アルヴィン・エイリーのカンパニーがアフロアフリカンのリズムに乗って踊った新作3演目

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

Alvin Ailey American Dance Theater アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター

" Uprising " by Hofesh Shechter, " Suspended Women " by Jacqulyn Buglisi," Odetta "by Matthew Rushing
『アップ・ライジング』ホフェッシュ・シェクター:振付、『サスペンデッド・ウィメン』ジャクリン・ブグリシ:振付、『オデッタ』マシュー・ラシング:振付

12月3日から2015年1月4日までニューヨーク・シティ・センターで、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターの冬のシーズン公演がありました。毎年恒例の冬の公演です。
私はすべて初演作品の演目の日を選び、12月28日夜の公演を見ました。3つの小品集が2回の休憩をはさんで上演されました。
アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターはアルヴィン・エイリー(1989年永眠)により、1958年に創立されました。ニューヨークが拠点です。
カンパニーのダンサーは、主に黒人とヒスパニック系が多く、アジア系もいます。黒人らしい躍動感に満ちたモダンダンスが特色の、アメリカを代表するカンパニーの一つです。
芸術監督は2011年7月からロバート・バトル、副芸術監督は1991年から日本人の茶屋正純です。

一つめの演目は『アップ・ライジング』で、今回がアルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターでの初演です。(この作品は2006年初演)振付はホフェッシュ・シェクター、音楽はホフェッシュ・シェクターとVex'dです。全体に、薄暗い照明が多かったです。
出演ダンサーは7名の男性で、衣装は普段着のような感じでした。最初は、暗闇の中に舞台後方に強いライトが置かれてついていて、ダンサーたちが1列に並んでいました。急にライトが消えて、再びついたときには、ダンサーたちは前に出てきていて1列に並んでいました。そしてパッセをしたままずっと長く止まって、じっとしていましたが、やがて後ろへ去りました。

『アップ・ライジング』Photo/Paul Kolnik

『アップ・ライジング』Photo/Paul Kolnik

しばらくして急に音楽が鳴り始めました。激しくて、テンポが速く、リズムが強くて、黒人音楽のような雰囲気のものでした。ダンサーは激しく踊りました。床に転がったり、飛び跳ねたり、とても躍動感のある動きが多かったです。踊りには、リズム感があふれていました。
途中ダンサーは、痙攣したり、転がりながら床を進んだりしていました。この振付のシーンは、日本の舞踏の影響を受けているのかもしれないと感じました。
音楽はアフロのリズムのところもあり、アフリカンダンスのようなものもありました。雨の音で始まり、やがて大雨の音が続き、みんなブラブラと辺りを歩き回って、突っ立っていました。
次にダンサー達の動きが止まると、みんな輪になって立ちました。そして誰かが隣のダンサーの身体をたたいたりなぐったりし始めて、その動きがだんだん他のダンサーに移っていき、伝染していきました。そしてエスカレートしていき、全員で取っ組み合いになりました。全員があばれて取っ組み合いになるにつれて、やがて踊り始めました。エレクトリック音楽ですが、リズムは黒人的なリズム感のもので、激しい曲が流れていました。結構、長い間、この音楽で踊りのシーンが続きました。
最後は、全員が上方の空中を指差して、終わりました。

二つめの演目は『サスペンデッド・ウィメン』で振付はジャクリン・ブグリシです。今回がアルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターでの初演です。(この作品は2000年初演)音楽は、DBR(Daniel Bernard Roumain)です。
ブグリシは、マーサ・グラハムでダンサーとして活躍していました。その後、自身が芸術監督としてブグリシ・ダンス・シアターを率いています。
この作品は、ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス(Sor Juana Ines de la Cruz)の人生と著作からのインスピレーションを得て作ったそうです。
ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス(1651-1695)は、17世紀末のメキシコの詩人です。当時の女性は特に抑圧されていた中で、結婚せずに勉強や執筆に時間を費やしたいために修道女となり、43歳で亡くなるまでの間ずっと修道院にこもって創作活動を行った、女性解放の先駆者のような作家です。多くの文学作品を残しました。

