそのスソの余った布地を肩にかけたり、身体に巻きつけたりしてタイトなシルエットに変えたり、マントンのように布をつかんで動かしたりしながら踊りました。舞台上で衣装も大事な絵になっていて、斬新なデザインでした。

photo/Jullete Valtinedas

photo/Jullete Valtinedas

photo/Jullete Valtinedas

photo/Jullete Valtinedas

photo/Jullete Valtinedas

photo/Jullete Valtinedas

5曲目は『ラス・カルメネス』(Las Carmenes)です。カンパニー全員で踊りました。バラスが中央で、周りに男性3名女性3名の合計7名で踊りました。バラスのサパテアードが大きく、正確に響いていました。
1人ずつ順番に踊り、即興のようなダンスバトルが続きました。これもフラメンコ独特で、迫力がありました。その後、同じ振付で踊りました。
全員舞台を去った後、男性1人が上半身裸で汗だくで闘牛に使う布を持って出てきて、それを広げて動かして、トレロの真似をしていました。その間、男性の語りの録音がナレーションのように流れていました。男性が去って、赤いドレスを着た女性達が順番に3名出てきて、黒い衣装の男性2人も出てきて踊りました。途中、男女ペアで踊り、入れ替わっていきました。女性がアバニコを使って踊るところもありました。次に男性がマントンを使って踊りました。
6曲目は『ロマンセ・デル・ネグロ・デル・プエルト』(Romance del Negro del Puerto)で、歌(カンテ)はルビオ・デ・プルーナ(Rubio de Pruna)です。ソロで男性が歌い、声が太く大きくて、すごい迫力でした。
ダンサーたちが去り、場面が変わりました。
舞台上に大きな鏡が6枚、縦長の長方形のものが出てきて少し丸く配置され、真ん中に、黒のパンツとシャツを着たバラスが1人立ちました。カッコいいです。7番目の曲は『ファルーカ』(Farruca)です。バラスのソロです。バラスは客席のほうを向いて踊り、鏡にはその後姿が映っていました。ギターの生演奏に合わせて、最初はじっと立ったままでタメてゆっくりと動き、踊り始めました。だんだんリズムと音楽が早く激しくなり、すごい激しい迫力で踊りました。曲が終わる頃には舞台上に大きな黒いスクリーンのような壁のようなものが出てきて鏡が全てふさがれました。
バラスは1人で踊り続け、タンバリンを手に持った男性が出てきて鳴らしていました。ブラジリアンのタンバリンの打ち方のような感じで、フラメンコのリズムを打ち続けていました・そのタンバリンの音に合わせてバラスがだんだん激しい早打ちで足を踏み鳴らして踊りました。エスコビージャも上手です。同時に、手の振付もついていました。
タンバリンの音がない静寂の中でその踊りは続き、バラスのサパテアードだけが響いていました。緊張感がみなぎるシーンでした。細かい足の動きのコントロールが効いていました。バラスの踊りは、基本がしっかりしていて、全体にソツの無いスラッとした雰囲気で安定しています。 再び、ギターとタンバリンの演奏が加わり、さらにバラスは激しい早打ちのエスコビージャを続けて最高潮に盛り上がりました。舞台の見せ所のシーンの一つでした。客席はすごい拍手と歓声に包まれました。
次は『ティエントス』(Tientos)です。カンパニー全員で踊りました。後ろの場面がまた変わりました。白っぽいスーツの男性3人、淡い色のドレスの女性3人で踊りました。やがて1人ずつソロで、男性からダンス・バトルを順番に繰り返しました。次に女性も1人ずつ激しいダンス・バトルをして、入れ替わっていきました。これは昔からの土着的なフラメンコらしい即興のような感じで、このシーンがあるほうがよかったです。
また場面が変わり、最初のように、数枚のフラメンコの巨匠たちの白黒の顔の絵が置かれました。『ソレア』(Solea)です。しばらく、演奏だけで、ギターとカホンの演奏が鳴り響きました。男性1人が出てきて、歩いたり、じっとしていました。振付はホセ・セラーノです。ホセ・セラーノが一人で踊りました。しばらくゆっくりとタメて踊りました。少しずつ動いていました。だんだん早く激しくなっていきました。すごい迫力と大きな音のエスコビージャが続きました。かなり長い時間、踊りが続き、拍手も歓声も大きかったです。ここも盛り上がったシーンです。男性らしい迫力と力強さの踊りを舞台に添えていて、スパイスになっていました。

photo/PETER MULLER

photo/PETER MULLER

photo/PETER MULLER

photo/PETER MULLER

さらに、男性の語りの録音がナレーションのように流れて、全員が登場して『ソレア・ポル・ブレリア』(Sorea Por Burelia)です。サラ・バラスが真ん中で1人で踊りました。後ろのミュージシャンたち7名が周りからバラスを丸く囲み、さらに、早いリズムで大迫力で激しい踊りをしました。男性のカンテと合わせて、バトルのように踊りました。時々ゆっくりのリズムになって、また激しく早いリズムになっていました。メリハリをつけていました。すごく安定感のある踊りです。グルグル回っているところもありました。かなり長い間、踊り続けました。ここも最後の見所で、盛り上がりました。バラスはこの作品で最初から出ずっぱりで踊り続け、体力が続いてすごいです。まだしばらく現役で、第一線で踊ることが出来そうな感じです。
プログラムの最後の曲は『ブレリア』(Burelia)です。サラ・バラス、ホセ・セラーノ、カンパニー全員で踊りました。フィナーレは男女みんな、マントンを持って踊りました。セラーノのソロもありました。最後の盛り上がりで、まだまだ激しく速く踊り、迫力と強さを見せつけました。またバラスのソロがあり、カンテと掛け合いで楽しそうに大迫力で踊りました。最後までどんどん盛り上げます。
みんなで手をつないでお辞儀をしているところで、幕が閉じました。最高に盛り上がった舞台でした! 観て良かったです。
また幕が開いて、アンコールに答えて、全員でダンスバトルと、演奏もありました。舞台上に客席からバラスの友人のクラリネット奏者を呼び出して引っ張り上げて、その場で紹介し、ご本人は楽器ケースから直にクラリネットを取り出していきなり演奏し始め、即興演奏に合わせてバラスが踊って楽しそうに笑い、サプライズで大サービスでした。バラスはとてもチャーミングな方で笑顔も素晴らしく、魅力的でした。
(2015年3月4日夜 New York City Center)

photo/PETER MULLER

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