マーフィーとホワイトサイドが踊ったABT創立75周年記念公演『くるみ割り人形』

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

" The Nutcracker " Choreography by Alexei Ratmansky
『くるみ割り人形』アレクセイ・ラトマンスキー:振付

12月12日から21日まで、BAMにてABTの『くるみ割り人形』の公演がありました。
毎年、クリスマスが近づくとバレエ『くるみ割り人形』を必ず1公演は観ています。何度観ても、美しくて素晴らしい作品で感動します。チャイコフスキーの音楽、オーケストラの演奏、豪華できらびやかな舞台セットと衣装、踊りが合わさって、壮大な芸術作品になっています。毎回、この作品を観終わった後は、2週間くらいの長期間、雪と夢のキラキラのシーンと音楽、踊りが目に焼きついていて思い出し、幸せな余韻が続きます。古典作品なので大まかな部分は同じですが、それぞれのバレエ団と芸術監督によって演出と振付が少しずつ異なっていて、個性があります。

クララとくるみ割り人形の少年  Photo: Rosalie O'Connor.

クララとくるみ割り人形  Photo: Rosalie O'Connor

ABTは創立75周年記念(1940年〜2015年)です。
このABTの演出では、主人公のクララとくるみ割り人形は主に子供が演じています。後半に、大人のクララとザ・プリンセス、くるみ割り人形とザ・プリンスも登場して踊ります。大人のクララ役はジリアン・マーフィー、くるみ割り人形のプリンスはジェームス・ホワイトサイド、金平糖の精はジョーン・ジン・ファーン(ZHONG-JING FANG)でした。

1回の休憩をはさんで、2幕で構成されていました。
ABTでは、メイドさんたちがパーティーの準備をしている台所のシーンから始まります。両親と子供たちが様子を見に来て、料理を確認してつまみ食いをしました。その後、夜になると台所にネズミたちがたくさん出てきて、料理や食べ物をあさっていました。みんな可愛いネズミの着ぐるみを着ているので、客席はクスクスと笑って和んでいました。
パーティーのシーンでは、大勢の親子が招待されてやってきました。ドロッセルマイヤーがプレゼントの箱を持ってきて、2つの箱を順番に開けると、中から男女2人の人形たちが現われました。箱を1つずつ開けて、1組ずつ踊りました。トランプ柄の男女の人形は、完璧な踊りでした。
クララはドロッセルマイヤーから、くるみ割り人形をプレゼントされましたが、周りの男の子たちにそのくるみ割り人形を壊されてしまいます。クララはソファーで、人形を抱いてなでていました。
パーティー後の夜に、クララがソファーでくるみ割り人形を抱いたまま寝てしまったシーンでは、夜中の12時の鐘が鳴ってから、マリーが人形たちと同じくらいの小さな大きさになってしまうところを、舞台セットのイスが天井くらいの高さの巨大なものに代わることによって表現しています。

「くるみ割り人形」 Photo: Rosalie O'Connor

Photo: Rosalie O'Connor

おもちゃの兵隊とくるみ割り人形はネズミたちと戦って、ネズミの王様を倒しました。少女クララとくるみ割り人形の少年の後ろで、大人のクララとくるみ割り人形の王子が踊りました。
そして雪の精の踊りです。白っぽいキラキラした衣装の女性ダンサーが6人ずつのグループで出てきては去り、また出てきて、だんだん人数が増え、24人くらいで踊っていました。大勢のコール・ド・バレエは迫力がありました。さすがABTダンサー、一人一人のレベルも高く、美しいシーンは圧巻です。何度見ても、一番印象に残る踊りのシーンです。
やがてだんだんと寒くなり、クララとくるみ割り人形の少年は凍えそうになりました。

雪の精の踊り  Photo: Rosalie O'Connor

雪の精の踊り  Photo: Rosalie O'Connor

第二幕は、お菓子の国のシーンです。歓迎の宴のために大勢が出てきて、金平糖の精がクララとくるみ割り人形の少年を迎えました。
スペインの踊り、アラビアの踊り、中国の踊り、ロシアの踊り、ジンジャー母さんと道化たち、花のワルツとミツバチたちの踊りが次々に続き、宴が展開されていきました。
ABT版では、花のワルツの大勢の女性たちに加えて、タキシード風の黒い服を着て頭にミツバチの触覚のついたかぶり物をつけた4名の男性たちが時々出てきて、ちょろちょろと飛んだり踊ったり間をぬっていきます。味を醸し出していて、笑いを誘い、良いアクセントになっていました。花のワルツのコール・ド・バレエの女性たちは20名で、大人数で重なりながら舞台いっぱいに広がって踊るので、迫力があり、美しかったです。ミツバチの男性たちは、途中で花の女性たちをリフトするところもあり、対角線上に向かい合って、女性を上に放り投げてもう一人が受け取り、しばらく交互に続けました。ここでも拍手が起こりました。
宴が終わり、少女クララとくるみ割り人形の少年の2人の後ろに、大人のクララとくるみ割り人形のプリンスの姿が現れて、同時に舞台上に存在し、だんだんにお互いに近づいて入れ替わり、大人のパ・ド・ドゥが始まりました。
やっと山場、見どころの大人のクララ(マーフィー)とくるみ割り人形のプリンス(ホワイトサイド)のパ・ド・ドゥも、素晴らしかったです。リフトでマーフィーが持ち上げられたまま、前に歩いてきて、いくつものポーズを次々に決めて止まり、お辞儀をするとすごい拍手でした。それぞれのソロのヴァリエーションもさすがでした。マーフィーは明るく、可憐な踊りをします。

ジリアン・マーフィー、ジェームス・ホワイトサイド  Photo:Rosalie O'Connor

ジリアン・マーフィー、ジェームス・ホワイトサイド  Photo:Rosalie O'Connor

フィナーレでは宴に出演していた皆が出てきてにぎやかでした。
ABTの演出では、最後はクララが自分の家の小さなベッドで寝ているシーンに戻り、目を覚ますと、くるみ割り人形のプリンスが近くに立っていて、クララが手を伸ばすとさっと消えてしまいます。反対側にはくるみ割り人形の少年が立っていたので、またクララがそちらへも手を伸ばすと、こちらもさっと消えてしまいました。すべてクララの夢の中での出来事のような設定で、今までの宴は幻っだったかのような終わり方でした。クララは泣いてしまい、ベッドの上でくるみ割り人形を抱きしめてゆすり続けました。その時ベッドの側の窓の外からは、ドロッセルマイヤーがクララをやさしく見つめていました。そこで幕を閉じました。
(2014年12月12日晩 BAM)

ページの先頭へ戻る