ニューヨークの冬一番の風物詩、NYCBの『くるみ割り人形』60周年記念公演

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

George Balanchine's " The Nutcracker " 60th Anniversary
ジョージ・バランシン振付『くるみ割り人形』60周年記念

11月28日から1月3日まで、リンカーンセンターのDavid H. Koch Theaterにて、ニューヨーク・シティ・バレエ『くるみ割り人形』の公演が行われました。この舞台は1954年2月に初演され、今回は60周年記念公演です。豪華絢爛で大掛かりな舞台セットで、おとぎの国に迷い込んでいるような夢心地を楽しめます。音楽はオーケストラの生演奏です。
ニューヨークの冬の風物詩として長年の間、毎年、ニューヨーカーはもちろんのこと観光客にも愛されてきました。チケットは完売の日が多く、いつも満員です。
私が観劇したのは、12月9日夜の公演です。4つのシーンとプロローグ、2幕、休憩1回で構成されています。
金平糖の精はローレン・ロベット、相手役の男性ダンサーはチェース・フィンレイです。デュードロップはサラ・メアンズです。クリスマス・イヴのパーティーを主催しているシュタールバウム家の主人のドクター・シュタールバウムは、アスク・ラ・コールです。NYCB版では、クララにあたる少女はマリーとして登場し、主人公の少女マリー(リトル・プリンセス)とリトル・プリンス(くるみ割り人形)は小さな子供が演じています。今回は、幼いマリーとその兄フリッツの役は、今までは白人の子供が演じることがほとんどでしたが、今回はアジア系の子供たちでした。

最初は音楽の演奏だけが流れ、舞台上に空から見降ろした街と風景画の背景がいっぱいに広がっていて、空に羽のついた女神様が飛んでいて流れ星が流れている絵があるシーンから始まりました。
クリスマス・イヴのパーティには、両親に連れられて大勢の子供たちが招待されていました。黒い長いマントを羽織った怪しい雰囲気のドロッセルマイヤー老人がやってきて、大きなプレゼントの箱を3個持ってきて、順番に開けていきました。左右の箱を開けると、それぞれから1体ずつ2体の等身大の人形がでてきて、人形っぽくカクカクと少し踊りました。真ん中の、3個目の箱の中からくるみ割り人形が1体でてきて踊りました。マリーはそのくるみ割り人形をクリスマスプレゼントにもらいました。
でもそのくるみ割り人形はフリッツ(マリーの兄)たちに壊されてしまい、ドロッセルマイヤーが人形に包帯のようにスカーフを巻いてくれました。おじいさん、おばあさんの踊りも、体があまり自由がきかないぎこちなさを表現していて可愛かったです。

金平糖の精/ブリタニー・ポラック Photo/Paul Kolnik

金平糖の精/ブリタニー・ポラック
Photo/Paul Kolnik

楽しかったイブのパーティが終わり、皆帰った後、夜中にマリーは寝間着で出てきて、くるみ割り人形を抱いたままソファーで眠ってしまいました。大きな時計の針が夜8時ごろを指しているあたりから、ドロッセルマイヤーが時計の上に乗って黒いマントをかけてパタパタとはためかせると、時計の針がぐるぐると回って時間が早く進んでいきました。大きなネズミたちが出てきて行き交い始め、夜中の12時の時計の鐘が鳴ると、くるみ割り人形とおもちゃの兵隊がでてきて、側にあるクリスマスツリーがどんどん伸びて巨大になりました。この時、客席ではすごい拍手が起こりました。マリーが小さくなっていき、人形やネズミたちと同じくらいの大きさになるという設定です。このNYCBのクリスマスツリーの装置は巨大で大掛かりなもので、名物となっています。
ネズミたちとおもちゃの兵隊、くるみ割り人形は激しく戦いました。頭が7個ついているハツカネズミの王様をくるみ割り人形が倒して、王冠を奪いました。場面は、雪の降る外の庭へと変わっていき、マリーの小さなベッドが移動していきました。くるみ割り人形はその仮面を外して、手に持っていた小さな王冠をマリーにプレゼントして頭に着けてあげました。2人はそのまま舞台袖に去っていき、ベッドも消えました。