『サスペンデット・ウイメン』photo/Paul Kolnik

『サスペンデット・ウイメン』photo/Paul Kolnik

ブグリシは、「サスペンデッドな(ぶら下げられた)時代の初期の頃からのすべての女性へ、母のエラニーへ、そしてメンターのデニス・ジェファーソンへこの作品を捧ぐ」と語っています。
最初、女性ばかり13名が出てきて、それぞれが違ったデザインの、スソが広がっているスカートのドレスを着ていて、動いていました。ずっと、4分の4拍子の音楽の、1拍子のところで動き続けていました。音楽はゆったりした速さの曲です。女性のソロや、2名ずつが踊ったりして、次々に入れ替わって続いていきました。男性が女性をリフトするところも組み合わせていて、男性1人が女性1人をリフトして上にかついで去っていったシーンもありました。また数名の女性がでてきて、そこに男性3名も出てきて、男性が女性をリフトして、右から左へと少しずつ動かしていき、去っていきました。何度かそのように、3組から4組くらいの数組の男女ペアが、同時に舞台上で、男性が女性をリフトして上にかついだ状態で動き、移動していく踊りが重ねられ、繰り返されていきました。
女性ダンサーたちの間に、男性4名が出てきて、ジャケットを1枚ずつ4名の女性に渡して去って、女性ダンサーたちはそのままゆっくり身体を上下に動かしながら、歩き続けて進んでいるところで幕を閉じました。

三つめの演目は『オデッタ』で振付はマシュー・ラシングです。今回が世界初演で、この作品が一番の見所だと思います。音楽は、Various Artists: Performed by Odettaです。全て、オデッタが歌っている10曲で構成され、メドレーのように1曲ずつ流れていきました。オデッタ(Odetta F Gordon)は、日本ではオデッタ、またはオデッタ・ゴードンという名で知られています。1930年アラバマ州生まれのアフリカ系アメリカ人女性のフォーク歌手、キーボード奏者、ギター奏者、作詞作曲家、人権活動家です。(2008年に永眠)マーティン・ルーサー・キング・ジュニアがオデッタを"アメリカン・フォークミュージックの女王"と呼びました。

『オデッタ』photo/Steve Wilson

『オデッタ』photo/Steve Wilson

アメリカで影響力の大きいオデッタを題材に、ラシングがダンス作品を作りました。アフリカ系黒人ダンサーが多いアルヴィン・エイリーならではの個性が際立っていました。
最初の曲は "This Little Light of Mine" で、スキンヘッドの女性ダンサーのアクア・ノニ・パーカーがソロで踊り始めました。衣装はワンピースのドレスです。ラテンっぽいリズムの音楽に乗って、ラテンのステップで踊りました。そして全部で男女11名のダンサーが登場、男性は普段着、女性はロングスカートのドレスでした。
次に、別の男性のソロの踊りが始まりました。周りで全員がその踊りを見守り、手拍子をつけていました。結構、長い踊りでした。
全体に、踊りは土着的な動きで、感情を込めていて、魂をわしづかみにするような力強いものでした。独特で、個性的な踊りです。舞台後方には、アフリカ系の抽象画のスライドが映されていて、その画面は時々、変わって行きました。

『オデッタ』photo/Steve Wilson

『オデッタ』photo/Steve Wilson

みんな去って、男女ペアが、それぞれバケツのようなものを持ってきて、歌詞、歌に合わせてジェスチャーをし、演劇風の踊り、動きをしました。これは、"A Hole in the Bucket"です。男性はつぎあての多いボロボロの服を着ていました。昔の南部の奴隷制の頃のストーリーでしょうか。2人はボロを身にまとい、バケツを使いながら楽しそうに明るく踊っていました。オデッタが昔歌っていた頃の、古い時代のアフリカ系アメリカ人の物語を現代に表現しているものだと思います。今見ても、このような時代があったのかと思うと、なんだか物悲しいシーンでした。
女性6名が出てきて、そのあと後ろに男女10名がでてきて、長い木でできたような、ベンチのようなイスに座ったりして、そのベンチ風の長イスを使って、演技と踊りが半々くらい混じったような動きをしました。このシーンもよく印象に残っています。皆がそれに座って、ゆれたり、立ち上がったり座ったりしていました。やがて男性がソロでゆっくり動きました。
その長イスの上で、男女ペアの踊りがあり、周りでは9人のダンサー達が座っていました。みんな一列に前に並んでしばらく痙攣してるような動きをしました。
男性5人が1人ずつでてきて、同じ踊りをしながら前に進んでいくところもありました。

最後はみんな去って女性がソロで踊り、それを別の女性が立ったままじっと見ていました。ハレルヤのような歌が流れていて、踊っている女性は上を見上げて天に祈るような動きをしました。
別の女性ソロの踊りは、伸びやかな動きで自由な雰囲気の踊りでした。やがて皆出てきていっせいに踊り、迫力がありました。最後は女性1人をリフトしてみんなで持ち上げてから中央に下ろし、片手を上に上げて祈るようにし、そこで幕が閉じました。
(2014年12月28日夜 ニューヨーク・シティ・センター)

『オデッタ』photo/Steve Wilson

『オデッタ』photo/Steve Wilson

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