ニューヨーク・シティ・バレエのウィンター・シーズン、楽しかったオール・バランシン・プロ

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

"Donizetti Variations "" La Valse "" Chaconne " by George Balanchine
『ドニゼッティ・ヴァリエーションズ』『ラ・ヴァルス』『シャコンヌ』ジョージ・バランシン:振付

1月20日から3月1日まで、ニューヨーク・シティ・バレエのウィンター・シーズンの公演が、リンカーンセンターのDavid H. Koch Theaterで行われました。
私は2月28日夜の公演を見しました。ジョージ・バランシン振付の3つの作品が上演されましたが、印象に残った2つの作品をレポートします。

『ドニゼッティ・ヴァリエーションズ』は1960年初演の作品です。音楽は、オペラの作曲家ガエターノ・ドニゼッティで、『ドン・セバスチャン』からのものです。出演したプリンシパルはアシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルースでした。
コール・ド・バレエの男性1人、女性2人のトリオが3組出てきて、それぞれ手をつないで、ゆったりした速度の音楽で踊り始めました。衣装はパステルカラーで、女性たちは薄い生地のパニエのドレスと、男性たちはタイツとフワッとしたシャツとベストの組み合わせで、クラシカルなものでした。次に1組目の女性2人が短く踊って後方へ戻り、また次の女性2人組が前に出てきて踊り、入れ替わりながら3組目の女性2人も踊りました。そしてこの女性たち6名全員が同時に、同じ振付で踊りました。入れ替わって、男性3人も踊りました。
次に、プリンシパルの2人が出てきて、短いパ・ド・ドゥを踊りました。またコール・ド・バレエがでてきて、女性3名ずつのグループ、男性3名のグループで次々に順番に踊りました。このように、コール・ド・バレエとプリンシパルのパ・ド・ドゥが何度か交互に入れられて展開していきました。

『ドニゼッティ・ヴァリエーションズ』アシュレイ・ボーダー Photo/Paul Kolnik

『ドニゼッティ・ヴァリエーションズ』
Photo/Paul Kolnik

パ・ド・ドゥでは、ボーダーはとても軽やかに、楽しそうに踊りました。技術的に高度で、重心が安定していて体の軸がびくともしませんでした。一つ一つの動きが細かい指先まで正確で丁寧です。それでいて、メリハリがすごくある踊り方で、軽々として、動きに余裕があります。ヴァリエーションでは、デ・ルースは飛び跳ねる踊りが多かったです。ダブル・シャンディマンをしながら空中で前、後ろ、前・・・と身体の向きを変え続けて周っていったところでは、拍手が起こりました。次にボーダーは、ピルエットで前に進みながら、合間にシェネとアラベスクを入れつつ移動し続けていきました。そしてデ・ルースは、片足をパッセのまま下に一度も下げずに、軸足だけかかとを上下に動かしながら、ピルエットをし続けて、しかもその速度をどんどん速めていきました。ここでも大きな拍手が起こりました。再び2人で踊ってポーズを決めると、すごい拍手でした。
それからもコール・ド・バレエとプリンシパルペアの踊りが交互に続きました。
最後は全員でフィナーレ。同時に踊ると迫力があり、盛り上がりました。その盛り上がりの最中に、ボーダーとデ・ルースはポーズを決めて、ボーダーは最後に180度開脚してグラン・アラベスクを決めて静止したまま、デ・ルースが支えて、そこで幕を閉じました。

『ラ・ヴァルス』は1951年初演の作品です。音楽は、モーリス・ラヴェル。出演したプリンシパルは、スターリング・ヒルティン、ジャレド・アングルです。後半のワルツのシーンでは、もう一人、アマール・ラマサールも登場します。
舞台後方の空間に、星飾りのような細かいライトがたくさんついている大きめの飾りが7個、浮かんでいて、その前に黒くて薄い透ける生地の幕のようなフワッとしたスクリーンがかけられていました。
女性3名が出てきて、ゆったりと踊り始めました。衣装は黒と鮮やかなピンクのロングパニエのドレスです。髪型は全員、ポニーテールでした。最初、エジプシャンのような動きをしばらくしていました。3人はパ・ド・ブレを細かくしながら移動を続けて上半身と手を優雅に動かし、オルゴールの人形たちが重なって動いているようでとてもきれいなシーンでした。
男女ペアのパ・ド・ドゥが何組か、入れ替わりで続きました。男性たちは黒いタイツと上着でした。

『ラ・ヴァルス』Photo/Paul Kolnik

『ラ・ヴァルス』Photo/Paul Kolnik

プリンシパルのヒルティンとアングルが短かいパ・ド・ドゥを踊りました。白っぽいドレスのヒルティンは、静止したりゆっくり動く振りが多かったです。2人が会話ややりとりを演技しているような踊りでした。やがて後ろにかかっていた黒い薄い生地の幕が開きました。
急に不安な感じの、不協和音の音楽になり、男女ペア3組が踊り始めました。やがてそこに次々とダンサーがさらに出てきて、男女のペア8組が踊りました。バレエベースの、オーソドックスな踊りでした。
女性10人が踊っているところにさらに8人でてきて、そこに男性も8人、大勢で踊りました。時々ペアになったり離れたりして動き、大人数で迫力がありました。ワルツに乗って、ボールルーム・ダンスの様な踊りでした。真ん中に、ヒルティンとアングルが出てきて、楽しそうに社交ダンスのように豪華にパ・ド・ドゥを踊りました。
舞台後方中央から黒づくめの衣装の男性が、お付の者と一緒に現われ、異様な空気をかもし出し始めました。これは大柄のラマサールで、肌が褐色で巧みな悪役の演技でした。するとヒルティンは立ちくらみ始めヨロヨロとしてきて、ラマサールの近くまで引き寄せられていきました。そして周りの大勢のダンサーたちもアングルも、『眠れる森の美女』のように魔法がかかったかのような様子で、身体を動かさないまま止まっていました。ヒルティンだけが動けます。
2人で踊り始めましたが、ヒルティンは自分の意思には反している様子。そこでラマサールはお付きの者が差し出す黒い首飾りをヒルティンの首にかけました。次にまた黒の薄い生地の長手袋を取り出してヒルティンに着けさせました。さらに黒い薄い生地のワンピース・ドレスを取り出して、ヒルティンの上からかぶせるように着せました。2人は速いパ・ド・ドゥを踊り、ヒルティンは気を失ったかのように床に倒れ込みました。
その時、周りで動けないで止まっていた人々がわれに返り、動き始め、ヒルティンが倒れているのを見つけて大騒ぎし始めました。ヒルティンは動かず、みんな速いテンポで大騒ぎして踊りました。
動かないヒルティンを肩、腰、足首の3箇所を、男性3人が上に持ち上げて回転させているところで、幕が閉じました。華やかで豪華、明暗のあるクライマックスもあり、神秘的で面白かったです。
(2015年2月28日夜 David H. Koch Theater)

『シャコンヌ』サラ・メアンズ、ラッセル・ジャンセンPhoto/Paul Kolnik

『シャコンヌ』サラ・メアンズ、ラッセル・ジャンセン Photo/Paul Kolnik

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