次は一番の見どころといっても良い、雪の精の踊りのシーンで16名のコール・ド・バレエが踊ります。音楽の素晴らしさと相まって、衣装もすばらしく、背景の舞台装置や吹雪も白く美しくて幻想的です。白いキラキラした長めのパニエを着た雪の精たちが一人、また一人と出てきて、少し踊っては去っていき、また出てきて繰り返していき、踊りながらだんだん人数が増えていきました。両手には左右それぞれ5本ずつ、棒の先に白いポンポンのついたものを扇子状に広げて持って踊りました。NYCBの雪の精の衣装は、このポンポンを持つところが特徴です。吹雪が激しくなっていき、雪の精たちは次々にシェネでずんずん前に進んで通り過ぎて行きました。スピード感のある踊りです。
マリーとくるみ割り人形の少年がでてきて、後ろへ二人で歩いていき、そこで第1幕は閉じました。

雪の精の踊り Photo/Paul Kolnik

雪の精の踊り Photo/Paul Kolnik

第2幕は、お菓子の国のシーンです。ここも有名な踊りがたくさん出てくるので、見どころが満載です。
金平糖の精は右手にコメットを持って踊りました。小さな少年少女の可愛い天使たちや、大勢のお菓子の精たちがでてきて、歓迎の宴が始められます。マリーとともにお菓子の国に到着したくるみ割り人形の少年は、金平糖の精にジェスチャーでネズミの王と戦って退治したストーリーを伝えました。
ホット・チョコレート(スペインの踊り、ボレロ)、コーヒー(アラビアの踊り)、お茶(中国の踊り)、キャンディー・ケーンズ(フラフープを使った、男性のアクロバット)、マジパン(葦笛の踊り)、ジンジャー母さんと道化たち、デュードロップと花のワルツの踊りが次々に続き、宴が展開されていきました。衣装も音楽も素晴らしく、笑わせたり、アクロバットで驚かせたり、バラエティーに富んでいる楽しいシーンです。
特にコーヒー(アラビアの踊り)は、女性のソロで、難度が高い踊りです。NYCBでは歴代、手足がとても長く美しい女性ダンサーが踊ります。最後は床に足をだんだん縦に開いて着けていき、180度開脚してポーズをとり静止して終わります。すごい拍手でした。
マジパン(葦笛の踊り)は、花と小鳥のようなイメージで、女性ダンサー5人によるかわいらしい踊りです。
花のワルツは大勢の女性たちの踊りで、迫力があり美しいシーンです。コール・ド・バレエ12名とソリスト2名で、淡いピンク色の3段の長めのチュチュを着ていて、華やかです。デュードロップはミニ丈のチュチュを着て頭にティアラを着けていました。最後、みんなで静止してポーズを決めて終わるところは、きれいに決まりました。
クライマックスの大人の金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥは、かなり長いシーンでここも見どころです。
ロベットがアラベスクをして静止したままのところをフィンレイが1メートル以上横へ引きずって、引っ張って移動させました。フィンレイはとてもジャンプが高く、身軽です。ロベットはピルエット、エシャッペを繰り返し、連続で回転しました。そして踊りは長く続き、2人はポーズを決めて終わり、お辞儀をしました。美しくてすばらしい踊りでした。
フィナーレでは、宴の出演者が皆でてきて、順番に短く踊りました。壮大で豪華なフィナーレです。最後はマリーとくるみ割り人形の少年が2匹のトナカイのソリに乗って、ソリごと宙に浮いていく大掛かりな装置で、空中を天へ向けて昇っていっているところで幕が閉じました。幸せな余韻が残るハッピーエンドです。
(2014年12月9日夜 David H. Koch Theater)

「くるみ割り人形」Photo/Paul Kolnik

「くるみ割り人形」Photo/Paul Kolnik

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